min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

打海文三著『灰姫 鏡の国のスパイ』

2008-07-30 15:56:31 | 「ア行」の作家
打海文三著『灰姫 鏡の国のスパイ』角川書店平成5.5.25  第1刷 1,600円 
オススメ度★★☆☆☆

昨年、心筋梗塞で急逝された打海文三氏のデビュー作で第13回横溝正史ミステリ大賞優秀作を受賞した作品。
ひとりの打海ファンとしてかねてよりこのデビュー作を読みたい、読みたいと思って探していたのであるが、地元の図書館にあったではないか!

いやはや、デビュー作にもかかわらずなんとも読みづらい作品を書いたものだ。また、よく優秀作に選ばれたものだ、と変に感心してしまったのが偽らざる本書に対する感想である。
打海文三の選考委員の中でも評価が真っ二つに割れたそうであるが、さもありなん!と思わせる内容ではある。

実際、物語の大半が民間の調査会社、実態はある種の諜報機関とも言える謎の組織における魑魅魍魎の諜報戦を延々と描いており、退屈と言えば極めて退屈としか言いようがない物語である。
だが、デビュー作にして打海文三が描く独自の世界がうかがわれ、例え読者が彼の描く世界について来ようが、あるいはそうでなかろうが、そんな事にお構いなく独自の孤高の世界を遊弋する姿がありありと現れている作品である。
その後の諸作品の“核”とも言える元素のようなものが、このデビュー作という“原石”の中に埋もれているような気がする。
本作の調査会社という組織の中での「諜報、謀略戦」は後の『ハルビン・カフェ』における警察組織の中で同じような展開を示しているし、登場人物の中で女性の特性ある描き方は全ての後の作品の女性の中に容易に見いだされる。
しつこいようであるが、もしも横溝正史ミステリ大賞で受賞しなかったならばこの作家は果たしてデビュー出来ていたであろうか?
それだけに彼の持つポテンシャルに気がついた選考委員諸氏に感謝の意を表したい。

今、未完の遺作となった『覇者と覇者』の刊行が切に待たれる。