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min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

ダン・シモンズ著『ハイペリオン 上・下』

2013-05-21 10:12:54 | 「サ行」の作家
ダン・シモンズ著『ハイペリオン 上・下』ハヤカワ文庫SF 2000.11.20 第一刷 各800円+tax

オススメ度 ★★★★★

噂にはきいていたが、かくも創造力に富んだSFとは!著者ダン・シモンズの作品を初めて読んだのはこのハイペリオン・シリーズではなくこの作家が世界のSF界にて不動の地位を確立した後の作品であった。最初に読んだのが「ダーウィンの剃刀」で、続いて「鋼」、「雪嵐」であった。その面白さに驚愕し圧倒されるほどの筆力に感嘆した記憶がある。
その後、同著者のハイペリオン・シリーズを読んでみようかと図書館で見かけたものの、そのあまりにも分厚い単行本にあきれ、すっかり腰が引けた。
今回知人が同シリーズを読破したのを聞き、僕も再挑戦することにしたわけだ。結果、ハマった。このハイペリオンは壮大な宇宙叙事詩のほんのエピローグに過ぎない事を読んでから知ることになった。もう次の「ハイペリオンの没落」に突き進むっきゃないのであ~る。

文庫本の訳者あとがきで、本編概要を要領よくまとめているのでご参考まで・・・

『時は二十八世紀、人類は宇宙に進出し、二百の惑星を転移網―早い話が“どこでもドア”ネットワークで結んで、一大覇権国家を形成していた。この連邦の高度技術を一手に管理するのは独立自律知性群(AI)<テクノコア>なるもので、その超予測能力は連邦の政策をも左右する。しかし、宇宙には、その<テクノコア>にすら予測できない不確定要素が存在した。謎の遺跡<時間の墓標>を擁し、時間を超越した怪物シュライクの跳梁する、辺境惑星ハイペリオンだ。迫りくる“宇宙の番族”アウスターの脅威のもと、<時間の墓標>を訪ねるため、いま、七人の巡礼がハイペリオンに到着する。巡礼の旅の合間に、業深き七人が交互に語る物語は、相互に関連し、複雑にからみあい、やがて大いなる謎へと収斂していくー』

「ハイペリオンの没落」で本当に明らかになるのか!<時間の墓標>とは何だ?怪物シュライクの正体とは?そして七人の巡礼者の運命は?






佐伯 泰英著『木槿ノ賦-居眠り磐音江戸双紙(42)』

2013-01-29 10:07:43 | 「サ行」の作家
佐伯 泰英著『木槿ノ賦-居眠り磐音江戸双紙(42)』双葉文庫 2013.1.13 第一刷 各648円+tax

オススメ度 ★★☆☆☆

あらら、うっかりしていたら本作の前の40、41巻を飛ばしてしまったようです。佐伯先生いつの間に書き下ろしたのでしょう?
内容は豊後関前藩の内紛を描いたものであることから、大方の予測はつこうというもので遡って読むことはいたしません。
で、本作は内紛を処理した後日譚的なものであり、シリーズの本道?田沼意次との対決という命題からは脇道に外れた感がします。とは言いながらも田沼一派が関与している点を何とかこじつけてはおりますが。
本シリーズを少なくとも50巻まで引き延ばそうという著者の目論見?からなのか、更に次回は別れた奈緒を再びからめた物語へと脱線しそうな気配であります。そんなことより毒矢に射られて生死の境をさ迷う霧子ちゃんが気がかりでありんす。先生!よもや殺してしまうことはないですよね?田沼一派との最終戦には無くてはならない主要人物のひとりとなった霧子ですから。
あと2,3巻は脇道同道を強いられるのでしょうか??

