min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

魔物

2008-07-07 12:18:58 | 「ア行」の作家
大沢在昌著『魔物 上・下』角川書店 2007.11.28 発行 各1600円+tax

オススメ度★★☆☆☆

ロシアのバイカル湖のほとり、小さな村の教会に代々伝わる“イコン”があった。
この教会の若き司祭は100年にわたり封印されたイコンの災いの復活を恐れ、今はロシアン・マフィアの一員となった幼なじみが日本に渡る機会があるのを聞き及び、彼に途中の海で海底に沈めるよう頼んだ。
しかしその幼なじみは日本へ渡る前に別のマフィアの殺し屋に殺害され、密輸しようとしたシャブと共にこのイコンも奪われてしまった。

ところでこの呪われた“イコン”とは一体何なのであろう?
イコンに描かれていたのはカシアンという聖人であったが、カシアンは聖人でありながら陰で悪魔と取引をしたのを神がみとがめて、4年に一度の閏年2月29日のみ復活を許したのであった。だがカシアンはこれを不服とし、年々邪悪になり閏年には幾多の災いを村にもたらしたのであった。古い言い伝えによると、カシアンは心に強い憎しみを抱く人間の取り憑き、その人間の欲望を満たす力をその者に与えると言われる。そして、100年間封印された間にその魔力は限りなく増幅したものと思われた。だからこそ司祭は閏年が来る前にカシアンを海底に沈めようと思ったのだが。

そのカシアンが憑依したと思われるロシアン・マフィアがシャブを携え北海道の小樽に上陸した。
事前にある筋から北海道の厚生省麻薬取締官、大塚はロシアン・マフィアと地元ヤクザとの間で近々麻薬取引が行われるという情報が入った。その現場を押さえるべく仲間の麻薬Gメンたちと小樽の港に向かったのであるが・・・・

カシアンに取り憑かれたマフィアはまるで「超人ハルク」のようになっていたのだ。ハルクのように筋肉ゴリラみたいな外形ではないものの、超人的な怪力と銃弾でも倒れない、とんでもない“怪物”と化していたのだ。

さて、このようなカルト的な“魔物”の出現を大塚が同僚を始め、捜査上仲違いする警察組織に説明しようとするのであるが、誰も信じようとしない。
これは当たり前のことで、読者側にしてもとうてい「ああ、そうなのね」と納得できる内容ではない。“カシアン”の存在を何とか説明する必要がある筆者はここにジャンナという美しいロシア人ホステスを登場させ、大塚にからませることにする。
ジャンナはインターネットを通してバイカル湖ほとりの教会の司祭と連絡を取ることに成功し、カシアンの正体を探る。
でも誰も信じない。信じられないまま、カシアンは次の人間に乗り移り東京へと向かうのであった。東京は邪悪な人間の供給地としてはまさにカシアンにとっては理想郷であった。

一方、麻取の大塚には決して忘れることがない青少年期の心のトラウマがあった。このトラウマの故に東京を離れ麻取という職業についたわけであるが。
実はこの大塚のトラウマの伏線が物語りの後半を構成する重要な要素となる。
ここが大沢在昌というエンタメ小説の職人たる手腕の見せ所となっているのであるが、結局、どんなに手練れの職人であっても、やはり“カシアン”という邪神が織りなす「荒唐無稽」さを覆すことは無理があった、と言わざるを得ない。
オススメ度は星二つではあるが、大沢ファンには星三つ半をあげても良いかなぁ。読んでて楽しいのは事実だから。


ところでイコンとは(ものの本による説明では)
「イコンはおよそ千五百年以上の歴史をもち、ギリシャ・ローマ時代の美意識を今に受け継ぐ東方正教会の礼拝用画像です。長い歴史と広い地域にわたる不変性をもつイコンは、その個性を超越した表現と圧倒的な迫力で我々に語りかけます。
今でこそ、イコンは美術館で展示されていますが、そもそもは「芸術品」としてではなく、「祈り」の対象として一般の民衆が日常的に持っていたものです。修道士が制作するといわれ、「祈り」の形が色や姿で具体化されたものともいえるでしょう。」
とある。