かどの煙草屋までの旅 

路上散策で見つけた気になるものたち…
ちょっと昔の近代の風景に心惹かれます

小さな恋のメロディ/音楽編(8)~『ティーチ・ユア・チルドレン/Teach Your Children』

2014-07-30 | 映画

 この映画のラストシーンに流れるのは、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングの『ティーチ・ユア・チルドレン』だ。この長いユニット名はCSN&Yと略されることが多く、デヴィット・クロスビー、スティーヴン・スティルス、グラハム・ナッシュ、ニール・ヤングという、そうそうたるメンバーで構成されている。『ティーチ・ユア・チルドレン』は、CSN&Yの最大のヒット曲で、ダニーとメロディが鉄道の廃墟で結婚式を挙げ、トロッコで走り去るシーンに使われている。美しいハーモニーで親子の絆を歌うこの曲は、ダニーとメロディがトロッコに乗り去っていくラストシーンを、より印象深いものにしてくれている。

 ところで、この頃から洋楽にも興味を持ち始めたぼくは、翌年ニール・ヤングがソロで発表した『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』と『ハーヴェスト』を聴いてすっかり彼のファンになってしまった。ちなみに初めて買った「ミュージック・ライフ」という音楽雑誌の表紙がニール・ヤングだった。その年(1972年)に大ヒットした『孤独の旅路』は、今でも心に残るぼくの思い出の一曲である。
 

 『ティーチ・ユア・チルドレン』

 人生を歩む君たち 君たちには生きていく決まりがある
 だから自分をしっかり持って 過去なんてさよならさ
 君たちの子どもたちによく教えておくがいい
 父親の苦しみはゆっくり過ぎていくんだ
 そして君たちの夢を子どもたちに語るんだ
 子どもたちに共感されようとされまいと
 なぜと聞かないで
 それを聞いたって嘆くだけだ
 じっと顔を見つめ ため息ひとつ
 子どもたちが親を愛してるってわかる

 君たちは若いから 
 親たち世代が年老いていく恐れがわからないだろう
 だから君たちの若さで彼らに力を貸すんだ
 彼らは死ぬまで真実を探求するだろう
 君たちの親によく教えておくがいい
 子どもたちの苦しみはゆっくり過ぎていく
 そして君たちの夢を親に語るんだ
 親たちに共感されようとされまいと
 なぜと聞かないで
 それを聞いたって嘆くだけだ
 じっと顔を見つめ ため息ひとつ
 親が君たちを愛してるってわかる
  
  
 
■クラス全員の前で結婚式を挙げるダニーとメロディ



■それを阻止すべく先生たちが乱入



■クモの子を散らすように逃げる生徒たち



■先生と生徒が入り乱れて大乱闘



■一人の生徒が手製爆弾を投げる



■ダニーのお母さんの車が大爆発



■一斉に逃げ出す大人たち



■トムはダニーたちをトロッコで逃がそうと思いつく



■トムに見送られトロッコをこぐダニーとメロディ





■ダニーとメロディを乗せたトロッコは遠ざかっていく



小さな恋のメロディ/音楽編(7)~『ギヴ・ユア・ベスト/Give Your Best』その2

2014-07-27 | 映画

 愛を誓いあったダニーとメロディは、しめしあわせて学校をさぼり日帰りで海岸沿いのリゾートへ出かける。遊園地や海辺でふたりだけのデートを楽しむのだが、そのときバックに流れるのが『ギヴ・ユア・ベスト』だ。この曲はダニーとトムがウエスト・エンドへ行った時にも使われた、いわばトムのテーマ曲。アップテンポで軽快な曲は、海岸リゾートでの初デートシーンを盛り上げるのに一役買っている。

■学校をさぼり電車で海岸リゾートに来たふたり














結婚を誓い合ったふたりだったが、11歳の子どもには越えられない厳しい現実が待っていた・・・・


小さな恋のメロディ/音楽編(6)~『若葉のころ/First Of May』

2014-07-26 | 映画

メロディはダニーの帰りを待って、初めてふたりで下校する。
誰もいない墓地で、ふたりはお互いの思いをうちあけ、永遠の愛を誓う。
バックに『若葉のころ/FIRST OF MAY』の美しい旋律が流れる。