佐伯泰英著『居眠り磐音江戸双紙 39 秋思ノ人』

2012-09-26 22:23:51 | 「サ行」の作家
佐伯泰英著『居眠り磐音江戸双紙 39 秋思ノ人』双葉文庫 2012.6.17 第1刷 
648円+tax

おススメ度:★★★☆☆

本シリーズは作者佐伯泰英氏が数カ月ごとに書き下ろす超ロングシリーズとなった。割と大き目の文字が使用され、せいぜい350ページくらいの文庫本であることから読み始めると2,3日で読了となる。ここまで来ると物語がドラステックに進行することもないので次回出た時に2冊まとめて読もうかな、と思ったもののやはり読みたい衝動にかられ購入して読んでしまった。
案の定物語の進行度合いは大した事もなく、主に速水左近が“山送り”とも呼ばれた甲府勤番支配職の任を解かれ奏者番(老中手前の要職)として江戸に返り咲くことが決まった事の顛末が主要な内容となっている。
実はこの事情の裏には将軍御三家による田沼専制への牽制の意味合いが込められていた。御三家を動かしたのは何を隠そう坂崎磐音その人であった。
磐音一行が高野山奥の隠れ里に逃れた折、期せずして知己となった光燃老子の口利きで江戸へ戻る途中、京都の朝庭で幾人かの公家に面会出来た。
そこで幕府と朝廷の橋渡し役として速水左近が最適の人氏であるも、それを田沼意次が阻んでいる事情を説明した。この事が京より将軍御三家に伝えられ、御三家の威光で田沼意次も速水左近の人事異動を飲まざるを得ない状況となった。
同じ奏者番に田沼意次の子意知がおり、速水左近が江戸に戻ることを何とか阻止せんと企てた。物語の半分以上は速水一行の甲府より江戸表に到る帰還の途上の暗殺組との攻防戦が描かれる。
物語の後半は一言で言うと、田沼意次を追いこむための諜報戦ともいえるもので、元御庭番の弥助と霧子が大活躍することになる。次回は田沼意次による田沼家系図の捏造を暴くことによって田沼親子を専制の座から引きずり下ろす大作戦が展開されそうな気配だ。かくして佐々木道場の復活の日を迎えるには田沼意次を倒す以外に道はないのだ。
もうそろそろ決着をつけるべきではないのか?

佐伯泰英著『一矢ノ秋 居眠り磐音江戸双紙37』

2011-09-20 23:52:29 | 「サ行」の作家
佐伯泰英著『一矢ノ秋 居眠り磐音江戸双紙37』 双葉文庫 2011.7.17 第1刷 648円+tax
おススメ度:★★★☆☆

田沼意次の陰謀によって江戸から逃れ、最終的におこんの出産を迎えたのはここ高野山の秘境“姥捨ての郷”であった。
おこんは無事に男子を産み、その名を空也と名づけた。そしてはや2年の歳月が経て空也は3歳を前にして伝い歩きが出来るまでに成長した。
一方、しつこく磐音一行を付け狙う田沼意次の妾おすなが放った刺客“雹田平一味”は京の破れ寺に潜み、配下に磐音たちが潜む隠れ家の探索に余念がなかった。そしてじわりじわりと配下の探索の輪は“姥捨ての郷”にせまりつつあった。
その頃江戸においては“おすな”の命により神保小路にある尚武館が打ち壊された。
田沼意次との決着を付けねばならぬ秋(とき)が着々と近づいていることを磐音は強く感じていたのだが、あの意次の愛妾おすなが意次の代参として高野山に参る、という情報を得た。同時におすなが雇った刺客雹田平は唐人の傭兵を呼び寄せ一挙に“姥捨ての郷”を襲い磐音とその子空也を抹殺するつもりであった。
かくして、冬の高野山の深部にある隠れ郷を巡る両者の対決の日がせまる。
磐音一統は江戸への帰還を果たすため雑賀党の協力の下、おすな及び雹一味との最後の決戦に臨むのであった。

これでやっと物語りは大きく動き出した感がする。雹田平の操る“卜”占いは一種の“千里眼”であり、その術を防ぐのが白地の服に書いた経文であったりして、この辺りはヘタな伝奇小説に出てくるようなネタで少々興ざめしてしまった。あまりこの線を強く出さないほうが良いのでは?
ともあれこの磐音シリーズも37巻を向かえ一体何巻で終了するつもりなのか!?佐伯泰英殿。




笹本稜平著『グリズリー』

2011-08-29 17:02:05 | 「サ行」の作家
笹本稜平著『グリズリー』 徳間書店 2004.8.31 第1刷 1,900円+tax
ススメ度:★★★★★

