かどの煙草屋までの旅 

路上散策で見つけた気になるものたち…
ちょっと昔の近代の風景に心惹かれます

柱/オーダー(3)~銀行建築編/その1

2014-03-30 | まちかどの20世紀遺産

 オーダー(列柱)が一番似合う建物と言えば、やはり戦前の銀行建築ではないでしょうか。柱を強調したファサードが特徴の新古典主義の建築の典型ともいえる銀行建築は、大正末~昭和初期にこぞって建てられました。ギリシャ神殿を思わせるオーダーがずらりと並ぶ建築は、アメリカンボザールと呼ばれるヨーロッパの古典主義様式をアメリカ風にアレンジしたもので、日本では1920年代に一大ブームを迎え、大規模な銀行、オフィスビルには好んでこのスタイルが使われています。巨大なオーダーをファサードにずらりと並べるデザインはそれだけで大迫力、その押し出しの強さで銀行の威厳と信用をこれでもかとばかりに表現しています。

 今回は現代建築が建ち並ぶ名古屋の中心街伏見~栄界隈で、今も残る戦前のクラッシクな銀行建築を紹介します。名古屋の昭和の街角の景観を今に伝える貴重な歴史的建造物として、これからも後世に残して欲しい銀行建築です。


■三井住友銀行上前津支店/昭和6年(名古屋市中区)
三井本店を手がけたトローブリッヂ・リビングストン建築事務所の設計。
2階部分ぶち抜きのイオニア式の半円柱が、銀行らしい重厚な雰囲気を漂わせています。





三井住友銀行名古屋支店(旧三井銀行名古屋支店)/昭和10年(名古屋市中区)
ファサードを飾る6本のイオニア式オーダーは壮観で、背の低い横長の建物はギリシャ神殿を思わせます。




 


■旧名古屋銀行本店/昭和元年(名古屋市中区)
4階分の長さがあるオーダーは迫力満点。三井住友銀行名古屋支店とともに、広小路通りの歴史的景観を今に伝えています。



■柱頭はイオニア式とコリント式が合体したような独自の装飾



■正面玄関脇の柱頭飾り~植物をモチーフにした様式にとらわれないオリジナルなデザイン。



柱/オーダー(2)~擬洋風建築編

2014-03-26 | まちかどの20世紀遺産

 わたしの地元東海地方にも、数は少ないですが明治時代の擬洋風建築が残っています。まさに地元の棟梁たちが見よう見まねで建てた「洋風建築もどき」ですが、地方の町では当時としてはまだまだ珍しい最新の西洋建築だったのです。大都市の西洋館に比べればぎこちない造形ながら、建物からは施主や棟梁の西洋建築へのあこがれや熱い思いが伝わってきます。特にファサードの中心の玄関廻りは力の入れどころで、しっかりオーダーを配して洋館らしさを演出しています。


■郡上八幡楽藝館(旧林療院本館・旧レントゲン棟・旧看護婦棟)/明治37年/岐阜県郡上市八幡町
当時地方で洋館のオーナーと言えば、大都市で新しい学問や技術を勉強した一部知識人の専売特許で、特にお医者さんはこぞって洋風建築を建てたようです。
西洋館は学と金の両方を合わせ持つ、まさに地方の名士にふさわしいステータスシンボルだったのです。


■柱頭はややバランスは悪いもののイオニア式できめています



■旧加治田駐在所/明治10年頃/岐阜県加茂郡富加町
玄関テラスに円柱を並べオーダーを意識したデザインになっています。
明治10年当時、地方の小さな山間の町の駐在所に早くも洋風意匠を取り入れているのは特筆に値します。
※ブログをご覧の方から取り壊し情報をいただきました。岐阜県下最古の擬洋風建築だったのに、非常に残念です



