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min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

チャールズ・カミング著『甦ったスパイ』

2013-12-01 14:40:41 | 「カ行」の作家
チャールズ・カミング著『甦ったスパイ』(原題:The Foreign Country )
ハヤカワ文庫 2013.8.20 第1刷 
1,000円+tax

おススメ度:★★★★★


『ケンブリッジファイブ』に次ぐスパイ小説。これは前作よりも面白かった。前作の主人公が歴史学者であったため、いわば素人がエスピオナージ戦に巻き込まれた感があったが、今度は失職した元スパイがその復活を賭けたプロの戦いである。
英国秘密情報部SIS(一般的にはMI6として知られる)に初の女性長官が就任しようとしていた。その彼女アメリアが突然失踪したのであった。
イラクでの捕虜の取り扱いを巡って不本意ながらSISを追われた主人公トーマス・ケルに対し、新長官の部下でありケルの同僚であったマークワンドからケルに彼女を探してくれとの呼び出しがあった。
理由はケルがアメリアと共に一番長く働いており、彼女の思考・行動パターンが最も良く読めるであろうとの判断からであった。
こうしてケルはSISの非公式な要員としてアメリアの足跡を追う事になる。彼女を見つけ出すことによってケルを追い落としたSIS内部の反アメリア派(昔ながらの米ソ冷戦時代の諜報機関を目指す一派)を押さえ、ケル自身がSISに復帰出来る唯一のチャンスとなるはずであった。
ケルは難なくアメリアの所在を見つけ出すことに成功したのであるが、彼女には女であるが故とも言えるある過去のスキャンダルを抱え込んでいた。
このスキャンダルが対外的に知られた場合、SISの威信が失墜するかりか、イギリス外交上の大問題となりかねない内容であった。
このスキャンダルを使って敵対しようとしたのが英国の宿敵とも言えるフランスの情報機関対外治安総局であった。だが対外治安総局そのものではなく、一部のメンバーによる非公式活動であることが分かった。
ここに英国及びフランスの二大情報局の熾烈な非公式諜報戦が火ぶた切って落とされる。
主人公ケルは元スパイとは言え銃すら満足に撃った経験もなく、相手方の殺し屋に対してもほとんど対する術(格闘術)を持たない。スパイというよりも一般企業におけるプロマネ的存在であり、現場より事務屋上がりといった40男である。
こうした背伸びしないスパイ像が読者の共感を呼ぶのかも知れない。しかし、彼の元に集められたSISの非公式な技術要員や戦闘要員はその道のプロであり、対フランスとのエスピオナージ戦には思わず手に汗を握ることになる。
派手なアクションシーンは少なめに抑えられるが、双方の心理・情報戦の描写が素晴らしくまさにページ・ターナーとなること請け合い。登場する主人公ケルやSIS長官アメリアはもちろん各SIS要員のキャラクター造詣も上手になされ、久々の本格的な“スパイ小説”を堪能出来た。




チャールズ・カミング著『ケンブリッジシックス』

2013-10-29 12:59:23 | 「カ行」の作家
チャールズ・カミング著『ケンブリッジシックス』(原題:The Trinity Six)
早川書房 2013.1110 第1刷 
1,000円+tax

おススメ度:★★★★☆


ケンブリッジファイブ。第二次大戦中から1950年代にかけて活動した英国ケンブルッジ大学トリニティ・カレッジ内ソ連スパイ組織をいう。英国外務省、MI6などの職員となりイギリス及び同盟国の外交、軍事、諜報などに関わる情報を大量にソ連に流していた。
その事実が露見され当時の英国社会を震撼せしめた大事件であった。
本作は、これにもう一人の隠れたスパイがいた、という想定の下に描かれたスパイ小説である。
UCL(ロンドン大学)で東欧・スラブの歴史を教えるギャディスはある日、学生時代からの女友達でジャーナリストのシャーロットから6人目のスパイがいたという有力な情報があると聞かされた。そしてこの事実を本にしたいのだが協同執筆しないかという申し入れであった。
ギャディスには税金の支払い督促に加え、別れた妻から一人娘ミンの学費が至急必要との催促を受けており、まさに渡りに船の状況にあった。
だが、親友シャーロットが心臓発作で急逝したのを始め、6番目のスパイ、暗号名“アッチラ”に関わった者たちが次々に何者かによって殺害されていく。
ギャディスはわが身にふりかかる危険をいとわずに真相究明に奔走するのであったが、彼は次第に追い詰められ、最愛の愛娘の身も危険となるのであった。
果たして6人目のスパイとは誰なのか、そしてその存在が暴かれたら一体誰が困るのか?物語は終盤を迎えいよいよ緊迫の度合いを増してゆく。