敵はアメリカ合衆国。元エリート自衛官が牙を剥く、たった独りの闘い!
首都東京でたった独り、日本の警察を翻弄し、アメリカの在京CIAを手玉に取り、本国合衆国からの刺客シールズの分隊をも屠った男の最終的な戦闘の場は今や世界遺産となった北海道知床半島の突端に設定された。

詳細ストーリィはアマゾンの紹介文を参照されたい。↓

「元北海道警SAT狙撃班の城戸口は、今では斜里警察署の山岳救助隊員だ。ある日、知床連山最高峰の羅臼岳に登山をしていた城戸口は、中肉中背で顔じゅうに髭を生やし、縮れた長めの髪をバンダナでまとめている男と出遭った。髭や髪に白髪が混じっていないことから、さほど年配でもなさそうなその男は言った。「城戸口通彦。五年前は道警SATに所属していた。俺の心の友を射殺した男だ」薄ら笑いを浮かべるその顔にはたしかに見覚えがあった…。SAT狙撃班時代、札幌市の消費者金融に二人組の男が侵入した。そのうちのひとりは城戸口が射殺。そして、今ここにいるのが、生き残った元エリート自衛官・折本敬一だったのだ―。城戸口と折本ふたりの邂逅は、極限の知床で始まる壮絶な闘いの序章に過ぎなかった。」



常軌を逸したと思われる思考と行動をとるテロリスト“グリズリー”の犯行理由及び実行の方法論に関して、読者側から賛否両論が出るのは当然であろう。
現実の世界情勢、社会状況からすれば非現実的と思われがちだが、冒険小説世界においてはこのくらいのプロットを展開しなければ面白くも何ともないではないか。
たった独りの闘いが世界を変えることなど決してないのは分かりきっているが、このような“熱い男”を描くには必要なプロットなのである。
たとえそれらが“青臭い”とか“非現実的”だとか、フィービとの恋愛描写が甘々すぎるとかの謗りを受けようが「冒険小説」には必要な要素なのである。

ところで、作中に出てくる「Nプラン」であるが、この計画を実行する物語のほうが現実味があるかも知れない。
日本の国家もマスコミも大方知っていて、知らないふりをしている「米軍による核の日本持込」の事実を白日の下に晒す絶好の“プラン”であろう。
今般、「原子力発電」の政府並びに電力会社の絶対安全神話が崩壊したように、日本における核兵器の存在についても、実在する事実を満天下に知らしめ、日米両政府による欺瞞をあばいてほしい。
作中、横田米軍基地内に秘蔵されている戦術核の一発も国会議事堂に打ち込んでくれれば、いかに多くの無知蒙昧な日本国民にも現実がわかろうというものだ。
アメリカ合衆国以上に戦前・戦中・戦後の日本の政治家は全てが万死に値するほど腐り切っている。

ところで本作品も実は今回再読したものであるが、またもディテールはすっかり忘却の彼方。よって改めて新鮮な思いで読むことが出来た次第。
笹本稜平氏の作品では『太平洋の薔薇』に次ぐ傑作であるが、現在警察小説ジャンルに迷い込んでしまっておるようで、再び熱き冒険小説の世界へ戻って欲しい、という“ラブコール”の意味を込めて★5つとさせていただいた。



志水辰夫著『引かれ者でござい』

2011-07-08 00:25:00 | 「サ行」の作家
志水辰夫著『引かれ者でござい』 新潮社 2010.8.20 第1刷 各1,600円+tax

オススメ度:★★★★☆

副題に「蓬莱屋帳外控」とある。実は、本書『引かれ者でござい』の前に『つばくろ越え』というのがあって、こちらが蓬莱屋帳外控の第一作らしい。
いずれにせよシミタツ氏(志水辰夫氏の通称)が『青に候』以来の時代小説分野へ挑戦する新シリーズである。
「蓬莱屋」というのは通常の飛脚業とは違い、ひとりの飛脚が届け先へ最後まで一人で届ける、といういわゆる“通し飛脚”というもので、何故かいわく因縁のあるカネやモノを運ぶケースが多い。
この蓬莱屋に雇われた幾人かの飛脚の目を通した江戸時代の人々、社会、事件を描く物語で、サムライ社会とは離れた種々の階層、職業を持つ庶民の物語はなかなか新鮮で興味深い。
何よりシミタツという稀代のハードボイルド作家(あ、この方をこういうジャンルにひとくくりは禁物なのだが)による江戸時代に生きる人々が、どうしても僕には“シミタツ”調の語り口になるのが面白い。
主人公が現代であれ近代であれ、生き方が不器用なのである。特に女性に対する主人公の不器用さには苦笑せざるを得ない。