『若葉のころ/FIRST OF MAY』

 ぼくが小さく クリスマスツリーが大きかったとき
 ぼくたちは恋をささやいた
 ぼくに聞かないで なぜ時が過ぎ去ったのか
 何かが遠くからやってきたんだ

 今ぼくたちが大きく クリスマスツリーは小さくなった
 そして誰も過ぎ去った日々を聞かない
 だが君とぼくと 二人の愛は永遠に消えない
 誰かが泣くだろう 五月が訪れたとき

 君とぼくのために育ったリンゴの木
 リンゴが落ちていく ひとつずつ
 そしてぼくは思い出す すべての一瞬一瞬を
 君の頬にキスして 君が去っていった日を 


■トムの必死の誘いを背に受けながら、ダニーはメロディとともに歩き出す
いつの時代も恋する気持ちは男の友情にまさるのだ
 














■お互いの気持ちを確かめるように見つめ合うふたり
このシーンはポスターやDVDのパッケージにも使われている






小さな恋のメロディ/音楽編(5)~『ラヴ・サムバディ/To Love Somebody』

2014-07-23 | 映画

ダニーとトムは学校の運動会で、苦手な徒競走に出るはめになり、ふたりで文句を言いあう。
しかしダニーは本番で、メロディのことを思いながら走り、見事1位になる。
バックに流れる『ラヴ・サムバディ』はまさにダニーのテーマ曲にふさわしく、いじらしくも切ない恋する男心を歌っている。


 『ラヴ・サムバディ』

  ひとすじの光 
  その光は決して 
  ぼくを照らさない
  この長い人生を 
  ぼくは君と生きたい
  生きていきたい
  
  人はいう 
  どんなことにも
  ひとつのやり方がある
  だが何になる 
  君がいないなら

  ぼくの頭の中に
  君の面影がよみがえる
  ぼくの心は決まっているのに
  君はわかってくれない
  ぼくは夢中さ
  こんなにも夢中なのさ

  ぼくは男だ
  君にはそれがわからない
  ただ君のために生きている
  でもそれが何になる
  君なしでは
     
  君にはわかりはしない 
  誰かを愛するという事が どんな事なのか
  ぼくが君を愛するように



■徒競走ですでに「負け組」が確定している足の遅いふたり
トムはそれをたとえて人生哲学を語る
 


■ダニーはメロディとのことをトムに尋ねる。トムはクールに答える「神様がもう決めてる」



■ダニーの気持ちをよそに、友人たちと談笑するメロディ
女という生き物は、もうこの歳から男心を惑わすすべを心得ているのだ
 


■ダニーはメロディのことを思いながら走り、なぜか1位になってしまう(妄想パワー爆発!)



■ゴールしたあと妄想パワーを出しすぎて気絶してしまうダニー



■ダニーの頭の中でフラッシュバックするメロディの姿
好きな女子を思うだけでこんなにがんばれる、男ってホント可愛いい生き物です





小さな恋のメロディ/音楽編(4)~『ギヴ・ユア・ベスト/Give Your Best』その1

2014-07-22 | 映画

 この映画の中心はもちろんダニーとメロディのラブストーリーだが、ダニーとトムの男の友情も細やかに描かれている。少年軍で知り合い同じクラスのふたりは親しくなり、いつも一緒に行動するようになる。ある日の下校時、ダニーはトムに誘われ家へ向かうバスとは反対方向のウエスト・エンドへ向かうバスに乗りこむ。

 ウェスト・エンド(ダニーたちが住むのはロンドン南部下町のランべス地区)はロンドンの娯楽の中心地で、商業施設や映画館、劇場が軒をならべる。トラファルガー広場やピカデリー・サーカス周辺で無邪気に遊ぶふたり。その姿は男同士のデートを楽しんでいるようで、この少年期ならではの男のつきあいは、男子なら誰でも思い当たるものがあるに違いない。もちろん当時女子とつきあったことがないぼくも、男友達のグループや友人とふたりで映画や繁華街へ遊びに行き、男の友情を満喫したものである。(もちろんみんな女子と遊びに行くのはやぶさかではないのだが、クラスにはそんな甲斐性のある男子はいなかった)

