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毎日の暮らしの中にある大好きなもの、こと、出合(会)いなどについての気まま日記

狂乱廿四孝

2010-04-13 08:56:53 | 読書
第六回鮎川哲也賞受賞作品。
ずっと気になりながらも時代物はちょっと、と後回しになっていた。
しかし、最後の作品「うさぎ幻化行」を読み終えた後、同じことを考える人がいるものだからと、あわてて図書館へ借りに行く。
書庫の中から出してもらう。
いつ行っても見かけることがなかったはずだ。

明治初期の悲運の女形「田之助」という実在の人物を題材に書かれた梨園ミステリーだ。
一枚の幽霊が語る、長く思い出すだけで憂鬱になる事件。
これが北森さんのデビュー作となるのだけれど、後の作品に続くまさに原点がここにあった。

八丁堀の料亭「八百膳」の献立は、先付けに鯉の肝を薄く煮立てて柚子醤油をかけまわした小鉢、子付に大根おろしに糸のように細く切った沢庵を・・・
シズル感あふれる料理の描写はこの頃からだったのだ。
歌舞伎の知識は皆無、そして特別興味もなかったのに、読んでいくうちに一度は見て見たいものだと思えてくるから、引きずり込み方が上手いねぇ。
選評によると編集者の前歴があるとのことだった。
なるほど。
明治初期の江戸から東京へと激変した混沌とした時代の有様が、ちょうど「龍馬伝」と重なり興味深い。
「新しい時代がどうの、新政府がどうのと高飛車にかまえたところで、結局は強いものが弱いものにとって替わっただけじゃありませんか」
今も何ひとつ変わってないな。

「狂乱廿四孝」 北森 鴻