柿衛本 「おくのほそ道」 那古の浦
くろべ四十八が瀬とかや、数しら ぬ川をわたりて那古(なこ)と云浦に
出。担籠(たご)の藤浪は春ならずとも 初秋(はつあき)の哀とふべきものをと、
人に尋れば、是より五里、いそ 伝ひして、むかふの山陰にいり
蜑(あま)の苫(とま)ぶきかすかなれば、蘆(あし) の一夜の宿かすものあるまじと
いひをどされてかがの国に入。
わせの香や分入右は有磯海 (わせのかや わけいるみぎは ありそうみ)
卯の花山くりからが谷をこえて 金沢は七月中の五日也。爰(こゝ)に
大坂よりかよふ商人何処(かしょ)と云者 有。それが旅宿(りょしゆく)をともにす。
一笑と云ものは此道にすける名の ほの/゛\聞えて世に知人も侍し
に、去年(こぞ)の冬早世したりとて 其兄追善を催すに
塚も動け我泣聲は秋の風 (つかもうごけ わがなくこえは あきのかぜ)
ある草庵にいざなはれて
秋凉し手毎にむけや瓜茄子 (あきすずし てごとにむけや うりなすび)
途中唫(ぎん)
あか/\と日は難面もあきの風 (あかあかと ひはつれなくも あきのかぜ)
小松と云所にて
しほらしき名や小松吹萩すゝき (しほらしき なやこまつふく はぎすすき)
わせの香や句:早稲の香のする路を踏み分けるように歩くと、峠からは右手に有磯海が眺望できる。
塚も動け句:私の泣く声は秋の風となって塚を吹いてゆく。塚よ、塚よ、わが哀悼の心を感じてくれよ。
秋凉し句:秋の涼気を覚えるこの風流なもてなしに、瓜や茄子を皆でめいめいに皮を剥いていただこうではないか。
あか/\と句:赤々と照りつける残暑だが、さすがにもう秋だけに風は秋らしい爽やかさである。
しほらしき句:小松とは可憐な名だ。その小松に吹く風が萩やすゝきをなびかせて、秋の風情がある。
くろべ四十八が瀬とかや、数しら ぬ川をわたりて那古(なこ)と云浦に
出。担籠(たご)の藤浪は春ならずとも 初秋(はつあき)の哀とふべきものをと、
人に尋れば、是より五里、いそ 伝ひして、むかふの山陰にいり
蜑(あま)の苫(とま)ぶきかすかなれば、蘆(あし) の一夜の宿かすものあるまじと
いひをどされてかがの国に入。
わせの香や分入右は有磯海 (わせのかや わけいるみぎは ありそうみ)
卯の花山くりからが谷をこえて 金沢は七月中の五日也。爰(こゝ)に
大坂よりかよふ商人何処(かしょ)と云者 有。それが旅宿(りょしゆく)をともにす。
一笑と云ものは此道にすける名の ほの/゛\聞えて世に知人も侍し
に、去年(こぞ)の冬早世したりとて 其兄追善を催すに
塚も動け我泣聲は秋の風 (つかもうごけ わがなくこえは あきのかぜ)
ある草庵にいざなはれて
秋凉し手毎にむけや瓜茄子 (あきすずし てごとにむけや うりなすび)
途中唫(ぎん)
あか/\と日は難面もあきの風 (あかあかと ひはつれなくも あきのかぜ)
小松と云所にて
しほらしき名や小松吹萩すゝき (しほらしき なやこまつふく はぎすすき)
わせの香や句:早稲の香のする路を踏み分けるように歩くと、峠からは右手に有磯海が眺望できる。
塚も動け句:私の泣く声は秋の風となって塚を吹いてゆく。塚よ、塚よ、わが哀悼の心を感じてくれよ。
秋凉し句:秋の涼気を覚えるこの風流なもてなしに、瓜や茄子を皆でめいめいに皮を剥いていただこうではないか。
あか/\と句:赤々と照りつける残暑だが、さすがにもう秋だけに風は秋らしい爽やかさである。
しほらしき句:小松とは可憐な名だ。その小松に吹く風が萩やすゝきをなびかせて、秋の風情がある。