4年ぶりの中国は、悪夢のタクシーで始まった。
日本でダウンロードしたはずの中国版、配車アプリのDiDiが上手く起動せず、停まっていたメータタクシーに乗ったのがいけなかった。この4年の間にタクシーのメータがナビのモニターに組み込まれているようで、以前とは随分、仕様が違っていた。行先を言うとそのまま走り出したので「メーター」と言うと、スマホを見せられ、そこにメーターが映し出されていたので、それを勝手に本体と連動していると解釈してしまった。
タクシーの運ちゃんは30代のガタイの良い坊主頭の男。走り出してしばらくすると「ウーとか、アーとか」奇声を上げたり、膝を叩いたりと落ち着きがない。変な薬でもやっていそうな感じすらした。その後、今度はスマホの翻訳機能を使ってあれこれ話しかけてくる。「何しに来た?ホテル代はいくらだ?仕事は?などなど…」鬱陶しいことこの上ない。なかなか終わらないので、スマホのメールをしているふりをして無視していると、これを聞けとばかりに、スマホを向けてきた。
「ニホンジンハ、ナンキンデ、50マンニンノチュウゴクジンヲ コロシマシタ…」
「オマエハ、ソレヲ シッテルカ?」
何にも答えなかった。顔さえ見なかった。
すると、再びスマホを突き出してきた。
「ニホンジンハ、チュウゴクヲ、シンリャクシタ。コンドハ チュウゴクガ 二ホンヲ シンリャクスル」
チラッと運転手を見ると、ニヤニヤしていた。
それを見てゾクッとした。密室だし、逃げ場がないことが、怖さを倍増させたように思う。このまま知らない場所に連れていかれて、殺されるんじゃないかと想像した。単純に日本が嫌いな中国人はもちろんいるだろうし、中には反日思想の人もいるのも理解できる。でもこうやって直接、露骨に攻撃して来られると、どうして良いのかわからなくなる。この男は、おそらく反日思想の持ち主ではなんかではなく、単純に人を脅して楽しんでる頭の悪いクズなんだろうと思う。でもそこが、逆に何をするかわからない怖さを感じた。
その後は、何も言われなかったが、沈黙中もまた怖かった。ずっとグーグルマップの位置情報を見ていた。そしてホテルの100メートルの手前で降ろされた。そこで見せられたスマホメーターには450元(9000円)と表示されていた。普通なら130元前後(2600円)が相場だ。どんなに高くても150元(3000円)は越えない。やっぱりメーターは本体とは連動なんかしていない、イカさまメーターだった。突き出してきたスマホの翻訳機向かって「高過ぎて払えない」と言った。すると400元になった。こちらは「150元だ」と言うと大声で「F…k you!」と何度も怒鳴ってきた。外はうす暗くなってきているものの、人通りもたくさんあったので、外へ出て自分で後ろのトランクを開けてスーツケースを取り出した。男は350元で良いと言ってきた。こういう時は、もう金だけおいて逃げるしかない。人もいるから無茶はしないだろうと思い、予めポケットの中に入れてあった170元を閉めたトランクの上に置いて背を向けて歩き出した。男は最後まで大声で「F…k you!」と叫んでいたが、追いかけてくることはなかった。
歩きながらホッとしたのと同時に、ドッと疲れがやってきた。何よりとにかく無事でよかったと思った。ホテルに着くと、「部屋がメンテナンス中なので20分待って…」と言われた。ツイていない時は案外続くもの。時間が出来たので、この近くにあるコロナ前までお世話になっていたカーゴ屋姉さんの会社へ向かった。ちょっと予想はしていたが、案の定、会社は無くなり別の会社になっていた。この辺りには50件くらいのカーゴ屋さんが密集していたが、そのうちの4~5件を除くとほぼほぼロシアと中央アジア専門だった。けれど、わずかにあったロシア圏以外を扱う会社はすべて無くなっていた。生き残ったのはロシア圏を扱うところばかりだった。
