(以下、産経ニュースから転載)
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住みやすさ求め提言 共生の街作りパイプ役 (1/4ページ)
2008.12.12 08:00
タイ式あいさつを教える中島スパタラーさん。一緒に手をあげる生徒の姿も=10月9日、埼玉県川越市の市立東中学校(同校提供)タイ式あいさつを教える中島スパタラーさん。一緒に手をあげる生徒の姿も=10月9日、埼玉県川越市の市立東中学校(同校提供)
蔵造りの建物が立ち並び、江戸情緒あふれる埼玉県川越市。まちづくりについて提言し続けている外国籍住民がいる。「川越市外国籍市民会議」。子供たちに海外の文化を紹介する外国人の人材バンクや市内63カ所の避難所に常備されている7カ国・地域の言語の注意書きシートも実現させており、来年で設立10周年を迎える。(高橋裕子)
「日本のあいさつは朝昼夜で違いますが、タイはいつでもサワディー。簡単でしょう。言葉はそんなに必要じゃない。気持ちがあればいい」
市立東中学校の教室で、タイ出身の中島スパタラーさん(41)はこう語り、両手を合わせてタイ式あいさつでにっこりほほ笑んだ。思わず一緒に手をあげる生徒も。
中島さんは人材バンク「外国籍市民国際人材ネット」の登録メンバーだ。この10月、総合学習の講師として招かれた。
14年前に来日した中島さんがこの人材バンクに登録したのは「出稼ぎや水商売のイメージだけでなく、誇りに感じているタイ文化を伝えたかった」ためという。「生徒から『両親にも礼儀正しくあいさつしなければならないと思いました』という礼状をもらったことがうれしかった」
外国籍市民会議が設立されたのは平成11年にさかのぼる。中国、タイ、ドイツなど出身地の異なる9人をメンバーに活動。小中学校に外国文化の“出前授業”をする人材バンクを17年にスタートさせた。現在、中国、タイ、米国など9カ国・地域19人が登録している。
災害時、避難所での共同生活で、日本語を解しないために起こるトラブルを避けるため、トイレの使い方やゴミの分別などの注意を7カ国・地域の言語で説明したり、イラストを指さしすることで意思疎通できるシートを作った。市の「目安箱」の英文表示や外国籍市民相談、日本語教室、市広報の英語版「コエド・カワゴエ・ニュース」の発行など、会議の提言で実現した政策は数多い。
発足当初から代表を務める米国籍で東京国際大(川越市)教授、ベーリ・ドゥエルさん(59)は「外国人が生活する上で感じている不便さを市が気付いていないこともある。会議は外国籍市民と行政のパイプ役」と話す。
川越市の外国人登録者は4555人(19年末)。市民の約1.4%でけっして多くはないが、年間3万1000人の外国人観光客が訪れる。市国際交流課は「外国人の住みやすいまちにすることは、訪れた人の役にも立つ」と期待を込める。
外国人が増え、摩擦も起きる。しかし、「共生」から得るものは、はるかにそれを上回る。
移民研究を続ける日系ブラジル人3世で武蔵大社会学部のアンジェロ・イシ准教授(41)に外国人との共生について聞いた。
◇
私は「在日ブラジル人1世」だと思っている。「われわれも日本社会の一員と認めてほしい」という意思表示であり、同じ決心をした外国人は確実に増えている。在日外国人と日本人との結婚も増え、いまや「お隣は外国人」どころか「家の中にも外国人」という状況だ。
しかし、昨年始まった入国時の顔写真と指紋提供は、私のように一般永住者で日本に18年住み、定職があり、犯罪歴がない者でも毎回求められる。自分が「テロリスト予備軍」なのだと再入国する度に宣告されているようだ。「お隣の外国人」に対してある種の冷たさを感じる。
日本人には外国人をさまざまな可能性を持つ人材としてとらえ直す発想の転換を求めたい。日本人の多くは「1000万人移民構想」に抵抗を感じているようだが、仮に実現しても全人口の1割に過ぎない。日本人といえば島国根性など閉鎖性が強調されるが、祖父母らブラジルへ渡った日本人は 100年前から多文化の中で共生してきた。外国人と「期間限定」でおつき合いする時代は終わった。永続的な近所付き合いへ向けた、日本人の意識改革が問われている。
わが国の外国人労働者政策 かつて余剰労働力を移民としてブラジルなど海外へ送り出したが、経済発展で1980年代から外国人労働者を受け入れる側となった。国は単純労働者をこれまで認めていなかったが、法務省は平成17年、第3次出入国管理基本計画の中で単純労働者の受け入れを「着実に検討していく」と初めて明記。自民党の総裁直属機関「国家戦略本部」は今年6月、50年後に9000万人にまで減ると予測される総人口の減少分を移民で補う「1000万人移民構想」と「移民庁」の創設を提言した。
