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武産通信

東山三十六峰 月を賞で 雪を楽しみ 花に酔う

甲州紀行 武田信玄

2016年08月25日 | Weblog
 武田信玄の躑躅ヶ崎館・屋敷跡『武田神社』

 常山紀談 巻之五

 信玄の館の跡を信長公見給ひし事
 勝頼亡て後、信長信玄の館を見んとて、馬を乗入んとせられしに、馬すゝまざりしかば引返されけり。東照宮は程経て甲州を治めさせ給ふ時、信玄の館の跡御覧の時、館の門外にて御ン馬より下させたまひしとぞ。

【訳】
 武田信玄の館の跡を織田信長公が見給いし事
 武田勝頼を討った後、織田信長は武田館を見ようと馬を乗り入れようとしたものの、馬が進まないので引き返した。その後、徳川家康は甲州を治めるようになり、信玄の館の跡を見た際、家康は館の門外で馬を下りたという。


 武田信玄の菩提寺『恵林寺』と快川禅師

 常山紀談 巻之五

 信忠恵林寺を焼るゝ事
 勝頼亡て後、武田家尊崇しける恵林寺に、前将軍義昭公の使大和淡路守、三井寺の上福院、佐々木承禎三人をかくし置きたる聞えありければ、早く出すべき、と信忠下知せらるゝ事三度に及べども出さず。信忠怒て、累世の旦越勝頼をば少の間も境内にとゞめず、其の遺骨をだにとり収ずして詮なき者をかくしたる、とて津田次郎信治、長谷川與次郎等をして寺をとりまいてさがさるゝに、三人はとく逃さりぬ。僧徒皆山門の楼に上りてこもりたるを、其の下に焼草を積て火をかけたれば、快川を始として、坐して合掌して焚死す。其の余をめきさけんで焼死にける者、宝泉寺の雪峯、東光寺の藍田、長禅寺の高山等児童に至て八十四人なり。
 又禅僧の語り傅へしには、快川濃州に有し時、信長招待すれども肯はず。今川の家に行て甚今川家を輔佐したりければ、信長にくまれしに、甲州に往て恵林寺の住持たり。信玄の死を深くかくしければ、信長愈怒りて、さま/\にさぐり聞せられしに、快川の方より泄さゞれば、信長怒にたへかねられしが、武田の亡し故遂に焚殺されしとなり。又其の時楼下に鎗先をそろへてあまさじとしたりしに、快川弟子の南華に、法の絶なん事くちをし。とても逃るべきにあらねども、楼より飛て死候へ、と云しかば、南華飛たりしに、郡りたる士卒の鎗ぶすまを作りたる者ども鎗をふせたりしかば、南華たすかる事を得て、後豊後月渓寺にありといへり。又つゞいて飛たる者十六人有りといへども、其の名傅はらずとかや。

【訳】
 織田信忠恵林寺を焼かるる事
 武田勝頼が滅んだ後、武田家を尊崇する恵林寺に先の将軍、足利義昭の使者である大和淡路守、三井寺の上福院、佐々木承禎の三人をかくまっているという噂があった。そのため「早く差し出せ」と織田信忠が命令すること三度に及ぶ。しかし恵林寺は差し出さなかった。
 織田信忠は怒り「累世の檀家である勝頼でさえ少しの間も境内にとどめさせず、その遺骨ですら引き取り収めないくせして、つまらぬ者をかくまっている」と、津田次郎信治、長谷川与次郎らを送り、寺を取り巻き探させた。しかし、三人はとっくに逃げ去っていた。
 僧徒は皆、山門の楼に登りこもっていたのを、その下に焼草を積んで火をかけた。快川禅師を始めとして、座して、合掌して焼け死んだ。
 その他、わめき叫んで焼け死んだのは宝泉寺の雪峯、東光寺の藍田、長禅寺の高山ら、そして児童に至るまで、八十四人である。
 また、禅僧の語り伝えるところには、快川禅師が濃州に居たとき、織田信長が招こうとしたが、快川は拒否して、今川家に行き、今川家を補佐した。それで信長に憎まれ、甲州に行き恵林寺の住持になった。
 武田信玄の死を厳重に隠していたので、織田信長はますます怒り色々と探り聞いていたが、快川禅師の方より漏らすことがなかったので、信長は怒りに耐えかねていた。そこへ武田が滅んだので、とうとう焼き殺したということである。
 またそのとき、楼下に槍先を揃えて、取り逃がすことのないようにした。快川禅師が弟子の南華に「法の耐えることは口惜しい。とても逃げることはできないが、楼より飛び降りて死になさい」と言ったので、南華は飛び降りた。下で群がっていた武士たちで槍衾(やりぶすま)を作っていた者はその槍を伏せていたので、南華は助かることができた。そして南華は後に豊後の月渓寺にいたという。また続いて飛び降りた者が十六人いたが、その名は伝わっていないという。

 『安禅必ずしも山水を須いず 心頭を滅却すれば火も自ら涼し』
 快川紹喜は天正9年(1581)9月6日に国師号を下賜される(紹喜録「大通智勝国師」宸翰写)。本能寺の変の2ヶ月前、天正10年(1582)4月3日、恵林寺山門上で快川禅師火定。享年81歳とか。
 恵林寺山門上より飛び降りた僧のうち判明している六人の名。南華玄興、淳岩玄朴、末宗瑞曷、湖南宗嶽、菊譚祖采、龍雲宗珠

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