 この男ふたりでウエスト・エンドへ繰り出すくだりは、同世代のぼくにはに心惹かれるものがあり、バックに流れるアップテンポの軽快な曲『ギヴ・ユア・ベスト』とともに印象深いシーンだった。トムのテーマとも言えるこの曲は、ヴァイオリンやバンジョーを使ったカントリーテイストのにぎやかな曲で、元気でやんちゃなガキ大将トムのキャラにぴったりハマる。明るい曲調の反面、歌詞は道化師の悲哀を綴っているのだが、このあたりも陽気さの中に孤独な影を引きずる淋しがりやのトムを彷彿とさせる。またこの曲は、ダニーとメロディの海岸リゾートのデートシーンでも使われ効果を上げている。



『ギヴ・ユア・ベスト/Give Your Best』

 オイラはしがない道化者
 昔は友だちをごまんと持っていた
 オイラの出番はみんなの最後
 でもオイラは友だちにベストを捧げた

 ショーもやってきたよ 
 みんなが知ってる
 着てるものもほとんど売っぱらった
 与える者がいれば 貸すやつもいる
 だからオイラは友だちにベストを捧げる
 
 たとえ人生に光がないと思えても
 毎日いつも真っ暗っていうわけじゃない
 夜が開ければ朝が来る
 平和があれば 今度は闘うときだ
 友だちにベストを捧げて


■帰りのバスを待つ学生たちの列に、トムたちのグループが強引に突っ込み大騒ぎ



■ダニーをウエスト・エンドに誘うトム



■学友たちを尻目に、反対側の停留所からバスに乗り込んだふたり



■トラファルガー広場で大はしゃぎ





■こういうおちゃらけなヤツ、クラスに一人はいました



■中学生のぶんざいでオトナの店をひやかし、お兄さんに追い払われる



■ホームレスのおじいさん、あなた生きてます?



■映画「パットン大戦車軍団」の看板のポーズをとるトム(こんなこと、やったよなあ~)



■トムは複雑な家庭の事情をダニーに打ち明け、ふたりの友情はさらに深まっていく


ウエスト・エンドのシーンは、ガキ大将トムの独壇場。
こんなヤツが友達にいると、毎日の学生生活がホント楽しくなります。 


 ところで、この映画には2階建ての赤いバスがよく登場する。この時代(1970年代)のロンドンを走っていたのは「ダブルデッカー」という旧式のバスで、通称ルートマスターという愛称で親しまれていた。運転手のほかに車掌がいるのが特徴で、オープンになった最後部から乗り降りする。 2005年、ルートマスターは50年の歴史に幕を下ろし、現在はロンドン市内を観光用バスとして運行している。


■ルートマスターに飛び乗りウエスト・エンドへ向かうダニーとトム
 


■酒場に向かうメロディのシーンにも登場
 


■ダニーとメロディは初めて一緒に下校し、バスの間を横断しメロディの家へ向かう

〈参考〉映画でわかるイギリス文化入門/板倉巌一郎他/松柏社/2008 


グリーン・カーテン作戦

2014-07-21 | ありふれた日常

朝から蝉の声がうるさいくらいで、梅雨明けを思わせる夏空が広がっています。
1階の和室の日よけ代わりに植物を植えようと、毎年思いながらなかなか果たなかったのですが、今年は気合を入れて5月の連休後にゴーヤと朝顔をプランター4つに植えました。

名付けて「グリーン・カーテン作戦」。
「マーケット・ガーデン作戦」みたいで響きがいいですねって、誰も知らないつーの 
最近の暑さでどんどんツルが伸び、小さいながらゴーヤも収穫できました。
朝顔も連日咲いているので、今年は「日よけ+見た目の涼しさ+ゴーヤチャンプルー」で暑い夏がのりきれそうです。


 


 
もう少し葉が茂ると日よけ効果がさらにアップしそうです。

 




子どもたちが小学校の時以来の朝顔の栽培ですが、なんかいいもんです。 





 
まだ小さいですが、これからどんどん実をつけそうです。 

 


セミも夏本番。今年はゴーヤチャンプルーを肴に、これで暑さがのりきれそうです→


小さな恋のメロディ/音楽編(3)~『スピックス・アンド・スペックス/SPICKS AND SPECKS』

2014-07-20 | 映画

 『スピックス・アンド・スペックス』は、この映画の主人公たち、ダニー、トム、メロディの通う学校の放課のシーンで使われている。本編ではビージーズではなく、子どもたちのハミングとオーケストラヴァージョンになっているが、ぼくの買ったビージーズのレコードでは彼らの原曲が収録されていた。

