min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

特務艦隊

2005-09-13 19:18:01 | 「ナ行」の作家
C.W.ニコル著 文藝春秋 (2005/05/10)2,520

前作「遭敵海域」の続編にしてこのシリーズの完結篇である。
第一次大戦中、日英同盟による英国からの要請で大日本帝国海軍が地中海へ艦隊を送ったという事実を僕はこの本を読むまで知らなかった。
もちろん物語の内容は事実ではないが上述の日本海軍の地中海派遣は事実である。
より詳しくは「日本海軍地中海遠征記―若き海軍主計中尉の見た第一次世界大戦」
片岡 覚太郎 (著), C.W. ニコル (編集)を参照。

帝国海軍(駆逐艦隊)の任務は地中海に跋扈するドイツ軍Uボートから連合軍の輸送船を守ることであった。その駆逐艦隊の基地はマルタ島に置かれ、ドイツ軍Uボートとの実戦で戦死した日本人乗組員の墓が今でも残っているということだ。

さて、わが銛一三郎大佐であるがこの日本からの艦隊が到着する事前にマルタに乗り込み種々の調整作業の任務にかかり、実際に艦隊が派遣されてからは影に日向に日本海軍をサポートすることになった。一方、海軍情報機関員としてのダーティーな任務をもこなさねばならなかった。それはドイツ軍の息がかかったスパイの抹殺を意味する。
実は今まで三郎の特殊任務の詳細は述べなかったのであるが、三郎が属する“現代版忍者”を養成する謎の組織が存在する。どうも帝国海軍ばかりか当時の政府高官の一部も関与しているようで、海軍に対する陸軍及びその背後にいる政治家の動きを牽制する目的で作られた機関であるようだが実態は明らかにされない。
この“虎の穴”のような養成機関では近代兵器全般の取り扱いの他、古来武道を基にしたあらゆる格闘技、更に暗殺技術を習得させられる。
メンバーは全て“クマ”とか“らっこ”“うさぎ”といった呼び名で通し、互いに素性は明らかにされない。卒業時にはある日忽然と姿を消す。三郎はここで最も危険な技を持った情報部員として生まれ変わり、その秘められた技は時として敵側スパイを瞬時に死に追いやることになる。ここらあたりの“エスピオナージ戦”がまた見もので単なる戦記ものとは趣を異にして面白い。

ともあれ第一次大戦時に日英海軍が兄弟のような蜜月を迎えつつあったものが、わずか後には敵味方になり互いに戦う運命になろうとは。
第二次世界大戦に突入するまでの世界情勢を踏まえた新たなる作品をニコルさん独自の視点から描いてほしいものだ。