そもそもスパイといえば日本人にとっては007の映画に出てくるような“スパイ然”とした華やかなイメージを持ちがちであるが、欧米においては旧ソ連との長い長い諜報戦の歴史があり、ある意味身近な存在であるのかも知れない。
本作に登場する主人公の大学教授はそんなスパイが暗躍するような環境から縁遠い存在であったが、ある日突然血生臭い諜報戦の世界に巻き込まれる。
何とか自らと家族の身を守ろうと死力を尽くすのだが、いかんせん素人の悲哀というもので、時に痛ましいことこの上ない。
そんな我々と等身大の主人公が活躍する異色のエスピオナージが面白かった。

垣根涼介著『勝ち逃げの女王 君たちに明日はない4』

2013-03-08 05:48:54 | 「カ行」の作家
垣根涼介著『勝ち逃げの女王 君たちに明日はない4』新潮社 2012.5.20 第一刷 1500円+tax

オススメ度 ★★★★☆

このシリーズも本作で4巻目となった。巻を重ねるにつれ多少マンネリぎみとなったのではないかとの疑念を持ちながらも毎回楽しみに読ませていただいた。
さて、今回はどんな物語を垣根さんは用意してくれたのであろうか。今回は本編の表題となった「勝ち逃げの女王」をはじめ「ノー・エクスキューズ」「永遠のディーバ」そして「リヴ・フォー・トゥデイ」の4編で構成されている。
本作の大きな特徴は「勝ち逃げの女王」及び「リヴ・フォー・トゥデイ」の2編において顕著である。リストラで解雇を促すとは逆に全体的にはリストラの為の面談であるもののこの対象者は何とか残留させて欲しいという顧客の要請があるという、ちょっと今までにはないパターンである。
「勝ち逃げの女王」で語られるAJAという航空会社はJALであることは明らかであるし、「リヴ・フォー・トゥデイ」の「ベニーズ」とは「デニーズ」であることが容易に想像される。
「ノー・エクスキューズ」での「やまさん」とはかって倒産した「山三証券」であり、「永遠のディーバ」での「ハヤマ」とは「ヤマハ」を指す。これら4つの異なる業界を取り上げて、それぞれの事情の下真介の面談が始まる。いつものようにこれらの業界内の問題点が簡潔に社長の高橋から語られ、読者はリストラのターゲットそして重要なポイントがよく分かる仕組みになっている。
この辺りはいかにも作者の手慣れた語り口で巧いのだ。4編の中で「ノー・エクスキューズ」だけが現実にリストラの面接の無い異色の展開となっている。ここで初めて真介が務める『日本ヒューマンリアクト』社の社長である高橋の過去が明らかになるところが興味深い。
一般の読者には「永遠のディーバ」が一番グっと来るものがあるであろう。個人的には「ノー・エクスキューズ」で団塊の世代のふたりが登場し、彼らの生きた時代の“臭い”みたいなものが語られる部分が好きだ。恐らくこの時代を共に過ごした世代の者だけが共有できる感覚、認識ではなかろうか。
ともあれ、本シリーズの4作目は決してマンネリに陥ることなく新たな切り口が作者によって示されたと思う。更なるシリーズの続編に期待したい。





ダイアナ・ガバルドン著『時の彼方の再会Ⅰ』

2012-10-23 15:55:29 | 「カ行」の作家
ダイアナ・ガバルドン著『時の彼方の再会Ⅰ』ヴィレッジブックス 2005.1.20 第1刷 
780円+tax