■授業が終わり一斉に教室から飛び出す生徒たち
中央は後にダニーと親友になるトム



■ダニーはまだクラスに親しい友人がいない



■思い思いの放課を過ごす生徒たち



■ロンドンの中学生の日常を見て、日本の田舎の中学生はただただ驚くばかりだった



■友人と話しながら校庭を歩くメロディ



■仲間たちとふざけあうトム


小さな恋のメロディ/音楽編(2)~『メロディ・フェア/MELODY FAIR』

2014-07-19 | 映画

 この映画のためにビージーズは、オリジナルの楽曲を6曲提供している。どの曲も名場面を彩る素晴らしい曲ばかりだが、やはり『小さな恋のメロディ』といえば日本でも大ヒットした『メロディフェア』に止めを刺す。この曲はメロディの初登場シーンで流れるいわば彼女のテーマソングだが、原曲はビージーズの2枚組アルバム『オデッサ』(1969年)に収録されていたものだ。彼女が金魚を手に父親を酒場に迎えに行くシーンは、今も鮮明に心に焼きついていて、当時ぼくの一番のお気に入りだった。

 アパートを出て酒場まで行くメロディの表情を、カメラは遠近取り混ぜ様々なアングルからとらえる。きらめくような少女らしい笑顔から、時にはちょっと憂いを含んだ大人っぽい表情まで、少女と女のはざまで揺れ動く11歳のメロディ。ぼくと一緒に映画に行ったI君を含め、当時この映画を見た多くの中学生は、メロディ登場のこのシーンに完全に魅了されたのだった。

 『メロディ・フェア/MELODY FAIR』

 泣き顔のあの娘は誰だろう
 あれこれ心を悩ませている 
 あの娘にはわかっている
 人生は競走だって
 でも顔にはださないで

 メロディ・フェア 髪をとかしてごらん
 君も美しくなれるんだ
 メロディ・フェア 
 忘れちゃだめだよ 君はひとりの女
 メロディ・フェア
 忘れないで 君は女の子なんだ

 窓辺のあの娘は誰だろう
 降る雨を眺めてる
 メロディ、人生は雨じゃない
 メリー・ゴー・ラウンドのようなものさ

 メロディ・フェア 髪をとかしてごらん
 君も美しくなれるんだ
 メロディ・フェア 
 忘れちゃだめだよ 君はひとりの女
 メロディ・フェア
 忘れないで 君は女の子なんだ


■母親の洋服と勝手に交換した金魚を手に酒場に向かうメロディ
小さな子供たちがもらった金魚を恨めしそうに見つめる


■馬用の水桶に金魚を放しちょっと寄り道



■泳ぐ金魚を見つめ彼女は何を思う





■11歳の女の子らしい屈託のない笑顔



■酒場に向かうメロディ



■酒場の窓越しに父を探すメロディ
父のいる壁の向こうはオトナの世界、今はまだ11歳の少女にこの壁は越えられない



■なかなか父が見つからず不安そうな表情



■壁にもたれ父を待つ





■父が酒場から出てきてほっと表情を崩す


父親を迎えに行く短いシーンだが、『メロディ・フェア』の歌詞が字幕で流れ、それが各場面にぴったりはまる。
映像と音楽がひとつになったこの名シーンは、40年経った今もぼくの心に刻まれていて、この映画を忘れがたいものにしてくれた。


小さな恋のメロディ/音楽編(1)~『イン・ザ・モーニング/IN THE MORNING』

2014-07-16 | 映画

 『小さな恋のメロディ』で忘れてならないのは、ビージーズによる映画音楽である。これだけ映画のシーンと音楽が見事にマッチングした例はめったにない。映画公開当時、ちょうど洋楽を聴きはじめていたぼくは、この映画でビージーズを知り、映画に使われた曲が入った彼らのレコードを繰り返し聴いたものだ。今ならDVDやTV録画でいつでも好きなだけ見ることができるが、当時は音楽を聴いて映画の雰囲気に浸るくらいしかすべがなかったのである。あとはいつになるかわからないリバイバル上映かTV放映を待つしかないので、こんな時代もあったのが今にして思うと懐かしい。当時はそれだけ映画を見るということ自体が特別な時代だったのである。まあそれゆえ、感銘を受けた映画への思いも深いのだが・・・