またお世話になるところを一から探さないといけないと思い、すでに日が暮れかけていたが、その周辺を少し探して歩いた。少しして一本の脇道の奥に各国の国旗が書かれたカーゴ屋さんを見つけた。オフィスを覗くと中に人が見えたので入っていくと、一人の男が「ハンゴー?(韓国人か)」と聞いてきたので、「リーベン(日本人)」だと答えると、その男に「外に出ろ」と促された。男と一緒に外に出ると日本の国旗を指さして「これを見ろ!」と…。遠くからでは暗くて見えなかったが、日の丸の国旗にはマジックで「SHIT」と書かれていた。しかもその横には、「1945.8.15 japan unconditional surender(日本無条件降伏)」の文字と丁寧にポツダム宣言時(多分)の写真まで貼られていた。男は無言でオフィスに戻り扉の鍵をかけた。
なんなんだろう、この塩対応は、しかも今日まさかの2度目の反日攻撃である。呆然としてしまったが、これは記念にスマホで写しておいた。この男はもしかすると心情的に反日なのかもしれない。男の所有する会社かどうかはわからないが、わざわざ会社の看板に反日をアピールしているところをみると、限りなくそれっぽい。すっかり気が重くなり、もう何もやる気が起きずホテルに戻ると「あなたの部屋のエアコンが壊れているので部屋をアップグレードしました…」と告げられた。部屋へ行くとベッドがハートの形をしていた。部屋に入ってすぐには、ちょっと落ち込んでいたせいでベッドの形には気が付かなかったが、一度、水餃子屋さんへ夕飯を食べに行って戻ってきた時に、初めて気が付いた次第。でも気分的に落ちていたので、「連れ込み宿かよ!」と、ちょっと笑える気分じゃなかった。
これまで中国でもどこでも、こんな風に露骨に日本人を敵視する言葉を直接投げつけられたことは一度もなかった。だから正直、驚いたしタクシーの40分の間は恐怖すら感じた。幸い何もなかったから良かったけど、近年ではもっとも怖かった出来事になってしまった。
それでも久しぶりに、度々行っていた水餃子屋さんで白菜餃子ときくらげの和え物とキュウリ漬け、豆腐の皮なんかを食べると、ちょっと元気が出た。
この日はたまたま悪いことが重なっただけで、翌日からは何の不都合もなかった。中国の治安は決して悪くないし、今は特に反日運動もやっていない。
どこの国でも、良いことも嫌なことも、出会いとタイミング次第である。
でもやっぱりタクシーは、なんか怖いな…。
日本でダウンロードしたはずの中国版、配車アプリのDiDiが上手く起動せず、停まっていたメータタクシーに乗ったのがいけなかった。この4年の間にタクシーのメータがナビのモニターに組み込まれているようで、以前とは随分、仕様が違っていた。行先を言うとそのまま走り出したので「メーター」と言うと、スマホを見せられ、そこにメーターが映し出されていたので、それを勝手に本体と連動していると解釈してしまった。
タクシーの運ちゃんは30代のガタイの良い坊主頭の男。走り出してしばらくすると「ウーとか、アーとか」奇声を上げたり、膝を叩いたりと落ち着きがない。変な薬でもやっていそうな感じすらした。その後、今度はスマホの翻訳機能を使ってあれこれ話しかけてくる。「何しに来た?ホテル代はいくらだ?仕事は?などなど…」鬱陶しいことこの上ない。なかなか終わらないので、スマホのメールをしているふりをして無視していると、これを聞けとばかりに、スマホを向けてきた。
「ニホンジンハ、ナンキンデ、50マンニンノチュウゴクジンヲ コロシマシタ…」
「オマエハ、ソレヲ シッテルカ?」
何にも答えなかった。顔さえ見なかった。
すると、再びスマホを突き出してきた。
「ニホンジンハ、チュウゴクヲ、シンリャクシタ。コンドハ チュウゴクガ 二ホンヲ シンリャクスル」
チラッと運転手を見ると、ニヤニヤしていた。
それを見てゾクッとした。密室だし、逃げ場がないことが、怖さを倍増させたように思う。このまま知らない場所に連れていかれて、殺されるんじゃないかと想像した。単純に日本が嫌いな中国人はもちろんいるだろうし、中には反日思想の人もいるのも理解できる。でもこうやって直接、露骨に攻撃して来られると、どうして良いのかわからなくなる。この男は、おそらく反日思想の持ち主ではなんかではなく、単純に人を脅して楽しんでる頭の悪いクズなんだろうと思う。でもそこが、逆に何をするかわからない怖さを感じた。