おススメ度:★★★☆☆


アウトランダー・シリーズ7作目の作品。なんか前作『ジェイミーの墓標』のⅠを読み、その後のⅡとⅢを飛ばしてしまった。なんのことはない中古本で探せなかったせいだ。でもね、ほとんど物語の流れはつかめている。
クレアが妊娠したことを知ったジェイミーは再び彼女を20世紀の世界へ戻し、自身はやはりイングランド軍との壮絶な戦いとなった「カローデンの戦い」に参戦したのであった。この「カローデンの戦い」の歴史そのものを阻止すべく戦ったクレアとジェイミーであったが。やはり歴史を変えることは出来なかったようだ。
20世紀に戻ったクレアはフランクの庇護下、ジェイミーとの子を出産する。その後なんと医師の道を歩むのであった。
そのフランクも死去したことから、クレアは20才となった娘ブリアナを連れ、あのインヴァネスの地を訪れた。そして歴史学者であり牧師であるロジャーの助けで「カローデンの戦い」の後のジェイミーの消息を懸命に探った。
一方ジェイミーは戦いで死ぬことなくイングランド軍の捕虜となって生き延びた。だがその後のジェイミーに降りかかった運命はあまりにも過酷であった。
読者は今一度ジェイミーという男の生き様に感銘するとともに、ますます彼のキャラクターの魅力にハマってします。
そしてある日、クレアはとうとうジェイミーの存在を突き止めある重大な決心をするのだった。
もしも時の経過が20世紀と18世紀との間でパラレルに進行していると仮定するならば、20年経った今タイムトンネルの向こうで会えるのではないか!?
もしそうならば、娘を残してでもジェイミーに会いに行こう!という決断であった。
さて、二人は果たして再び邂逅出来るのか???




ダイアナ・ガバルドン著『ジェイミーの墓標Ⅰ』

2012-09-11 09:51:23 | 「カ行」の作家
ダイアナ・ガバルドン著『ジェイミーの墓標Ⅰ』ヴィレッジブックス 2003.12.20 第1刷 
780円+tax

おススメ度:★★☆☆☆

本書は「時の旅人 クレア」別名「アウトランダー・シリーズ」の第四作目となる。
クレアは20世紀に戻って来た。ジェイミーの子を宿して。夫フランクは一時取りみだしたもののクレアを受け入れ誕生した娘を溺愛した。その夫フランクは1966年に没しクレアは1968年、19歳になる娘ブリアナを伴って米国よりスコットランドのハイランド地方を訪れたのであった。
彼女の旅の目的は、18世紀に起こったジャコバイトの反乱で生き残ったハイランダーの名前を調べることと、娘に本当の父親が育ててくれたフランクではなく、18世紀に出会ったジェイミー・フレイザーであることを現地で告白することであった。
本編ではクレアが思わぬ所でジェイミーの墓標を発見したところで一旦区切られ、彼らがスコットランドからフランスへ逃れてからの生活が語られる。
彼らは1974年のパリに逃れワイン商夫婦として活躍し、パリの社交界で華やかな生活を送っていたが、真の目的は密かに“ジャコバイトの反乱”そのものを防ぐことであった。

本書を理解するためにはイングランドの歴史、特にスコットランドとの確執の歴史に関する知識が必要となる。ネット上でざっと調べてみたが、イングランド国教会とカソリックの宗教戦争があり、何より人種的、文化的にイングランドとは異なるスコットランド人の反抗の歴史を認識しなければならない。
これらの諸問題は現代にも尾を引き、英国という国が成立以来現代に到るまで決して一枚岩の国家ではないことがうかがえる。

ところで本編ではパリでのクレアとジェイミーの生活が延々と語られるのであるが、これは細部にとらわれ過ぎる描写と僕には思われ、あと2巻この状態が続くとすればちょっとこの部分はパスしたくなってしまった。

垣根涼介著『人生教習所』

2012-07-08 20:51:43 | 「カ行」の作家
垣根涼介著『人生教習所』中央公論新社 2011.9.30 第1刷 
1,700円+tax

おススメ度:★★★★☆

元日本経団連会長である鷲尾総一郎が私財を投じているのでは、と思われる「人生再生セミナー」。毎年小笠原諸島の父島と母島で2週間開かれる。
セミナーの真の目的は不明であるが、けっして妖しいものではないらしい。このセミナーを受講した生徒のその後の成長変化を鷲尾がみて楽しむのではないか?といった憶測もある。
しかし、協力団体には日本経団連、東京商工会議所、大坂商工会議所などが名を連ね、受講後の就職斡旋があるとも予測された。
受講内容は統計学、生物学、社会学、生理薬理心理学、認知心理学、言語心理学、及び関連科目に伴うフィールドワーク、とあり、募集人員は20~30名で応募資格は年齢学歴不問となっている。
こんな新聞広告を見て一体どんな人物が応募するとうのであろうか?本編に登場する4人の人物造形が興味深い。