『イン・ザ・モーニング』

 朝がきて 月が消えると 
 ぼくの大好きな時刻(とき)がくる
 七色の虹が 太陽に踊って
 水たまりの水が 夜の冷たさにまだ凍っている
 ぼくの人生の朝よ

 陽がのぼったら いつものように
 君を待っている あの波打ちぎわで
 うつり変わる砂に 城をきずきながら
 世界がどうなっているのか 誰もわかっていない
 ぼくの人生の朝よ

 夜になったら 君を月につれていく
 ぼくの部屋の天井の 右側の片隅で 
 二人で待っている
 太陽がふたたびかがやいて 
 物干しのひもを躍らせ あくびが出てくるまで 
 ぼくの人生の朝よ 



■映画のオープニング(主人公たちの住むロンドンの下町の朝の情景)に流れる『イン・ザ・モーニング』




■映画の原題は『Melody』







■ダニエルとトムが入隊している少年軍の行進
 


■音楽担当のビージーズとクロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングのクレジット
 


■擦り切れるまで聴いたビージーズのレコード


メロディに首ったけ~小さな恋のメロディ(1971年)

2014-07-13 | 映画

 前回から突然始まった「映画少年漂流記」。「プレイバック70年代」の映画編ということで、ぼくが70年代中学~大学卒業までに映画館やTVの映画劇場でリアルタイムで観たお気に入りの作品を、その時代のエピソードも交えながら紹介していく予定なので、気楽にお付き合いいただきたい。どの映画もぼくにとっては思い入れの深いものだが、この頃見た映画は思いっきり個人的趣味が反映していて、世間で名作と言われる映画はほとんど見ていないので、あしからずご了承ください。

 さて1969年、小6の冬にぼくは映画館デビューを果たしたのだが、中学生になった1970年は映画館へ一度も足を運ばず過ぎてしまった。中学生になると同時に、親友のM君は転校してしまい、新しくできた部活(ハンドボール部)仲間の友人たちの中には、一緒に映画を見に行くような映画好きはいなかったのである。

 年が明けいよいよぼくにとってはあらゆる意味でエポックメーキングな年、1971年が訪れた。中学2年生になって同じクラスになったI君が、またぼくを映画の道へと導いてくれたのだ。ぼくの洋楽のお師匠さんであるI君は(洋楽巡礼参照)、もちろん洋画にも造詣が深く、そのI君イチオシの映画ということで誘われて見に行ったのが『小さな恋のメロディ』だった。とにかくヒロインのメロディ役を演じたトレーシー・ハイドが抜群に可愛くて、彼女はこの映画1本で、ぼくたち多くの日本の少年たちの純真な男心を鷲づかみにしてしまったのである。

 スクリーンの上のメロディ(トレーシー・ハイド)にすっかり恋してしまったぼくは、彼女の記事が載るスクリーン(映画雑誌)を購入し、映画で使われた曲が入ったビージーズのレコードを擦り切れるほど聴いて、映画のシーンを心に描く毎日だった。I君とはいつも映画の話で盛り上がり、2人でメロディのような可憐な少女が突然転校してくる妄想にふけっていた。ニキビ面の自分たちのことは棚に上げ、同じクラスの女子とは比較にならない現実にため息をつき、ロンドンから遠く離れた日本の片田舎に住む中2の1971年は、何事もなく過ぎていくのであった。
 

■映画のストーリー
 舞台は1970年代初頭のロンドンの下町にあるキリスト教系の厳格な中学校。同じクラスの11歳の2人の少年、ダニエル(マーク・レスター)とトム(ジャック・ワイルド)は、少年軍も同じだったことがきっかけで親しくなる。ミドルクラスの家庭に育つ内気でシャイなダニエルと、労働者階級の貧しい過程で育つやんちゃなガキ大将のトム。性格も家庭環境も対照的なふたりだが、なぜか意気投合し友情を深めていく。 
 
 ある日トムに誘われ、たまたま女子バレエのクラスを覗き見したダニエルは、そこで踊るひとりの可憐な少女メロディにすっかり心を奪われてしまう。ダニエルとメロディはお互いに惹かれあい、ふたりの愛を育んでいく。そろって学校をさぼりデートに行った海辺のリゾート地で、ついにふたりは結婚の約束をかわす。 
 
