成宮隆行先生
植芝盛平翁と鞍馬山
牛若丸と天狗伝説の鞍馬山。植芝盛平翁が21日間の修行をされたお山である。
魔王の滝の傍、神額に鬼一法眼と刻まれた小さな石の鳥居をくぐると鬼一法眼社がある。鬼一法眼社は牛若丸に六韜三略の兵法を授けた武芸の達人といわれる。武道の上達を祈願する人も多い。鞍馬寺には「兵法虎之巻」が伝わる。
来則迎 去則送 対則和
五五十 二八十 一九十 以是可和
察虚実 識陰伏 大絶方所 細入微塵
殺活在機 変化応時 臨事莫動心
来れば則ち迎へ、去れば則ち送る、対すれば則ち和す
五五は十なり、二八は十なり、一九は十なり、是を以て和す可し
虚実を察し、陰伏を識る、大は方所を絶し、細は微塵に入る
殺活機に在り、変化時に応じ、事に臨みて心を動ずること莫れ
これは、植芝盛平翁の伝書「合気柔術秘伝目録」の書き出しである。鬼一法眼のことばが合気の理を現す。
相手に対し心と心を結び速かに和合し右手を以て相手の頭上又顔を打突く事
相手の応じたる右肘を左にて上げ右にて相手の手首を右返しふみ込み倒す事
来る者は迎へ二八十なりの和を忘るべからず
身魂に宇宙の真気を呼吸し気海丹田に鎮め相手と合気和して電撃雷飛の
光の如く気を以て打突く事
一九の十なる和の勝速の理に依り左にて相手の肘を押へ右手にて相手の
右手首を掴み右に引倒す事
それは鞍馬山の中段にあるのですが、そこをちょっと登ったところに義経(牛若丸)が修行したという盆地がありまして、よく先生(植芝盛平)は夜中に起きて、月の出てない闇の中、これからそこへ稽古に行こうと仰るのですよ。それからその盆地の天辺に来て真剣を差すわけです。白い鉢巻をしてね。そして先生が、自分に打ち込んでこいと言うんですよ。これが所謂、気の修養ですね。そして、パーとこちらが打ち込んでいくと、先生はさっと避けて今度はこっちに打ち込んでくるわけです。その剣先がちょうど白い鉢巻のここら辺にくるのですよ。真っ暗だからよく分からんが、その剣先だけがポッと白く見えるんです。剣風というのですか、あれがふわっと感じられる。本当に厳しいんですよ。それでもって朝と夜、沢庵二切れとお粥しか食べないのですからね。たまには山の菜葉を採って食べました。そうして21日間鍛えられました。本当の、気の修養ですよ。 (塩田剛三『合気道修行』)