その後は、何も言われなかったが、沈黙中もまた怖かった。ずっとグーグルマップの位置情報を見ていた。そしてホテルの100メートルの手前で降ろされた。そこで見せられたスマホメーターには450元(9000円)と表示されていた。普通なら130元前後(2600円)が相場だ。どんなに高くても150元(3000円)は越えない。やっぱりメーターは本体とは連動なんかしていない、イカさまメーターだった。突き出してきたスマホの翻訳機向かって「高過ぎて払えない」と言った。すると400元になった。こちらは「150元だ」と言うと大声で「F…k you!」と何度も怒鳴ってきた。外はうす暗くなってきているものの、人通りもたくさんあったので、外へ出て自分で後ろのトランクを開けてスーツケースを取り出した。男は350元で良いと言ってきた。こういう時は、もう金だけおいて逃げるしかない。人もいるから無茶はしないだろうと思い、予めポケットの中に入れてあった170元を閉めたトランクの上に置いて背を向けて歩き出した。男は最後まで大声で「F…k you!」と叫んでいたが、追いかけてくることはなかった。
歩きながらホッとしたのと同時に、ドッと疲れがやってきた。何よりとにかく無事でよかったと思った。ホテルに着くと、「部屋がメンテナンス中なので20分待って…」と言われた。ツイていない時は案外続くもの。時間が出来たので、この近くにあるコロナ前までお世話になっていたカーゴ屋姉さんの会社へ向かった。ちょっと予想はしていたが、案の定、会社は無くなり別の会社になっていた。この辺りには50件くらいのカーゴ屋さんが密集していたが、そのうちの4~5件を除くとほぼほぼロシアと中央アジア専門だった。けれど、わずかにあったロシア圏以外を扱う会社はすべて無くなっていた。生き残ったのはロシア圏を扱うところばかりだった。
またお世話になるところを一から探さないといけないと思い、すでに日が暮れかけていたが、その周辺を少し探して歩いた。少しして一本の脇道の奥に各国の国旗が書かれたカーゴ屋さんを見つけた。オフィスを覗くと中に人が見えたので入っていくと、一人の男が「ハンゴー?(韓国人か)」と聞いてきたので、「リーベン(日本人)」だと答えると、その男に「外に出ろ」と促された。男と一緒に外に出ると日本の国旗を指さして「これを見ろ!」と…。遠くからでは暗くて見えなかったが、日の丸の国旗にはマジックで「SHIT」と書かれていた。しかもその横には、「1945.8.15 japan unconditional surender(日本無条件降伏)」の文字と丁寧にポツダム宣言時(多分)の写真まで貼られていた。男は無言でオフィスに戻り扉の鍵をかけた。
なんなんだろう、この塩対応は、しかも今日まさかの2度目の反日攻撃である。呆然としてしまったが、これは記念にスマホで写しておいた。この男はもしかすると心情的に反日なのかもしれない。男の所有する会社かどうかはわからないが、わざわざ会社の看板に反日をアピールしているところをみると、限りなくそれっぽい。すっかり気が重くなり、もう何もやる気が起きずホテルに戻ると「あなたの部屋のエアコンが壊れているので部屋をアップグレードしました…」と告げられた。部屋へ行くとベッドがハートの形をしていた。部屋に入ってすぐには、ちょっと落ち込んでいたせいでベッドの形には気が付かなかったが、一度、水餃子屋さんへ夕飯を食べに行って戻ってきた時に、初めて気が付いた次第。でも気分的に落ちていたので、「連れ込み宿かよ!」と、ちょっと笑える気分じゃなかった。
これまで中国でもどこでも、こんな風に露骨に日本人を敵視する言葉を直接投げつけられたことは一度もなかった。だから正直、驚いたしタクシーの40分の間は恐怖すら感じた。幸い何もなかったから良かったけど、近年ではもっとも怖かった出来事になってしまった。
それでも久しぶりに、度々行っていた水餃子屋さんで白菜餃子ときくらげの和え物とキュウリ漬け、豆腐の皮なんかを食べると、ちょっと元気が出た。
この日はたまたま悪いことが重なっただけで、翌日からは何の不都合もなかった。中国の治安は決して悪くないし、今は特に反日運動もやっていない。
どこの国でも、良いことも嫌なことも、出会いとタイミング次第である。
でもやっぱりタクシーは、なんか怖いな…。