 最初トムはふたりの友情に突然入ってきたメロディにとまどい、自分との友情よりメロディへの愛を優先するダニエルにつらくあたるが、やがてダニエルとメロディが真剣に結婚を望んでいることを知り、ふたりを応援する。はじめはからかっていたクラスメイトたちも、真剣なふたりの愛を成就させようと一致団結し、ふたりは駆け落ちを決心をする。
 
 授業を抜け出したクラスメート全員に見守られ、秘密の遊び場の鉄道の廃墟で、トムが神父になり結婚式が行われた。それを阻止すべく駆け付けた先生や親をクラスメイトの協力で振り切ったふたりは、トムの見送るなか廃線跡のトロッコに飛び乗り、どこまでもまっすぐに伸びる線路を遠ざかって行った。


■ぼくのイチオシ 
 公開当時この映画に夢中になり、ぼくは少ない小遣いをはたき地元の町の映画館へ2度も見に行ったのだが、その当時はメロディの可愛さにばかりに気を取られ、この映画の本当の魅力に気づいていなかった。今回久しぶりにDVDをじっくり見直して、ラブストーリーとは別に、登場する少年少女たちの日常が実に生き生きと自然に描かれているのが印象に残った。

 映画の冒頭は、夜が明けたばかりのロンドンの町を行進する少年軍(BB)のシーンから始まる。入隊したばかりの優等生ダニエルと、ひと目で悪ガキと分かるトムが親しくなるきっかけの場面なのだが、ロンドンに住む同世代の彼らの日常を初めて目にした当時のぼくは、新鮮な驚きと興味で、のっけからぐいぐい映画に引き込まれてしまった。

 映画の前半は環境の違う主人公3人の家庭と学校での普通の日常を、ディテールにこだわり丁寧に描くことに専念している。 3人は同じ学校に通いながらも、その暮らしぶりはずいぶんと違っている。ダニエルはミドルクラスの家庭で育ち家は一戸建て、母親は派手な身なりでオープンカー(ただしかなりくたびれているところがミソ)を乗り回し、会話の端々からも上昇志向が垣間見える有閑マダム。一方トムとメロディが住むのは低所得者向きの古い集合住宅で、トムは祖父と2人暮らしのため、家事をしに決まった時間に帰宅しなければならない。メロディは母親に頼まれて昼間からパブに入り浸る父親を迎えに行くのが日課で、祖母を含めた4人家族の決して裕福ではない暮らしぶりが透けて見える。 

 後半からはダニエルと親友トムとの男の友情と、ダニエルとメロディのラブストーリーが絡み合って急テンポで物語が進行していく。全編に流れる淡いトーンの映像には、カメラを通して彼らを優しく見守る監督の思いが伝わってくるようだ。トロッコに乗りふたりだけの世界に旅立つラストシーンは、見終わってからも単なるファンタジーでは終わらない深い余韻を残していく。その他にもメロディが金魚を持って街角を歩くシーンや、ダニエルとメロディが手を取り合って下校するシーン、雨の墓地で2人がより添うシーンは、美しい映像と音楽とともにいつまでもぼくの心に残っている。


■DVDパッケージは逆光に浮かび上がるふたりの姿が印象的なシーン


■翌年に出版された原作本


■原作本掲載の映画のワンシーン
楽器の演奏テストの順番待ちの間、自然に始まった即興演奏で、ふたりの心は急速に接近する


■小さな恋のメロディ
 公開:1971年
 監督:ワリス・フセイン
 出演:マーク・レスター、トレーシー・ハイド、ジャック・ワイルド他

次回はこの映画にはなくてはならない名曲の数々を、名シーンとともに紹介します・・・


空中戦に酔い、車に酔った洋画初体験~空軍大戦略(1969年)

2014-07-05 | 映画

 皆さんは映画館で初めて見た洋画を覚えているだろうか。もちろんこの場合の洋画とは、親に連れられて見に行った子供向けの映画ではなく、一般向けのオトナが見る洋画のことである。ぼくは小学6年生の冬、友人と一緒に名古屋の映画館で見たのが洋画初体験だった。

