かどの煙草屋までの旅 

路上散策で見つけた気になるものたち…
ちょっと昔の近代の風景に心惹かれます

依佐美送信所本館・機械棟(愛知県刈谷市)

2012-12-24 | 失われた建物の記憶

 刈谷市の近代建築としては表現主義風の大中肇の作品が良く知られていますが、刈谷市には東海地方では珍しいドイツ表現主義の影響を色濃く受けた建築様式を持つ依佐美送信所がありました。過去形なのは残念ながら2006年に取り壊されてしまったからで、その半年前に現地を訪れる機会があり、なんとか最後の姿をこの目に焼き付けることができました。

 まず目に入るのは、建物の正面中央に飛び出した異様な形の庇のある玄関と、その上ににょっきり突き出したアーチ屋根の塔屋で、見る者に忘れることのできない強烈なインパクトを与えます。この可塑性の高い鉄筋コンクリート造の彫塑的造形が、当時ドイツを中心に流行した表現派と呼ばれるスタイルで、鉱物結晶や放物線を基にした新しい建築形態として日本でも多くの建物に採用されました。

 現在跡地は「フローラルガーデンよさみ」という公園施設として整備され、公園内に設けられた依佐美送信所記念館では、通信所の送信機器類が貴重な産業遺産として保存展示されています。


◆日本無線電信(株)依佐美送信所本館・機械棟/愛知県刈谷市高須町山ノ田1
 竣工:昭和4年(1929)
 設計:竹内芳太郎
 施工:大林組
 構造:鉄筋コンクリート造2階建
 撮影:2005/10/09
 ※2006/04取り壊し

※訪問時の詳細はこちらのHPにアップしてありますので興味のある方はどうぞ
http://www.me.ccnw.ne.jp/machikin/kaitai1.html 



■送信所本館正面~使われなくなってから月日が経つようで、草木も伸び放題、荒涼とした雰囲気が漂っていました



■長波送信室(機械棟)外観



 ところで依佐美通信所が建てられる少し前の大正末頃、同じ東海地方の岐阜市で表現主義風の建物が竣工しています。岐阜で建築事務所を開いていた河村鹿市と佐藤信次郎が手がけた岐阜県図書館で、この建物の外観が依佐美通信所に瓜二つなので驚きます。
 偶然と言うにはあまりに似ているので、依佐美通信所を設計した竹内芳太郎が、数年前に竣工した岐阜県図書館を参考にしたとも考えられます。ただ私の知る限りでは、近代建築関係の書籍で岐阜県図書館と依佐美通信所の関係に触れたものを見たことが無いので、本当のところは藪の中です。


岐阜教育会館(旧岐阜県図書館兼会館)~こちらは現存していますので見学可能です


 



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