浅川太郎・・・東大生。入学後すぐに授業に興味が持てず引きこもりとなる。現在休学中。過保護で育ったのが一目瞭然のいかにも草食系男子然としている。

柏木真一・・・母親が駆け落ちしいたたまれなくなって田舎を飛び出したのが15歳の時。なるべくしてなったヤクザ家業であったが、シノギに疲れ組を無断で逃走。ブラジルに約1年逃げていたがほとぼりが冷めた情報を得て帰国。現在無職の38歳。見てくれも言葉使いもいかにもヤクザ然としている。

森川由香・・・小中といじめに会い、そのせいで甘いものばかり激食いした高校生活。結果かなりのデブ女となったが青学に入学し卒業。現在フリーランスのライターをしているが仕事量は年々減るばかり。デブであることばかりではない理由で人間関係を築くのが極めて不得手な30歳の独身女。

竹崎貞徳・・・大手オートバイメーカーの生産部門畑を定年まで勤め、定年間際まで7年勤めたコロンビアに定年後再び渡って3年を過ごしたという64歳。
人懐こい中にも謎の部分を持つ初老の男。

この4人が微妙・絶妙に関わりながら二週間にわたる研修が行われる様が描かれる。最初の3日間で適正試験が行われるのであるが、その設問(講義を受けてその感想文を書く、講義の内容に伴う三択問題)が面白い。ここで受講続ける価値がないと判断された生徒は早速船で本土に帰されるわけだ。

ところで作中、地元講師による「講義」を通して小笠原の歴史的、社会的考察が延々と繰り広げられるのであるが、垣根さんは何故にここまで小笠原に固執するのだろう?という素朴な疑問を抱くほど説明が続く。
ま、戦後返還された沖縄あたりとはかなり違った状況であることは理解出来るが。

「人間観察」という括りでは「君たちに明日はない」シリーズと同種のニオイはするものの、敢えて著者の“新境地開拓”というほどの作品になるとは思えない。やはりノワール系の作品を望む気持ちが強い、私的には。




垣根涼介著『月は怒らない』

2012-03-26 22:58:37 | 「カ行」の作家
垣根涼介著『月は怒らない』集英社 2011.6.10 第1刷 

おススメ度:★★☆☆☆

東京近郊、武蔵野のある町の市役所戸籍係りに勤務する平凡な職員三谷恭子を巡る3人の男たちが織り成す奇妙な四角関係を描く。
三谷恭子は通りすがりに誰もが振り返るような美人ではない。作品中で彼女の容姿を記述された部分によれば、「肌が驚くほど白く、小振りな頭部の女だった。そしてその頭部より、顔の横幅が明らかに小さい。顔の輪郭は下にいくに従って細くなる。鋭角的な顎に向かってすっきりと絞り込まれている。鼻筋の通った鼻梁の下に、ほどよく引き締まった薄い唇があった。」とある。
これだけではちょっと普通の娘よりも見栄えが良い、という程度で誰でも惹かれるという容姿ではない。服装も常に地味な白いブラウスに紺色のツーピースを着ておりけっして他人の目を引くこともない。
だが、彼女と目を合わせた時、ある種の男たちは忘れることが出来ない“磁力”をもって引き付けられるのだ。
その独りが梶原。ヤクザ組織に属さないものの、裏金融の取立て代行を生業にしているチンピラ風の三十男。そして三流大学で学業よりもナンパにあけくれる大学2年の弘樹。もうひとりが恭子の勤める市役所の向かいにある交番務めの巡査和田。3人に共通するものは一見何も見当たらない。この中で和田だけが既婚者で他の二人は独身である。
3人ともひょんな事から彼女と出会い、たちまち彼女の“磁力”に吸い込まれる。恭子は独身の二人とは肉体関係を持つが妻帯者の和田とは自宅でお話し相手になるだけだ。
彼女の持論は「私は、誰の人生も背負い込むつもりはないし、誰かに背負い込んでもらいたいとも思わない」というもので、自分の過去も家族構成も一切明かそうとしない。寝ても何の代償も求めようとしないのだ。男たちにとってはミステリアスな存在のまま事態は進行する。
やがて、ある時期を堺に恭子が決定的な心境の変化によって付き合う相手を一人に絞り込む。当然彼女を取り巻く四角関係が一挙に崩れ、不測の事態へ突入する。果たしてどのような結末が四人を待っているのか?といったもの。

