中国では不動産不況が深刻化し、中国の民間大手不動産会社「恒大集団」や民間最大手不動産会社「碧桂園」などの大手企業が相次いで経営危機に陥っている。中国には約10万社余りの民間住宅開発不動産会社があったが、そのほとんどが倒産や経営危機に陥っていて、現在、国営の不動産会社があるだけとも言われている。
不動産関連産業は中国の国内総生産(GDP)の3分の1以上を生み出してきていて、その不況は中国経済全体を揺るがしている。不動産産業は、建築、鉄鋼、セメント、木材などだけでなく、家具、家電など実に多くの産業分野にも影響を及ぼすことともなっている基幹的な産業とも言える。
日本でも1980年代に不動産バブル、そして1990年代初頭の不動産バブルの崩壊を経験しているが、中国の不動産バブル崩壊が与えている社会・経済、人々の暮らしへの影響の深刻さは日本のバブル崩壊の比ではない。それはなぜなのか‥‥。その理由の大きなものは、中国の土地は全て国家所有であることと、地方政府(省市町村など)の財政(財源)はこの土地を不動産開発会社に売る(※借用させる)ことによって得ている割合が平均40%に達していたことに関連する。
不動産バブルの崩壊がいよいよ、2020年頃から顕在化したため、地方政府(自治体)の財源がこれまでのように確保できなくなり、公務員(学校の教員を含む)の給与もまた支払いが難しくなってきているという状況が多く生まれてきている。(※日本の不動産バブル崩壊では、このようなことまでは起きなかった。)
中国の住宅はかっては、国や地方政府(自治体)から配給されるで暮らすものだった。それが1990年代に入り、住宅の自由売買を認めるという法改正があって、それから住宅(不動産)は売買の対象となった。だから、中国の不動産産業の歴史は30年ほどの歴史しかないとも言える。(※土地は全て国家所有なので、国民は国家から土地を借りて[借地使用権]、そこに建物を建てて暮らすというシステム。その「土地使用権」の使用年限は、次のようになっている。➀「住宅用地」70年、②「工業用地」50年、③「教育・技術・文化・衛生・スポーツ用地」50年、④「商業・観光・レクリェーション用地」40年、⑤「総合及びその他の用地」50年‥‥使用権の延長は可能。その際は、新たに土地使用権のお金を払う必要がある。) 中国では「不動産」は「房地産」と書く。「房」は建物、「地」は土地のことである。
1991年から始まった中国の不動産市場は、2001年頃から不動産市場はより急成長、特に2008年からは不動産は投機の対象となり、不動産価格が高沸騰、「買えば、翌年にはより高く売れる。翌々年にはさらに高く売れる」という状況となり、いわゆる空前の不動産バブルが到来することとなった。(※これによりかなりのお金を儲け、貯めこんで金持ちになった人々もけっこう多かったとされている。)その不動産バブルは約20年間余り(特に2008年からの10年間)続いたのだが、2018年頃から陰(かげ)りが顕在化し、ついに2020年頃から一気に不動産バブル崩壊へと入ることとなった。(※中国政府の民間不動産会社への銀行融資厳格化政策の発表により、恒大集団をはじめとする不動産企業り倒産や経営危機が雪崩(なだれ)のように起き始めた。
この不動産バブル崩壊、不動産超不況により、それまで、民間の不動産会社に膨大な金額での土地使用権を認め、高層住宅を建設させてきた地方政府(各市町村自治体)の財源も、大きく減少せざるをえなくなり、公務員たちの給与支払いもこれまでのようにはいかなくなってきたようだ‥。
この7月17日(水)に報道された、BSフジテレビの報道番組「プライムニュース」。この報道番組のメインキャスターである反町理氏はかなり優れたキャスターだと思うが、この日のテーマは「中国"〇〇"のシナリオ—習近平政権に巣くう"病巣"とは」。そしてこの日の報道ポイントは「1、経済急ブレーキで"不満噴出"、2、習近平"〇〇体制"の自縛、3、"チャイナリスク"に日本は」とされていた。
この日のコメンテーターの、柯隆(か・りゅう)氏[中国南京出身、東京財団政策研究所主任研究員・静岡県立大学特任教授]は、現在の日本での中国経済研究者としては第一人者かと思われる人物。江藤名保子氏(学習院大学教授)は現代中国政治の研究者として優れている人物だ。
現在の中国で起きていることを、テーマやポイントにそって報道されていた。この7月15日~18日に開催された「中国三中全会」についてもふれ、今後5年から10年後の中国の政治・経済がどうなっていくのかの予測コメントもされていた。(※中国の2024年6月大学卒業生の就職内定率は、約48%[※4月中旬時点/中国人材会社報告]との報道もされていた。また、中国習近平政権が抱える国内問題として、「地方財政の危機・不動産バブル崩壊・国外逃避と富の流出・若者の超就職氷河期」などが挙げられていた。
