
植芝盛平翁
『秘伝合気道』 樋口隆成著
【目次と内容】
第一章 宮本武蔵と植芝盛平
宮本武蔵が書き残した五輪書からは、宮本武蔵が実践的求道によって得た、その合理性を伺うことができる。合気道開祖植芝盛平(以下、敬称略)は日本古来の武術を遍歴会得し、更に精神的修行を加えて合気道を編み出す。植芝盛平は著書「武道練習」に自ら得た武道奥義を歌に詠んだ。宮本武蔵の五輪書と、植芝盛平の道歌は、私たちに何を語りかけ伝えるのであろうか。その共通性を探ってみたい。
第二章 斉藤守弘と植芝盛平
植芝盛平が古流の太刀をもとに合気の原理を加えたのが松竹梅の剣である。植芝盛平は岩間に七本の組太刀を残した。植芝盛平は指導の際、一撃、二撃と称して教えていたという。植芝盛平から合気剣の教授を許された唯一の人物が斉藤守弘である。
第三章 田中万川と植芝盛平
昭和7年、近衛騎兵連隊に入隊。昭和11年、24歳のときに植芝盛平と出会う。吹田市駅前玉屋旅館にて植芝盛平と初会見した田中万川は即座に入門、翌月には合気道道場を吹田市内に設立して教えを乞う。昭和27年、植芝盛平は合気会大阪支部に約一年間滞在、田中万川に道の奥呈を伝授する。
第四章 西勝造と植芝盛平
昭和32年版の植芝盛平監修、植芝吉祥丸著「合気道」に、合気道と健康と題して西式健康法の西勝造の言葉が紹介されている。合気道の実演を見ていると、それはちょうど西式の六大法則を形どる正三角形四面体が回転をし始め球体となり、その回転の姿が重心を失わず、伸びたり縮んだり色々変化するのと一致している。これはひとつの統一された姿であり。この統一された時が一番健康な姿である。
第五章 古事記と植芝盛平
古事記は、稗田阿礼が誦習し、太安万侶が撰録して、天皇に献上した日本最古の歴史書である。深遠なる古事記の世界を、植芝盛平の道歌から紐解きたいと思う。植芝盛平の精神世界を、そして道歌に込められた武産合気の真髄を垣間見ることができれば幸いである。
第六章 道歌と植芝盛平
植芝盛平が詠んだ道歌は生涯に百二十首余り。そのうち奥義として詠まれている歌の、その三十一文字に込められた想いとは。そこで、鑑賞のポイントを植芝盛平が、何故、この歌を詠まずにいられなかったのかという、想いを探ることに置きたいと思う。合わせて、想いを探るには、どのような合気道であればいいのかということを考えたいと思う。
第七章 伝書と植芝盛平
植芝盛平が残した伝書「秘伝目録」がある。合気道の草創期、植芝盛平は全国各地を駆け回り講習会を開く。植芝盛平は秘伝目録の巻物を懐に京都を訪れる。武田惣角の大東流合気柔術は植芝盛平に多大な影響を与えた。この大東流の技法が合気道の一部に見られるのは当然であろう。
第八章 合気道奥義
合気道は天地自然との合体をめざす絶対不敗の理念に基づく精神武道である。合気道は技の形にとらわれず、気の法線を知り、心線を悟り、気の流れに喰い込み、喰い合わして行く道である。之、呼吸の妙なり。間合いは技をなす勝負の根源となる、十分心得るべし。技は空の気を使い別け、真空の気を以って業となす。
本書は自費出版のため書店では購入できないが、国立国会図書館、京都府立図書館、京都市立図書館などで閲覧できる。発行は特定非営利活動法人合気道武産会。
【評】
本書は合気道開祖植芝盛平の詠んだ和歌「道歌」を、武産合気道師範樋口隆成が十年にわたり続けてきた研究の集大成である。内容は、合気道草創期に開祖の記した「武道」の中の五十五首の道歌を綿密に解き明かしながら、道歌に刻まれた開祖の魂と武の世界を、道歌の躍動感そのままに生き生きと描いたものである。道歌を研究の基幹に据える事で、これまでの合気道の技の解説書や伝記とははっきりと一線を画した作品であると思われる。(栗原 證)