垣根涼介著『月は怒らない』集英社 2011.6.10 第1刷
おススメ度:★★☆☆☆
東京近郊、武蔵野のある町の市役所戸籍係りに勤務する平凡な職員三谷恭子を巡る3人の男たちが織り成す奇妙な四角関係を描く。
三谷恭子は通りすがりに誰もが振り返るような美人ではない。作品中で彼女の容姿を記述された部分によれば、「肌が驚くほど白く、小振りな頭部の女だった。そしてその頭部より、顔の横幅が明らかに小さい。顔の輪郭は下にいくに従って細くなる。鋭角的な顎に向かってすっきりと絞り込まれている。鼻筋の通った鼻梁の下に、ほどよく引き締まった薄い唇があった。」とある。
これだけではちょっと普通の娘よりも見栄えが良い、という程度で誰でも惹かれるという容姿ではない。服装も常に地味な白いブラウスに紺色のツーピースを着ておりけっして他人の目を引くこともない。
だが、彼女と目を合わせた時、ある種の男たちは忘れることが出来ない“磁力”をもって引き付けられるのだ。
その独りが梶原。ヤクザ組織に属さないものの、裏金融の取立て代行を生業にしているチンピラ風の三十男。そして三流大学で学業よりもナンパにあけくれる大学2年の弘樹。もうひとりが恭子の勤める市役所の向かいにある交番務めの巡査和田。3人に共通するものは一見何も見当たらない。この中で和田だけが既婚者で他の二人は独身である。
3人ともひょんな事から彼女と出会い、たちまち彼女の“磁力”に吸い込まれる。恭子は独身の二人とは肉体関係を持つが妻帯者の和田とは自宅でお話し相手になるだけだ。
彼女の持論は「私は、誰の人生も背負い込むつもりはないし、誰かに背負い込んでもらいたいとも思わない」というもので、自分の過去も家族構成も一切明かそうとしない。寝ても何の代償も求めようとしないのだ。男たちにとってはミステリアスな存在のまま事態は進行する。
やがて、ある時期を堺に恭子が決定的な心境の変化によって付き合う相手を一人に絞り込む。当然彼女を取り巻く四角関係が一挙に崩れ、不測の事態へ突入する。果たしてどのような結末が四人を待っているのか?といったもの。
登場人物は上記の4人の他に、恭子が毎週土曜日に公園の池端で出会うホームレスの老人(話す内容から元大学教授と思われる)がいる。彼との間に交わされる会話はある種の“禅問答”のようなもので、他の三人とは決して交わされることのない内容のもので、恭子の内的精神世界を読者に披瀝するのだが、どこか机上の空論に聞こえる。
こんな精神世界を有する女子がいるとはとうてい思われないのだ。
とまれ、垣根氏の“新境地”を切り開く一冊と謳い文句があるものの、「ワイルドソウル」や「ヒートアイランド」に代表される冒険小説的要素からはかなり隔たった“変形?恋愛小説”とも言える代物で、この路線の延長は個人的に望まない。
垣根氏ひとりの“空想世界のこねくりまわし”であって、次なる“作風”への過渡的段階作品なのであろうが、この路線?はあまり期待出来ないと思われる。
おススメ度:★★☆☆☆
東京近郊、武蔵野のある町の市役所戸籍係りに勤務する平凡な職員三谷恭子を巡る3人の男たちが織り成す奇妙な四角関係を描く。
三谷恭子は通りすがりに誰もが振り返るような美人ではない。作品中で彼女の容姿を記述された部分によれば、「肌が驚くほど白く、小振りな頭部の女だった。そしてその頭部より、顔の横幅が明らかに小さい。顔の輪郭は下にいくに従って細くなる。鋭角的な顎に向かってすっきりと絞り込まれている。鼻筋の通った鼻梁の下に、ほどよく引き締まった薄い唇があった。」とある。
これだけではちょっと普通の娘よりも見栄えが良い、という程度で誰でも惹かれるという容姿ではない。服装も常に地味な白いブラウスに紺色のツーピースを着ておりけっして他人の目を引くこともない。
だが、彼女と目を合わせた時、ある種の男たちは忘れることが出来ない“磁力”をもって引き付けられるのだ。
その独りが梶原。ヤクザ組織に属さないものの、裏金融の取立て代行を生業にしているチンピラ風の三十男。そして三流大学で学業よりもナンパにあけくれる大学2年の弘樹。もうひとりが恭子の勤める市役所の向かいにある交番務めの巡査和田。3人に共通するものは一見何も見当たらない。この中で和田だけが既婚者で他の二人は独身である。
3人ともひょんな事から彼女と出会い、たちまち彼女の“磁力”に吸い込まれる。恭子は独身の二人とは肉体関係を持つが妻帯者の和田とは自宅でお話し相手になるだけだ。
彼女の持論は「私は、誰の人生も背負い込むつもりはないし、誰かに背負い込んでもらいたいとも思わない」というもので、自分の過去も家族構成も一切明かそうとしない。寝ても何の代償も求めようとしないのだ。男たちにとってはミステリアスな存在のまま事態は進行する。
やがて、ある時期を堺に恭子が決定的な心境の変化によって付き合う相手を一人に絞り込む。当然彼女を取り巻く四角関係が一挙に崩れ、不測の事態へ突入する。果たしてどのような結末が四人を待っているのか?といったもの。
登場人物は上記の4人の他に、恭子が毎週土曜日に公園の池端で出会うホームレスの老人(話す内容から元大学教授と思われる)がいる。彼との間に交わされる会話はある種の“禅問答”のようなもので、他の三人とは決して交わされることのない内容のもので、恭子の内的精神世界を読者に披瀝するのだが、どこか机上の空論に聞こえる。
こんな精神世界を有する女子がいるとはとうてい思われないのだ。
とまれ、垣根氏の“新境地”を切り開く一冊と謳い文句があるものの、「ワイルドソウル」や「ヒートアイランド」に代表される冒険小説的要素からはかなり隔たった“変形?恋愛小説”とも言える代物で、この路線の延長は個人的に望まない。
垣根氏ひとりの“空想世界のこねくりまわし”であって、次なる“作風”への過渡的段階作品なのであろうが、この路線?はあまり期待出来ないと思われる。
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