かどの煙草屋までの旅 

路上散策で見つけた気になるものたち…
ちょっと昔の近代の風景に心惹かれます

築地(1)築地本願寺/中央区築地

2017-11-29 | 東京の近代建築

築地本願寺は西本願寺(京都)の別院、浄土真宗本願寺派の関東最大拠点という由緒あるお寺なのですが、その外観はいわゆる日本の「お寺」のイメージとは大きく違います。この姿だけで日本の本願寺のお寺だと分かる人はまずいないでしょう。日本ではかなり珍しいこの仏教建築は、和風でも中国風でもない「古代インド仏教様式」というのだそうです。

このインド風のお寺を建てたのは、第二十二世門主の大谷光瑞、設計は日本の「建築史学」を開拓した伊東忠太です。光瑞は仏教の源流であるインドまでさかのぼるため、自ら大谷探検隊をひきいて、西域、チベット、インドの仏教遺跡探訪を試みました。設計者の伊東忠太も、法隆寺とギリシャのパルテノンのつながりを証明すべく、三年にわたり中国、西域、ビルマ、インド、トルコ、ギリシャまで旅をし、その間光瑞の大谷探検隊と行をともにしました。この二人がコラボし、建てるべくして建ったのが、築地本願寺というわけです。

二人の世界観を具現化したのが東京の築地本願寺ですが、京都には「インド風+イギリスのヴィクトリアン様式」というちょっと違ったテイストの光瑞/忠太のコラボ作品、西本願寺伝道院が現存しています。


■広々とした石畳の広場に建つインド風寺院はまるで遺跡のようです













■築地本願寺/中央区築地3-15-1
 竣工:昭和9年(1934)
 設計:伊東忠太
 施工:松井組
 構造:SRC造・RC造2階
 撮影:2017/08/11
 ※国指定重要文化財


銀座(7)奥野ビル(旧銀座アパートメント)/中央区銀座

2017-11-22 | 東京の近代建築

旧称は「銀座アパートメント」という高級集合住宅で、設計は同潤会で建築部長を務めた川元良一。住人には詩人の西条八十や、考現学の吉田健吉など、当時の文化人たちが集まるモダンなアパートメントだったことがうかがえます。
戦前屈指の高級アパートメントは、オシャレなテナントビルとして再生され、現在は美術ギャラリーなどが入居しています。同潤会のアパートもほとんど取り壊された現在、銀座のど真ん中で昭和の香りを残すアパートメント建築が残ったのは嬉しいかぎりです。


■スクラッチタイルに丸窓、昭和のモダニズムが薫る





■奥野ビル(旧銀座アパートメント)/中央区銀座1-9-8
 竣工:昭和7年(1932)頃
 設計:川元良一
 施工:不詳
 構造:RC造地下1階、地上6階
 撮影:2017/08/11


銀座(6)ヨネイビルディング/中央区銀座

2017-11-19 | 東京の近代建築

麒麟麦酒などさまざまな事業を起こした実業家、米井源治郎の米井商店(現ヨネイ)の本社ビルとして建てられました。
1階にはアーチ窓が並び、玄関もアーチにねじり柱という意匠は、神田の丸石ビルと同様のロマネスク様式。銀座に残る数少ない当時の折衷系オフィスビルの外観を残す貴重な建物です。













■ヨネイビルディング/中央区銀座2-8-20
 竣工:昭和5年(1930)
 設計:森山松乃助
 施工:清水組
 構造:SRC造6階
 撮影:2017/08/11
 ※東京都選定歴史的建造物


銀座(5)第一菅原ビル(旧菅原電気)/中央区銀座

2017-11-18 | 東京の近代建築

消費の流れが中小の商店から大規模な百貨店へと変化しつつあった昭和初期、銀座、日本橋、上野など都心の商店ではどんどんビル化が進みました。第一菅原ビル(旧菅原電気)もそのひとつで、間口の狭い敷地に細長いビル(いわゆるペンシルビル)が数多く建設されました。