登場人物は上記の4人の他に、恭子が毎週土曜日に公園の池端で出会うホームレスの老人(話す内容から元大学教授と思われる)がいる。彼との間に交わされる会話はある種の“禅問答”のようなもので、他の三人とは決して交わされることのない内容のもので、恭子の内的精神世界を読者に披瀝するのだが、どこか机上の空論に聞こえる。
こんな精神世界を有する女子がいるとはとうてい思われないのだ。

とまれ、垣根氏の“新境地”を切り開く一冊と謳い文句があるものの、「ワイルドソウル」や「ヒートアイランド」に代表される冒険小説的要素からはかなり隔たった“変形?恋愛小説”とも言える代物で、この路線の延長は個人的に望まない。
垣根氏ひとりの“空想世界のこねくりまわし”であって、次なる“作風”への過渡的段階作品なのであろうが、この路線?はあまり期待出来ないと思われる。



ダイアナ・ガバルドン著『時の旅人 クレア Ⅰ&Ⅱ』

2012-03-22 23:32:36 | 「カ行」の作家
ダイアナ・ガバルドン著『時の旅人 クレア Ⅰ&Ⅱ』ヴィレッジブックス 2003.1.20 第1刷 

おススメ度:★★★★☆

正直に告白すると、単に他に読むべき本が何もなく時間つぶしにでもなればとブックオフで手にした本であった。
読み始めてしばらくして退屈な物語の出だし部分と主人公クレアが何とも安易なタイムスリップの方法で200年前のスコットランドに迷い込み、そこでハイランダーの逞しくも美しい赤毛の青年ジェイミーと出会う。
ある理由から彼と結婚するはめになり、彼女の現代への帰還はどうなるのか?などなど第一部を読む限り「ありゃま、これってアメリカの女流作家が暇にあかせて書くハーレクイーンのロマンチック本か!?と思ったものであった。

が、しかしである、第一部後半から第二部にかけて読み進めるうちにどんどんとこの物語に引き込まれて行く自分がいた。
何たってヒロインのクレアの“男気”に魅了され、結婚相手となるジェイミーの純な愛に感動するのだ。
200年前のスコットランド及びイングランドとの確執をしっかりとした時代考証を踏んで描き、けっして派手なアクション活劇はないものの手に汗握る場面が登場し読者をハラハラッドキドキさせる。

クレアは第二次大戦中、英国軍の従軍看護婦で戦場に勤務したことから、かなりの現代医療知識を有している。このことが200年前のスコットランドで生き抜く術の一助となるのだが、本作を読みながら日本のマンガ後にTVドラマ化された「仁―JIN」の英国版みたい、と思ったりもした。
やたら遠い過去でないところが両者共通しているのかもしれない。

第二部のラストはちょっと感動的で、第二作以降も「アウトランダー」シリーズとして米国始め主要各国で出版されているらしい。
機会があったらこの先の物語も読んでみたい。


[再読]垣根涼介著『ワイルド・ソウル』

2011-06-14 21:26:32 | 「カ行」の作家
[再読]垣根涼介著『ワイルド・ソウル』 幻冬舎 2003.8.25 第1刷 各1,900円+tax

オススメ度:★★★★★

先に「探偵はバーにいる」を押入れの中から発見し再読した、と書いたが実はあと何冊か捨てきらずに残していた本の中にこの「ワイルド・ソウル」も入っていた。
確かこれは面白かったよなぁ、と最初のページを開いて読み出したのだが、どうも吸い込まれるように読み出したら止められない自分がいた。
内容はある程度憶えていたつもりが、ページを繰るにつれディテールをほとんど憶えていないことに気がついたのだ。
憶えていたことと言えば、あまりに酷い当時の日本政府、なかでもクソくらえの外務省の役人、官僚どもの悪行。胸のすくような外務省庁舎への銃撃シーン。そして、最後のあの男とあの女のニヤリとする邂逅シーン。
これらの間を埋めるべきディテールがこの8年間のうちにほとんどが我がイカレ脳みその記憶細胞から消えていることに気がついた!したがってプロットの展開が初読の時の感動と同様にページをめくる速度を加速する。あっと思う間もなくの一気読みをしてしまった。