スコット・スミス著『シンプル・プラン』

2011-03-20 15:45:50 | 「サ行」の作家
スコット・スミス著『シンプル・プラン』 扶桑社ミステリー
2000.2.28 第29刷 

オススメ度:★★★☆☆

もしもあなたが、出所のわからない大金を密かに発見した場合どうするか?
という割と陳腐かつ単純なテーマ?の作品。

米国の北部に位置する片田舎(ま、場所の詳細は不要でしょう)の飼料店で地道に働くハンク・ミッチェルは雪の降る夕方、兄のジェイコブと彼の友人ルーと共に自殺した両親の墓参りに向かった。
ひょんなことから果樹園の中に墜落した小型機を発見し、機内から死んだパイロットと共に440万ドルが詰まった袋を見つけた。
どのような出所のカネであるかは不明であるが、この墜落した小型機の状況からして“マトモな金”であることは考えられず、彼らは警察に届けることなく横領することに決めた。
金はすぐさま分配するのではなく、この金を追う者たちがいないことが判明するまでハンクが保管し、安全であることを確かめた上で、三人で山分けしようということにした。

この手の話で、こうした金を拾った者たちが一枚岩の団結でほとぼりが冷めるまで待つ、という事例はなく、必ず内部のだらしなく弱い者から綻びが生じるのが常である。
ハンクが当初から危惧した通り、三人の秘密が綻びだすには多くの時間は必要ではなかったのだ。
ひとは一度大金を手にすると(その人間が見も心も貧しければ貧しいほど)、一刻も早く使いたくなるものである。
やがて、状況はハンクが想像もしなかった事態へと進み、血みどろの連続殺人へと発展してゆく。

物語の結末は読みながら見えてくるのであるが、読者としてはどうみてもハッピイ・エンドに終わるわけがないとは思いつつも、どのような着地にするのか興味深いところ。個人的には作者の着地の仕方は気に入った。

ただ、かのスティーブン・キングが絶賛したというほど天性のストーリー・テラーとは僕には思えない。
むしろ殺人動機はあるものの、その発端が作り出す重大な悲劇を単なる結果論的に「こうなってしまったからしょうがない」と処理する作者の手法には納得できない。
巻末で訳者が「何気ない情景描写が次の犯罪の伏線になっている」と賞賛するのであるが、僕には上述のように説得力に欠けるストーリーとなってしまった。
一作品でその作家の技量を断定しがたいので、次の作品もそろえているので検証してみたい。


カルロス・ルイス・サフォン著『風の影(上・下)』

2010-11-01 23:24:44 | 「サ行」の作家
カルロス・ルイス・サフォン著『風の影(上・下)』(原題:LA SOMBRA DEL VIENTO)集英社文庫 2006.7.25初版 

オススメ度 ★★★★☆

1945年のスペイン、バルセロナで11才の少年ダニエルは書店主の父親に連れられて「忘れられた本の墓場」に行く。そこで偶然手にした『風の影』という小説に魅入られてしまう。本の内容から更に著者であるフリアン・カラックスという人物の謎に興味を抱き、彼の過去にせまろうとする。
フリアンの過去を追うに従い、自分の境遇に妙に一致することに気がつくのであるが、やがてフリアンの過去が判明するに従ってダニエル自身にも危険がせまってくる。

主人公ダニエルとシンクロするようなフリアンの過去は、スペイン市民戦争が勃発する重い暗雲がたれこめる時代背景とあいまって、太陽の光があふれる情熱の国スペインとは対極の東欧の陰鬱な気候のように、暗く、凄惨な物語として綴られる。
二人の恋は共に19世紀のシェイクスピア悲劇のように重苦しく描かれ、やがて双方の恋が悲劇に向かって周囲の家族、友人を巻き込みながら突き進んでいく。