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住みやすさ求め提言 共生の街作りパイプ役 (1/4ページ)
2008.12.12 08:00
タイ式あいさつを教える中島スパタラーさん。一緒に手をあげる生徒の姿も=10月9日、埼玉県川越市の市立東中学校(同校提供)タイ式あいさつを教える中島スパタラーさん。一緒に手をあげる生徒の姿も=10月9日、埼玉県川越市の市立東中学校(同校提供)
蔵造りの建物が立ち並び、江戸情緒あふれる埼玉県川越市。まちづくりについて提言し続けている外国籍住民がいる。「川越市外国籍市民会議」。子供たちに海外の文化を紹介する外国人の人材バンクや市内63カ所の避難所に常備されている7カ国・地域の言語の注意書きシートも実現させており、来年で設立10周年を迎える。(高橋裕子)
「日本のあいさつは朝昼夜で違いますが、タイはいつでもサワディー。簡単でしょう。言葉はそんなに必要じゃない。気持ちがあればいい」
市立東中学校の教室で、タイ出身の中島スパタラーさん(41)はこう語り、両手を合わせてタイ式あいさつでにっこりほほ笑んだ。思わず一緒に手をあげる生徒も。
中島さんは人材バンク「外国籍市民国際人材ネット」の登録メンバーだ。この10月、総合学習の講師として招かれた。
14年前に来日した中島さんがこの人材バンクに登録したのは「出稼ぎや水商売のイメージだけでなく、誇りに感じているタイ文化を伝えたかった」ためという。「生徒から『両親にも礼儀正しくあいさつしなければならないと思いました』という礼状をもらったことがうれしかった」
外国籍市民会議が設立されたのは平成11年にさかのぼる。中国、タイ、ドイツなど出身地の異なる9人をメンバーに活動。小中学校に外国文化の“出前授業”をする人材バンクを17年にスタートさせた。現在、中国、タイ、米国など9カ国・地域19人が登録している。
災害時、避難所での共同生活で、日本語を解しないために起こるトラブルを避けるため、トイレの使い方やゴミの分別などの注意を7カ国・地域の言語で説明したり、イラストを指さしすることで意思疎通できるシートを作った。市の「目安箱」の英文表示や外国籍市民相談、日本語教室、市広報の英語版「コエド・カワゴエ・ニュース」の発行など、会議の提言で実現した政策は数多い。
発足当初から代表を務める米国籍で東京国際大(川越市)教授、ベーリ・ドゥエルさん(59)は「外国人が生活する上で感じている不便さを市が気付いていないこともある。会議は外国籍市民と行政のパイプ役」と話す。
川越市の外国人登録者は4555人(19年末)。市民の約1.4%でけっして多くはないが、年間3万1000人の外国人観光客が訪れる。市国際交流課は「外国人の住みやすいまちにすることは、訪れた人の役にも立つ」と期待を込める。
外国人が増え、摩擦も起きる。しかし、「共生」から得るものは、はるかにそれを上回る。
移民研究を続ける日系ブラジル人3世で武蔵大社会学部のアンジェロ・イシ准教授(41)に外国人との共生について聞いた。
◇
私は「在日ブラジル人1世」だと思っている。「われわれも日本社会の一員と認めてほしい」という意思表示であり、同じ決心をした外国人は確実に増えている。在日外国人と日本人との結婚も増え、いまや「お隣は外国人」どころか「家の中にも外国人」という状況だ。
しかし、昨年始まった入国時の顔写真と指紋提供は、私のように一般永住者で日本に18年住み、定職があり、犯罪歴がない者でも毎回求められる。自分が「テロリスト予備軍」なのだと再入国する度に宣告されているようだ。「お隣の外国人」に対してある種の冷たさを感じる。
日本人には外国人をさまざまな可能性を持つ人材としてとらえ直す発想の転換を求めたい。日本人の多くは「1000万人移民構想」に抵抗を感じているようだが、仮に実現しても全人口の1割に過ぎない。日本人といえば島国根性など閉鎖性が強調されるが、祖父母らブラジルへ渡った日本人は 100年前から多文化の中で共生してきた。外国人と「期間限定」でおつき合いする時代は終わった。永続的な近所付き合いへ向けた、日本人の意識改革が問われている。
わが国の外国人労働者政策 かつて余剰労働力を移民としてブラジルなど海外へ送り出したが、経済発展で1980年代から外国人労働者を受け入れる側となった。国は単純労働者をこれまで認めていなかったが、法務省は平成17年、第3次出入国管理基本計画の中で単純労働者の受け入れを「着実に検討していく」と初めて明記。自民党の総裁直属機関「国家戦略本部」は今年6月、50年後に9000万人にまで減ると予測される総人口の減少分を移民で補う「1000万人移民構想」と「移民庁」の創設を提言した。