鳴尾公会堂(旧鳴尾学校)/明治15年/名古屋市南区
名古屋市内現存最古の学校建築。建物は純和風建築ながら玄関の柱には洋風意匠を取り入れている。



■設計施工の大工棟梁青木角左衛門による柱頭飾りがスゴイ!
いったいどこから思いついたのか、ソロバンの珠をつぶした様な形状の皿が3枚重ねになっているのだが、まさに擬洋風ワールド全開イィィ~ 



旧日清紡績針崎工場竜城学園講堂(愛知県立旧愛知第二中学校講堂)/明治40年/愛知県岡崎市
円柱ではありませんが柱頭はトスカナ風にまとめています。出入り口の櫛形アーチが明治の洋風建築らしいところ。


 


柱/オーダー(1)~明治村編

2014-03-21 | まちかどの20世紀遺産

 日本の近代建築(西洋館)の魅力は、何と言っても外観のデザインの多様性にあります。なぜ日本の西洋館のデザインはそんなにバラエティに富んでいるのか?それは日本に西洋建築が導入された明治という時代がポイントです。日本が近代化に邁進した明治時代(19世紀中~20世紀初頭)は、ちょうど西洋建築の本家本元の欧米では過去の建築様式のリヴァイヴァルブーム真っ只中でした。紀元前の古代ギリシア、ローマ建築の古典様式から中世~近世のゴシック、ルネサンス様式まで、様々な様式を用途によって使い分けたり(歴史主義)、複数の様式を組み合わせたり(折衷主義)した建築が、ヨーロッパやアメリカでもこぞって建てられました。

 日本でも大都市を中心にお雇い外国人建築家や、教育を受けた日本人建築家によって、リヴァイヴァルされた様々な歴史様式を用いた建築が建てられました。明治~大正期に建てられた歴史主義の建築としては、コンドルの岩崎邸、ニコライ堂、エンデ、ベックマンの司法省、辰野金吾の日本銀行、東京駅、片山東熊の赤坂離宮(迎賓館)などが現存していて、全て国宝や重要文化財の指定を受けています。

 一方日本の地方都市でも大都市に負けじと、地元の大工棟梁などを中心に洋風建築の建設が盛んになります。西洋建築の正式な知識や技術を持たない地方の棟梁たちが、大都市に建てられた西洋建築を見よう見まねで建てた西洋館を、正規の建築家が建てた建築と区別して「擬洋風建築」と呼びます。棟梁たちは西洋建築らしさを手っ取り早く演出するために、一目で洋風建築と分かる特徴的で分かりやすいデザインをとり入れたのですが、列柱(オーダー)はその代表的なもののひとつです。

~オーダーとは~
 西洋建築の肝(きも)ともいうべきオーダーは、古代ギリシアの神殿建築をルーツとし、古代ローマ、バロック、ルネサンス、ジャコビアンなどの古典主義建築はすべてオーダーを中心にデザインされています。オーダーは円柱(コラム)とその上の水平部分である梁(エンタブラチュア)からなる柱梁構造で、柱頭の造形などでトスカナ、ドリス、イオニア、コリント、コンポジット式の5種類に分類されています。ファサードにオーダーがデザインされていれば、誰が見ても西洋建築なのは一目瞭然、アーチとともに西洋建築のツートップとも言える重要アイテムです。明治期に建てられた「擬洋風建築」では、建築様式などどうでもいい棟梁たちによって、オーダーの柱頭が自由に変形され、日本独自の西洋館の造形が楽しめます。
 
 今回は明治村の洋風建築に使われている柱(オーダー)を探してみました。大工の棟梁の建てた擬洋風建築から、本格的なルネサンス建築まで、明治の西洋建築には建物のファサードを飾るオーダーがいたるところで活躍しています。 


■三重県庁舎/明治12年(1879)
地元三重県の大工棟梁清水義八の作品で、内務省庁舎(明治7年)に倣った当時の典型的な官庁建築。
建物は木造漆喰塗りで、張り出した車寄にはトスカナ風の列柱と大きなペディメント(妻壁)が載り、ヴェランダにも柱が並ぶ擬洋風建築。


