岐阜建築散歩~その5
岐阜駅の東南、徒歩10分程の旧中山道沿い、新築住宅も目立つ旧加納宿の住宅街の一角に、過去からタイムスリップしてきたような古い洋館がひっそりと建っています。
元々は大正15年(1926)に加納町役場として建てられたもので、最後に岐阜市学校給食会によって使用された後、数年前から空家になっており、現在は老朽化による耐震強度の問題で立ち入り禁止のロープが張られています。
この旧加納町役場の建物は、鉄筋コンクリート造りの町役場としては最初期のもので、設計は岐阜市ではおなじみの近代日本を代表する建築家で当時京都帝国大学建築学科教授の武田五一が担当しました。
武田は10代を岐阜市で過し、その縁もあってか岐阜市周辺で多くの建物の設計に携わっています。現在も市内には旧加納町役場の他、名和昆虫研究所記念館・博物館、昆虫碑、旧岐阜商工会議所美江寺支店が現存しています。
同時期に建てられた重厚な左右対称の岐阜県庁舎に対し、非対称の彫塑的なモダンなデザインで、アールヌーボーやセセッシヨンを日本に紹介した武田らしい自由闊達なデザインです。
外観は軽快なスパニッシュ風に仕上げていますが、凸凹の白壁にアーチを架けた玄関ポーチを張り出し、縦長の窓と半円形の大窓を設け、武田好みのセセッション風味付けも施しています。
内部は当時流行の表現主義に和風を併用した、いかにも武田らしい意匠に仕上がっています。
◆旧加納町役場/岐阜市加納本町1-16
竣工:大正15年(1926)
設計:武田五一
施工:大林組
構造:RC造2階
撮影:2010/09/26
*国登録文化財
建物全景~旧中山道沿いに北面して建っています
当初は白色に塗られていたであろう外壁は、長年の風雨にさらされ灰色に変色し、
窓枠は錆びほうだい、何とも古色蒼然としたたたずまいは、このままホラー映画の舞台になりそうな雰囲気が漂う。
玄関正面~ポーチの上部にうっすらと右から「加納町役場」の文字が残る
アーチをつけた縦長窓と半円形の大窓が外観にアクセントをつける
建物東側~縦長の窓が並ぶ
西隣に建つ小屋~コンクリートの下に煉瓦が見えます
旧加納町役場の案内板
「岐阜市が誇る歴史的建造物」の建て看板も設置してあるところを見ると、
旧中山道加納宿の拠点施設として再生活用される日もそう遠くは無い?と思われます。
今日たまたまこの近くに居たので、この建物に寄ってみたのですが…、
なんと取り壊されて更地になっておりました…(絶句)。
登録有形文化財に指定されて、近辺の要所にはこの建物の案内板も
いくつか設置されているのにも関わらず…。
何かアナウンスがあったのかどうか知りませんが、きっとまた
”耐震”と”維持管理費”の問題でしょうか。
「岐阜市が誇る歴史的建造物」じゃなかったのか!?
旧加納町役場取り壊しとのこと、ちょっと言葉になりません...
建物の権利関係は分かりませんが、この建物を保存できない岐阜市には大変がっかりしています。
登録文化財指定でも安心はできないということでしょうか。
全国で近代建築の保存活用が定着しつつある昨今、本当に残念としか言いようがありません…