チャールズ・カミング著『甦ったスパイ』(原題:The Foreign Country )
ハヤカワ文庫 2013.8.20 第1刷
1,000円+tax
おススメ度:★★★★★
『ケンブリッジファイブ』に次ぐスパイ小説。これは前作よりも面白かった。前作の主人公が歴史学者であったため、いわば素人がエスピオナージ戦に巻き込まれた感があったが、今度は失職した元スパイがその復活を賭けたプロの戦いである。
英国秘密情報部SIS(一般的にはMI6として知られる)に初の女性長官が就任しようとしていた。その彼女アメリアが突然失踪したのであった。
イラクでの捕虜の取り扱いを巡って不本意ながらSISを追われた主人公トーマス・ケルに対し、新長官の部下でありケルの同僚であったマークワンドからケルに彼女を探してくれとの呼び出しがあった。
理由はケルがアメリアと共に一番長く働いており、彼女の思考・行動パターンが最も良く読めるであろうとの判断からであった。
こうしてケルはSISの非公式な要員としてアメリアの足跡を追う事になる。彼女を見つけ出すことによってケルを追い落としたSIS内部の反アメリア派(昔ながらの米ソ冷戦時代の諜報機関を目指す一派)を押さえ、ケル自身がSISに復帰出来る唯一のチャンスとなるはずであった。
ケルは難なくアメリアの所在を見つけ出すことに成功したのであるが、彼女には女であるが故とも言えるある過去のスキャンダルを抱え込んでいた。
このスキャンダルが対外的に知られた場合、SISの威信が失墜するかりか、イギリス外交上の大問題となりかねない内容であった。
このスキャンダルを使って敵対しようとしたのが英国の宿敵とも言えるフランスの情報機関対外治安総局であった。だが対外治安総局そのものではなく、一部のメンバーによる非公式活動であることが分かった。
ここに英国及びフランスの二大情報局の熾烈な非公式諜報戦が火ぶた切って落とされる。
主人公ケルは元スパイとは言え銃すら満足に撃った経験もなく、相手方の殺し屋に対してもほとんど対する術(格闘術)を持たない。スパイというよりも一般企業におけるプロマネ的存在であり、現場より事務屋上がりといった40男である。
こうした背伸びしないスパイ像が読者の共感を呼ぶのかも知れない。しかし、彼の元に集められたSISの非公式な技術要員や戦闘要員はその道のプロであり、対フランスとのエスピオナージ戦には思わず手に汗を握ることになる。
派手なアクションシーンは少なめに抑えられるが、双方の心理・情報戦の描写が素晴らしくまさにページ・ターナーとなること請け合い。登場する主人公ケルやSIS長官アメリアはもちろん各SIS要員のキャラクター造詣も上手になされ、久々の本格的な“スパイ小説”を堪能出来た。
ハヤカワ文庫 2013.8.20 第1刷
1,000円+tax
おススメ度:★★★★★
『ケンブリッジファイブ』に次ぐスパイ小説。これは前作よりも面白かった。前作の主人公が歴史学者であったため、いわば素人がエスピオナージ戦に巻き込まれた感があったが、今度は失職した元スパイがその復活を賭けたプロの戦いである。
英国秘密情報部SIS(一般的にはMI6として知られる)に初の女性長官が就任しようとしていた。その彼女アメリアが突然失踪したのであった。
イラクでの捕虜の取り扱いを巡って不本意ながらSISを追われた主人公トーマス・ケルに対し、新長官の部下でありケルの同僚であったマークワンドからケルに彼女を探してくれとの呼び出しがあった。
理由はケルがアメリアと共に一番長く働いており、彼女の思考・行動パターンが最も良く読めるであろうとの判断からであった。
こうしてケルはSISの非公式な要員としてアメリアの足跡を追う事になる。彼女を見つけ出すことによってケルを追い落としたSIS内部の反アメリア派(昔ながらの米ソ冷戦時代の諜報機関を目指す一派)を押さえ、ケル自身がSISに復帰出来る唯一のチャンスとなるはずであった。
ケルは難なくアメリアの所在を見つけ出すことに成功したのであるが、彼女には女であるが故とも言えるある過去のスキャンダルを抱え込んでいた。
このスキャンダルが対外的に知られた場合、SISの威信が失墜するかりか、イギリス外交上の大問題となりかねない内容であった。
このスキャンダルを使って敵対しようとしたのが英国の宿敵とも言えるフランスの情報機関対外治安総局であった。だが対外治安総局そのものではなく、一部のメンバーによる非公式活動であることが分かった。
ここに英国及びフランスの二大情報局の熾烈な非公式諜報戦が火ぶた切って落とされる。
主人公ケルは元スパイとは言え銃すら満足に撃った経験もなく、相手方の殺し屋に対してもほとんど対する術(格闘術)を持たない。スパイというよりも一般企業におけるプロマネ的存在であり、現場より事務屋上がりといった40男である。
こうした背伸びしないスパイ像が読者の共感を呼ぶのかも知れない。しかし、彼の元に集められたSISの非公式な技術要員や戦闘要員はその道のプロであり、対フランスとのエスピオナージ戦には思わず手に汗を握ることになる。
派手なアクションシーンは少なめに抑えられるが、双方の心理・情報戦の描写が素晴らしくまさにページ・ターナーとなること請け合い。登場する主人公ケルやSIS長官アメリアはもちろん各SIS要員のキャラクター造詣も上手になされ、久々の本格的な“スパイ小説”を堪能出来た。
以前から注目していましたが、min-min さんがそこまで誉めるなら、やはり読んでみようかな、と思います。