■インター・ナショナルスタイルを基調に、円形の窓を配置した外観は、この時期特有の昭和モダンなデザイン



■4~5階と丸窓があるタイル貼り外壁部分はオリジナルに近いと思われます(6階部は後に増築)
 

■第一菅原ビル(旧菅原電気)/中央区銀座7-7-11
 竣工:昭和9年(1934)
 設計:吉田享二
 施工:戸田組
 構造:RC造5階
 撮影:2017/08/11

 


銀座(4)丸嘉ビル(旧丸嘉商店)/中央区銀座

2017-11-15 | 東京の近代建築

外壁は改変が著しく、レトロモダンな今風のオシャレなビルに変身していますが、ビルの竣工時は日本橋の袋物屋丸嘉商店でした。3階部分は白く塗られていますが、もとはスクラッチタイル貼りで、ビルの入り口の上部にはアールデコ調のテラコッタ装飾が施されています。


■名作、大作と呼ばれる建築ではありませんが、こういうB級作品が銀座の品格ある景観に大きく寄与しています







■丸嘉ビル(旧丸嘉商店)/中央区銀座7-7-1
 竣工:昭和4年(1929)
 設計:森山松乃助
 施工:清水組
 構造:RC造3階
 撮影:2017/08/11


銀座(3)電通ビル/中央区銀座

2017-11-13 | 東京の近代建築

1920~30年代はほとんどが折衷系の建築で、モダニズムにアール・デコの装飾性を加味したスタイルが多く見られます。電通ビルもそのひとつで、玄関ホールのモザイクタイルなどにアール・デコの影響がうかがえます。

日本最大の広告代理店電通の前身は明治34年設立の「日本広告」までさかのぼり、その後日本電報通信社(電通)になりました。電通はテレビがメディアの中心になった戦後から急成長した新興企業というイメージを勝手に持っていましたが、戦前にはすでに銀座に自前のビルを持つ老舗広告代理店だったのですね。


■インター・ナショナルスタイルに近い外観ですが、正面玄関上部の日本神話に題材をとった人物像のレリーフが見どころ




■造幣局の彫刻技術顧問を務めた畑正吉作の広目天と吉祥天のレリーフ





■電通ビル/中央区銀座7-4-17
 竣工:昭和9年(1934)
 設計:横河工務所
 施工:大林組
 構造:RC造8階
 撮影:2017/08/11


銀座(2)区立泰明小学校 /中央区銀座

2017-11-11 | 東京の近代建築

関東大震災後の現存する初期の復興小学校のひとつで、中央区では常盤小学校とともに、表現主義風外観の復興小学校として貴重な存在。


■最上階のアーチ窓やバルコニーの造形などに表現主義の影響がうかがえます







■玄関の柱や庇は表現主義独特の造形







■区立泰明小学校 /中央区銀座5-1-13
 竣工:昭和4年(1929)
 設計:東京市 原田俊之助
 施工:銭高組
 構造:RC造地上3階、地下1階
 撮影:2017/08/11
 ※東京都選定歴史的建造物


銀座(1)和光(旧服部時計店)/中央区銀座

2017-11-09 | 東京の近代建築

時計塔をのせた白いビルは、銀座のシンボルとしてあまりに有名。建物は日本の時計王、服部時計店の創業者・服部金太郎がシンボルの時計塔にこだわり建設したもので、昭和7年に竣工しました。
設計は上野の国立博物館や日比谷の第一生命館などの名建築を手がけた渡辺仁。銀座4丁目の角という立地条件を生かし、堂々としながらも威圧感のない近代ルネッサンス様式でまとめています。様式を自在に操る達人渡辺ならではの、都市のランドマークとして後世に残る傑作のひとつです。


■訪れた日は歩行者天国で、多くの人々が「銀ブラ」を楽しんでいました



■様式建築の重厚さと軽やかさをかねそなえた外観は、現在も「銀座の顔」として人々に親しまれています



■昭和、平成、これから先もずっと、銀座のシンボルとして時を刻み続けます


■和光(旧服部時計店)/中央区銀座4-5-11
 竣工:昭和7年(1932)
   設計:渡辺仁
 施工:清水組
 構造:SRC造地上7階、地下2階
 撮影:2017/08/11