上巻は著者の文学的情念があふれ過ぎた感があり、読み手には冗長とも思われる。もつれた糸が錯綜し、一体この先どんな展開になるのか分からなくなる。
そんなある種いらつく感情を持ってしまうのだが、下巻になってそのもつれた糸が一気呵成にほぐれていく様は圧巻だ。ストーリィテリングの巧さに加え、重厚な文学作品のように仕上がった本作品は十二分に読み応えがある。


佐伯泰英著『尾張ノ夏 居眠り磐音江戸双紙34』

2010-09-20 02:25:37 | 「サ行」の作家
佐伯泰英著『尾張ノ夏 居眠り磐音江戸双紙34』双葉文庫発行 2010.9.19 弟1刷 648円+tax 
オススメ度:★★★★☆

3年ぶりにたった半日ではあるが、里帰りを許されたおそめが実家に帰るシーンから物語が始まる。おそめは暇を出されたのではなく、親方からそれなりの成長を認められての里帰りであった。技の成長ばかりではなく身体的にも女性となった祝いであった。そんなおそめの里帰りを機に宮戸川の鰻やの面々や、長屋の金兵衛やその他の連中が息災であることを知らせてくれる。

さて、江戸を田村意次の魔の手じから逃れた磐音とおこんは丁度尾張名古屋に一時腰を落ち着けていた。
おこんが懐妊したことが、この地へとどまらせた理由であるが、無意下ではあったが尾張が尾張徳川領地であることが足を止めた真の理由であった。
尾張徳川は紀伊徳川の成り上がり者であった田沼意次をけっして心良くは思っておるまいと踏んだのであった。
ここから、丁度坂崎磐音が豊後関前藩から江戸に出てきて、今津屋と出会ったと同じような出会いが始まる。
ストーリーが再びリセットされるわけだ。仔細は省くとして尾張徳川の懐に納まった磐音と江戸にてますます権勢を伸ばす田村意次との死闘が再び始まろうとする。
田沼意次の策謀をはね返し磐音とおこんが江戸に帰り道程はまだまだ長いと思われる。



佐々木譲著『廃墟に乞う』

2010-07-03 20:12:02 | 「サ行」の作家
佐々木譲著『廃墟に乞う』 2009.7.15 初版 1,600円
+tax
オススメ度:★★★★☆

表題の「廃墟に乞う」ほか5作品よりなる短編集。
ある事件をきっかけに休職となった道警本部刑事の仙道は、請われるままにいくつかの事件にかかわることになる。
捜査の助言的なものはするが、正規の捜査活動をするわけにはいかないし、テリトリー内に入ってきた休職中の刑事を歓迎する地元警察がいるわけがない。

いくつかの事件は殺人事件ではあっても全国紙を賑わすような大事件ではなく、事件関係者の身寄りのものなどが、かっての仙道の捜査能力を頼って個人的に裏捜査を依頼する場合が多い。
しかしながら一年にも及ぶ休職が認められる、というのは民間会社に勤める者にとってはなかなか信じがたい設定である。
どうも警察に限らず公務員たるものこのような長期に渡る休職扱いがあるようで何とも羨ましい限りだ。
仙道が受けたというある事件のトラウマがどのようなものであったのか、冒頭より気になる存在であったが最後に近くなってやっと明らかになる。
その理由が明らかになった時点では説得力のある内容であった。

6作品とも道内の各地が背景となるのだが、北海道出身者の読者にとっては身近な地名ではあるが、道外在住者にとってはあまり馴染がないかも知れない。
また、短編であるが故にもっとディテールを描いてほしい、という場面がいくつも登場し、やはり出来ることなら各編を独立した作品としてリライトしてほしいと望む読者も多いことであろう。
佐々木譲という職人気質による警察小説の“いぶし銀”のような世界を堪能することが出来た。
本作品で第142回直木賞を受賞した由、心中よりおめでとう!を言わせていただきたい。
これからも優れた作品の数々を生み出していただきたい作家である。