 その映画は『空軍大戦略』と言う第二次大戦での英独による空の戦い『バトル・オブ・ブリテン』を描いた戦争映画だった。映画に誘ってくれたM君とぼくは元々航空機ファンで、特に第二次大戦で活躍した戦闘機が大好きだった。ぼくたちは当時、その時代の少年たちが一度はハマるプラモデルづくりに熱中していた。もちろん第二次大戦の航空機や戦車が中心なのだが、ただ組み立てるだけでは飽き足らず、『航空ファン』や『丸』という雑誌に載っている各国部隊の資料を参考に、改造やカラーリングを施して悦に入るかなりマニアックな小学生だった。そんなぼくたちにとって、実機によるメッサーシュミットとスピットファイアの壮絶な空中戦が売りのこの映画は、まさに見逃せない作品だったのだ。

 そもそもこの『空軍大戦略』は秋に公開されたばかりで、ぼくたちの町の映画館で上映されるのは来年の春、へたをすれば夏ころまで待たなければならない。そんな時、M君は彼のお兄さんが自動車で名古屋の映画館へこの作品を見に行くことを知り、ぼくたちが便乗できるよう頼んでくれたのだった。かくして生まれて初めて、それも自動車に乗って名古屋の映画館へ行けるとあって、ぼくは期待と興奮に胸を膨らませ、一日千秋の思いでその日を待っていた。

 待ちに待ったとある冬の日曜の朝(正確な月日は記憶にない)、クラスメイトのF君も加わった小学生3人組は、M君のお兄さんの自動車で名古屋駅前にある映画館へ向かった。この当時ぼくの家にはクルマが無く、自動車に乗ること自体が珍しかった。おまけに生まれて初めて名古屋という大都会へ映画を見に行くという、期待と緊張が入り混じった変な高揚感で胸は高まるばかりだった。

 名古屋で見た映画は期待通り、いやそれ以上の面白さだった。プラモや写真でしか見ることがない英独の航空機が、スクリーン上を飛び回る姿に我を忘れ、気がついたら2時間を超える上映時間はあっという間に終わっていた。実際にプラモで作ったドイツ空軍のメッサーシュミットB109やハインケルHe111、ユンカースJu87スツーカとイギリス空軍のスピットファイアやホーカーハリケーンが入り乱れての空中戦は、実写映像さながらの迫力で、航空機ファンの小学生にはまさしく夢のような時間だった。

 映画の後に売店でホットドッグというものを生まれて初めて食べた。ホットドッグはパンにソーセージとキャベツを挟み、ケチャップを塗って電子レンジでチンしたただけのシンプルなものだったのだが、ぼくにとっては電子レンジ自体見るのも初めてだった。それで調理されたホットドックの味は、今見終わったばかりの映画とともに、ぼくにとっては生涯忘れられないものになった。

 映画の興奮も冷めやらぬ帰り道、Fくんが車に酔ってしまい途中の最寄駅の近くで降りることになった。F君は車から降りると、ちょっと寂しそうなほっとした表情でぼくたちに手を振った。そのあと車に揺られながらぼくも少し気分が悪くなってきた。今思うと普段クルマに乗りなれていないぼくとF君は、免許取りたてのお兄さんの大胆な運転と、食べなれないホットドッグの相乗作用で、すっかり車酔いしてしまったのだ。ぼくはせっかく乗せてもらったM君とお兄さんに悪い気がして、何とか自宅まで我慢した。ともあれ、生まれて初めての映画館での洋画体験は、映画とクルマに酔ったエピソードとともに、小学生最後の思い出として今も心に刻まれている。

 

■空軍大戦略
 公開:1969年
 監督:ガイ・ハミルトン
 出演:マイケル・ケイン、ローレンス・オリヴィエ、スザンナ・ヨーク、クルト・ユルゲンス他

監督のガイ・ハミルトンは007シリーズが有名で、キャストも当時の一流どころをそろえている。 
CGの無い時代の映画なので、空中戦は実機を使ってリアルに描かれていて、本来の映画の良さが味わえる。
40年ぶりにブルーレイをレンタルして見たのだが、空中戦は今見ても迫力満点。特に最後の大空中戦のシーンで大空を舞うメッサーシュミットとスピットファイアの姿は、非情な戦場ということを忘れるくらい、優雅で美しい。
この映画の登場人物に主役はいない。主役は大空を飛び交う英独の戦闘機なので、特に第二次大戦の航空機好きにはたまらない作品。