東京建物ビル/中央区八重洲

2017-11-07 | 東京の近代建築

現在は改変が著しく、かろうじて1階部分の大きなアーチに当時の面影をとどめています。竣工時の写真(建築の東京)では三層構造になっていて、頂部には連続のアーチ窓とロマネスク風の装飾がみられます。東京駅の八重洲口では現存する唯一の近代建築です。


■壁面上部に竣工時のままの『東京建物ビル』の名称が表示されています


■東京建物ビル/中央区八重洲1-9-9
 竣工:昭和4年(1929)
 設計:阿部美樹志
 撮影:2017/08/11


明治屋京橋ビル/中央区京橋

2017-11-05 | 東京の近代建築

ネオ・ルネサンス様式のアメリカ式オフィスビル。内装は輸入品を扱う明治屋らしく、イタリア産の大理石やアメリカ製のエレベーター、冷暖房装置などを備えています。名門建築事務所の設計だけあって、アメリカの商業ビルを思わせる華やかで品格のあるたたずまいは、現在も魅力のある街角の景観に寄与し、人々の目を楽しませてくれます。


■現代的な高層ビルの中にあって品格のある堂々としたたたずまいは、歴史的建造物ならではの存在感
 



    


■明治屋京橋ビル/中央区京橋2-2-4
 竣工:昭和8年(1933)
 設計:曽禰中條建築事務所
 施工:竹中工務店
 構造:SRC造地上8階、地下2階
 撮影:2017/08/11



日本橋(13)高島屋日本橋店(旧日本生命館)/中央区日本橋

2017-11-03 | 東京の近代建築

三越、白木屋(現・東急百貨店)と並ぶ日本橋を代表する昭和初期のデパート本店の建物。当時流行の本格的アメリカ式オフィスビル・スタイルで、百貨店では日本最初の冷暖房を設備、三井本館と並ぶ当時の日本橋の二大建造物と称されました。外観は三層構成のルネサンス様式を基調としながらも、随所に和風要素が加味されています。
戦後は村野藤吾の設計により、歴史様式とモダニズムを組み合わせた、もとの建物のイメージを損なわないデザインで、増改築が行われています。



■1~2階は花崗岩貼りで角柱による列柱をコーニスで繋いでいます(半円アーチの連続する8階部分は村野による増築)



■玄関上部のバルコニーの欄干飾りや化粧垂木、釘隠しなどに和風意匠が施されています





■高島屋東京店(旧日本生命館)/中央区日本橋2-4-1
 竣工:昭和8年(1933)
 設計:方岡安+高橋貞太郎+前田健二郎/増改築:村野藤吾 
   施工:大林組
 構造:SRC造地上8階、地下3階、屋上塔屋4階付
 撮影:2017/08/11
 ※国指定重要文化財

 


日本橋(12)区立阪本小学校/中央区日本橋

2017-11-01 | 東京の近代建築

都内でも中央区には関東大震災後の復興小学校が多数現存しています。阪本小学校はアーチや曲線を多用した表現主義の泰明、常盤小学校とは異なり、縦長の窓が整然と並ぶ外観はどちらかというとインターナショナル・スタイルに近いデザインです。唯一外壁の3階分を通すピラスター(付け柱)に様式建築の面影を残しています。

昭和5年には震災で倒壊した東京市の復興小学校117校すべてが鉄筋コンクリートにより新築され、あわせて震災被害の少なかった木造校舎もコンクリート化されました。新設校を加えると実に205校がコンクリートにより耐震・不燃化され、すべて当時最先端のインターナショナル・スタイルが採用されたのですから、東京市の復興小学校事業は特筆に値します。


■白いコンクリートの壁にガラス窓が並ぶ外観は、戦後の校舎と見分けがつきません









■区立阪本小学校/中央区日本橋兜町15-18
 竣工:昭和3年(1928)
 設計:東京市
 施工:大倉組
 構造:RC造3階
 撮影:2017/08/11