この「ワイルド・ソウル」を入れてあと「サウダージ」と「ゆりかごで眠れ」の三作品は垣根氏の“南米三部作”と呼べるだろう。今改めて読み返して思うのは何という著者の熱き情熱あふれる作品であろうことか!やはり本作が“南米三部作”の中では最高だろう。いや垣根氏の全作品を見渡した中でも突出した傑作ではなかろうか!?

最近「君たちには明日はない」など冒険小説路線とは別な方向に同氏の作風が向いているが、やはり日本の冒険小説の旗手のひとりとしての同氏に今一度熱き男たちの物語を書いていただきたい!と思うのは私ひとりではないであろう。



北沢秋著『哄う合戦屋』

2011-05-31 01:03:04 | 「カ行」の作家
北沢秋著『哄う合戦屋』双葉社 2009.10.11 第1刷 1,400円+tax

オススメ度:★★★★☆

武田晴信(武田信玄)と長尾景虎(上杉謙信)の両雄が激突する数年前の中信濃。この山深い地は地方豪族が群雄割拠し、互いの領地を虎視眈々と狙っていた。
その豪族の一員である遠藤義弘の領地にとある日、一人の浪人が従者らしき家来をひとりだけ連れ現れた。
その名を石堂一徹といい、戦国の世を軍師として渡り歩いてきた豪の者であった。風貌はこの時代の日本人には稀な六尺をゆうに超える背丈で肩幅も広く、顔には十数創の刀傷があり、周囲を威圧する雰囲気を持っていた。
そんな彼がひばりの巣を覗いているのを見かけた遠藤吉弘の愛娘若菜は臆することなく一徹に声をかけ、父の居城に招いたのであった。
石堂一徹は二千五百石ほどしかないこの弱小な豪族の城主、遠藤吉弘の内政の手腕と領民全てに愛される性格が大いに気に入り、彼の食客になることに同意したのであった。
石堂一徹の名声はこの山間の地にまで響き渡り、彼の進言を取り入れた遠藤勢はまたたくまに近隣の豪族を打ち負かし、一挙に石高も二万四千石までなってしまった。
当然、素性の知れない流れ者がどんなに戦功をたてようが、既存の家臣たちの反発を受けるし、あくまでも無禄のままで良いと言い張る一徹の真意を遠藤義弘すら推し量ることが出来ず、政権そのものが乗っ取られるのではないか?と疑心暗鬼に陥る。
石堂一徹はこの地方豪族、田舎侍たちの想像をはるかに凌駕する軍事的才能を持ち合わせたのだが、このこと自体が実は彼の不幸の源であった。
一徹はとにかく寡黙で陰鬱とした風貌を持つ故に誰も彼に打ち解けて話しかけることはなかった。唯一若菜姫を除いて。
若菜だけは一徹の秘められた側面(優れた美意識、アートの理解者)を知り、いつしか深く敬愛の情を抱き始める。もちろん一徹のほうも頑なな心を姫だけには次第に開き始める。
いよいよ武田の軍勢が押し寄せる、という段で本編のクライマックスとなる。果たして遠藤勢は押し寄せる武田軍に対し、どのように対峙するのか?はたまた一徹と若菜の許されぬ愛の結末は?
本作の題名「哄う合戦屋」であるが、どうみても哄笑するとは思われない合戦屋一徹がどのような事態で哄うのか!?と思いきや、なんと奇抜なエンディングでその答えが読者を待っている。
歴史上実在した人物でもないし、果たしてこのような人物がかの戦国時代に存在したとも思われないのであるが、一個の男としての強烈な生き様は鮮烈そのものである。