min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

カラシニコフⅠ

2008-07-21 11:20:54 | ノンフィクション
松本仁一著『カラシニコフⅠ』朝日文庫 2008.7.30 第一刷 600円+tax

オススメ度★★★★☆

カラシニコフ突撃銃、通称AK47と呼ばれる自動小銃である。
1947年に旧ソ連の設計技師ミハイル・カラシニコフが開発した銃で旧ソ連軍の正式自動小銃として採用された。その後中国や北朝鮮、旧ユーゴスラビアなどでライセンス生産され、旧ソ連製を含め冷戦時代には108カ国に輸出されその数たるや1億丁に達すると言われる。
AK47は廉価でかつ構造が簡単で故障しづらいということから、熱砂の砂漠から高温多湿のジャングル地帯まで世界のありとあらゆる紛争地帯の反政府勢力に愛用されてきた。
最近でもアフガニスタンやイラクなどのTV報道で見かける自動小銃といえば、ほとんどがAK47あるいは発展形のAKM、AK74である。
安価の上に故障が少ない(メンテ状態が悪くても使える)、取り扱いが簡単である、ということが実は大きな禍となった。要は誰でも使える簡単な銃は戦いのプロでなくとも、あまり訓練を受けない女、子供でも扱えたということだ。それは戦争における兵士の階層の拡がり、年齢の低下をもたらした。
西アフリカのシオラレオネ紛争の例を取り、彼の地で戦闘に加わった多くの少年少女兵士(実際は反政府ゲリラに拉致され訓練された)について語られる。あまりの惨状に読むのが苦痛になってくるほどだ。

著者である松本仁一氏は朝日新聞の記者で長きに渡りアフリカ・中東に駐在した経験を持っているお方であるが、ある日この銃の開発者であるカラシニコフ氏がまだ健在であることを知り彼に取材に出かけたのであった。
カラシニコフ氏は取材時には84歳で今でも民営化された銃器工場で現役として働いており、AK47の開発目的や開発秘話を披露してくれてその内容は極めて興味深い。

かって中国の毛沢東は「国家は銃口から生まれる」と言って中華人民共和国を創ったが、現在アフリカ諸国の多くが銃によって簡単に覆されかねない「失敗国家」になっていると同書では指摘する。
「失敗国家」とは、国づくりができていない国、政府に国家建設の意思がなく、統治の機能が働いていない国のことだ。そんな国の独裁者は当然国民から支持されておらず、護衛の軍隊が敗れれば簡単に崩壊する。
英国の作家フレデリック・フォーサイスに取材する機会を得て「失敗国家」の好例“赤道ギニア”の話題が取り上げられた。実は同氏の「戦争の犬たち」の想定舞台は赤道ギニアであって実際に傭兵たちによるクーデター計画があった。しかし結果的には失敗したのだが、一時期フォーサイス氏はこのクーデター計画の黒幕ではないか、とも英紙のサンデー・タイムズに報じられたこともあったという。
こうした「失敗国家」では実際、数十人の傭兵部隊でもクーデターが成功する可能性が大ということだ。そうした「失敗国家」が辿る先は無政府国家であり、その例をソマリアに見出すことが出来る。
米映画「ブラックホーク・ダウン」に描かれたソマリアの首都モガディシオは今でも無政府状態が続き、各部族の武装民兵組織が国内を群雄割拠している。無政府状態の恐ろしさを著者はその目で確認する。
だが希望はある。同じソマリア内で北に位置する「ソマリランド」は武器と暴力に満ち溢れたソマリアから独立宣言をし、自治区化に成功した。ここではほぼ完全に武器の管理に成功したかに見える。同じソマリ族の中で武器保有の廃止に成功したのは各部族の長老たちの努力であったといわれる。その後の武器回収、保管・登録制度の企画運営は国連のUNDPなどがあたり、現在は新しい国家作りに民衆ならびに政府が真剣に取り組んでいる。
銃に溢れたアフリカ大陸に一条の光明を見る思いであるが、「国家」として承認されていないため苦難の道を歩まねばならないだろう。

とても優れたルポルタージュだと思う、強くオススメ。