私が日ごろよく視聴するYoutubeの一つに、「中国まる見え情報局」というものがある。このYoutube報道は、中国広東省広州市で働き暮らす呉さん(若い日本語が堪能な中国人女性)が発信しているYoutube。いろいろなテーマで、今の中国のことを報道している呉さん。(※呉さんにとって難しい経済の問題などは、中国人のコメンテーターを迎えて、呉さんがその人に聞くというスタイルをとっている。)
5月上旬に視聴した「卒業すると即失業」というテーマの彼女のYoutube報道では、コメンテーターが「100人卒業したら35人~40人が就職できるかもしれない‥」「経済が悪いこともありますが、中国の就職の仕組みと現在の教育制度が一致しなくなっているから‥」「一番多かったのは公務員試験を受けたい人が50%を超えている‥40%の人が大学院生になりたがっていて、一番少ないのが就職したいです‥働くにしても50%の人はフリーター(デリバリー配達員・ライブYoutube配信、屋台‥など)を選ぶ‥」「2024年6月の卒業生はおよそ1100万人」と報告もしていた。
私も昨年2023年に、中国河南省のある公立学校で長期の給与未払い問題が起きているようだというニュースは、なんとなく聞いた記憶はあった。今回7月上旬に日本に帰国して、改めてYahoo japanで検索して、「中国での公立学校での先生や公務員への給与未払い・減額問題」などについて調べてみたら次のような記事が掲載されていた。
①「中国の地方公務員"半年給料ない"不動産不況で財政悪化」と題された記事。遼寧省の瓦房店市の市営公園の動物飼育小屋に、市職員によって張られた「我々は6カ月給料がない。動物のエサは尽きた。まもなく飢え死にする」とのメッセージ。(2023年12月の記事) ②「河南省の三門峡市のある小学校、長期にわたって給与が払われないため、教師34人がハンガーストライキ」の見出し記事。(2023年5月の記事)
③「江西省南昌市の小学校・中学校・高校の教師数百人が省(市)政庁舎前にて集会」の見出し記事。他に、河南省の洛陽市や開封市、山東省や江西省景徳鎮市などでの給与未払い問題の記事などが掲載されていた。
私が日本に今回帰国する一週間ほど前に、中国人たちと話している時、「私たちが住んでいるここ福建省の省都・福州市でも、公立の小中高校の先生たちの給料未払いや遅延、または給料の半額支給措置などが現在、起こっていますよ」と聞いたときはとても驚いた。「ここ福州でも、起きているの!!以前に河南省でそんな問題が起きたと耳にしたことはあったけど、ここ福州でもか‥」という感じだった。中国の一部地方だけでなく、このような公務員や学校の先生たちへの給与支給問題が、全国的に起きているのかもしれないなあ‥とも思った。それほど、中国の経済問題の深刻さがあるんだとも実感として考えさせられた。
■このような給与未払いや大幅減額が起きているにも関わらず、現在の中国では、公務員や公立学校教員への就職希望者が激増している。民間企業では、どんなに有名で大きな会社であっても、いつリストラされるが不安が大きいからかと思われる。(※公務員や公立小中高教員は、リストラの危険性が最も小さいから‥)
■2024年6月大学卒業生を対象にした国家公務員試験「国考(グオカオ)」は、昨年2023年10月~11月にかけて実施された。この試験を受験したのは過去最高の約303万人。実に卒業予定者の3人に1人超だ。平均倍率は77倍で、最も競争率が激しい職種では3572培となったと報道されていた。また、大学卒業後の就職の厳しさを回避するためもある大学院進学希望者も近年は激増している。昨年2023年では約400万人が受験、そのうち約130万人がどこかの大学の大学院に合格している。
■前出の柯隆氏は、「年金支給」も今後、大幅減額や支給休止措置が起きる可能性も指摘している。
■このような社会、経済状況のため、中国の有名大学を出ても‥という不安感もあり、日本などへの大学院進学希望者も増えてきているし、日本で就職してみたいという希望者も増加しているようだ。
■中国政府は、今回の「三中全会」で、このような中国の経済状況打開の具体策はあまり明確に示さなかったと、日本の報道番組では報道されている。習近平主席の提唱する「共同富裕」(※私はこの提唱・考え自体は賛成なのだが‥)に向けて、現在の不動産不況や大学生の就職問題、公務員の給与問題などは「生みの苦しみ」として、中国人民に宣伝を強化することなどもこの「三中全会」では盛り込まれたとも日本のテレビ報道ではされていた。向こう10年間余り先の2035年までに、習近平政権としては、より社会主義的な人民の経済的不公平をより是正する「現代的社会主義社会」の実現を目指すとの方向性のようだ。さて、どうなっていくだろうか‥。