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痛快!憲法学 (小室直樹著)

2005-09-28 11:25:30 | 書評
B5版の大きなサイズで表紙が江口寿史,本を開くと中には北斗の拳からのイラストがたくさん引用されて「おまえはすでに死んでいる」等と書かれているので,大変不真面目…な本かと思いきや内容はかなりまじめ。ただし,おそらく高校生とかが読んでも大丈夫なようにわかりやすい書き方になってます。著者である小室氏が編集者島地氏に講義するという形式で書かれているため,口語体で会話的に進んでいくために読みやすいというのもあります。島地氏の素朴な呆けなどもあり読んでいて飽きません。
しかしここに書かれていることは決してお気楽なことや楽しいことじゃありません。現在の日本において憲法が死んでいる(正しく機能してない)事や,そもそも日本人が民主主義や議会制度等を理解していないことが書き連なれています。小室氏は本の中でいろんな問いかけをし,それに対し島地氏が答え,その答えが間違っていると小室氏は怒るのですが,ほとんどの日本人は島地氏と同じような認識を持っていると思います。
例えば,法律は誰かに対して書かれているのですが,憲法は誰のために書かれているのか?,刑法は誰に対して書かれているのか?…等…。ちょっと回答を書くと刑法は犯罪者や被告人に対して書かれているのではなく,裁判官に対して書かれています。刑法には犯罪するな…とは書いておらず,量刑が書かれているだけだからです。そういう意味で言うと憲法は国民に対して書かれているわけではなく国家(権力者)を縛るために書かれているものだそうです。
この本では西洋で民主主義が成立するまでの歴史が丁寧に書かれており,そもそも議会制も憲法も民主主義とは無縁のところから生まれており,いろんな歴史があり徐々に民主主義へ変わっていったが,民主主義が悪いイメージだった時代もあったり,また平和主義が独裁者を産み出した時代もあったりで,我々があまり認識していない歴史がたくさん書かれていて,ショックを受けます。そしてその中で述べられているのが,現在の日本では憲法も死んでいるし,そもそも民主主義がうまく機能していないことに対してきつい警告を出しています。
たしかにそうで,日本では為政者が公約違反をすることに対して,国民が諦めているところがあります(西洋だと暴動が起きても仕方がない)。官僚が政治家(選挙で選ばれた人)の判断をあおがずかってに通達をだしたりしても,特に問題になりません。極めつけは裁判が時の世論や行政側の意見に大きく引っ張られ正当に行われていない。西洋では違法捜査があった時点で裁判は白紙に戻るそうなのですが,日本ではそのまま進んでしまう。
言われてみればその通りです。日本人は民主主義が国民(選挙民)と政治家(議員)の契約(選挙)であることを理解してません。だから契約(公約)を破ってもすぐに諦めてしまいます。本来は政治家は国民が作るものですが,日本人は「お上」は国民の言うことを聞いてくれないもの…と諦めて無責任にただ文句を言うだけです。日本においては国家はお上であり,我々の代表が動かしているという意識がないのです。
これは結局のところ西洋における契約社会という概念が日本に無いことが一番大きな原因で,西洋でそれが形成されるまでの歴史を考えると無理もないのですが,やはり少なくとも頭ではそれを理解していかないと,ますます国家の暴走,つまり憲法が機能していない状況は悪化していくように思いました。
というわけで,かなり読みやすくしかも知らないことが書いてあって新鮮な本でお勧めです。ただし,小室氏が日本の法律学者はダメだ…と書いているのであれば,逆に言うとここに書かれていることが定説なのかはわかりません。でも読みやすいし,西洋史も詳しく書かれているので,そっち方面に興味がある方にもお勧めします。
コメント (2)
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