■本家と比べるとやや首長のトスカナ式オーダーが並ぶ回廊



■三重県尋常師範学校・蔵持小学校/明治21年(1888)~三重県庁舎と同じ清水義八の設計。
張り出した車寄とヴェランダの柱はトスカナ風で、途中に持送りを出して連続アーチを支え、アーケード風空間を演出。



■東山梨郡役所/明治18年(1885)
当時山梨県を中心に多くの洋風建築を建設した県令藤村紫朗が手がけた、いわゆる「藤村式」の擬洋風建築のひとつ。
実際に設計施工を担当したのは地元の左官の棟梁土屋庄蔵で、三重県庁舎と同じ車寄とヴェランダにオーダーを配した当時の官庁建築の典型。



■神戸山手西洋異人館/明治20年(1887)代
明治初期に好んで建てられた典型的なヴェランダコロニアル様式の洋館。
ヴェランダをL字に廻し、柱の本数に変化を持たせているのが特徴。



■大井牛肉店/明治20年(1887)頃
元々神戸の外国人居留地にあった商店なので、ファサードはヴェランダにアーチ窓、コリント式柱に手摺はルネサンス風と洋風意匠でまとめています。
玄関は純和風で、むくり屋根に鶴の彫り物を飾っているのが明治の洋館らしく楽しい。



■歩兵第六聯隊兵舎/明治6年(1873)
軍の兵舎だけに白漆喰塗りの壁に整然と上げ下げ窓が並ぶだけの簡素な外観ながら、玄関ポーチの柱はしっかりとトスカナ式オーダーで押さえています。
 


■内閣文庫/明治44年(1911)
ドリス式のオーダーが巨大なペディメントを支えるファサードは、まさに古代ギリシア・ローマの神殿建築。
明治村では唯一の本格的ルネサンス様式の建築で、威風堂々のたたずまいは西洋建築の長い歴史を感じさせます。



■これでもかとばかりのでっかい柱とペディメントがすごい迫力。



 


ステンドグラス(6)~番外編

2014-03-08 | まちかどの20世紀遺産

ステンドグラスの番外編は、残念ながら諸般の事情により外からしか撮影できなかったステンドグラスを紹介します。本来のステンドグラスの美しさは望むべくもありませんが、そのデザインは外からでも一見の価値ありです。


旧久保田外科/昭和初期(岐阜県岐阜市)
シンプルなデザインながらオーナーのセンスの良さがうかがえます




中屋織物工業協同組合/昭和2年(岐阜県各務原市)
織物組合の事務所だけに糸巻をあしらったデザインが楽しい。
残念ながら建物は取り壊されたため、このステンドグラスを室内から見ることはかないませんでした。




岡崎市水道局六供浄水場ポンプ室/昭和8年(愛知県岡崎市)
一般の人が訪れることの少ない水道施設にも、ステンドグラスを設ける設計者のこだわりが伝わってきます




■帝国ホテル中央玄関/大正12年(愛知県犬山市明治村内)
日本でも多くの作品を手がけた20世紀建築界の巨匠フランク・ロイド・ライトですが、何と言っても帝国ホテルは圧巻です。
現在は玄関ホール部分が明治村に移築保存され、天才ライトが創造した唯一無二の世界が体験できます。



■小さな正方形をモチーフにしたシンプルなデザインのステンドグラスからもライトらしさがうかがえます。





■ホテル内に展示されているライトが手がけた住宅のステンドグラス
 


◆◇番外編おまけコーナー◇◆
帝国ホテルの玄関ホールはいつ来ても、ほんと、おちつくんですよねぇ~
天井が低く適度な暗さで、囲まれ感が良いみたいです。
わたし的には明治村のおすすめスポット、堂々の第1位です。
 

 


ステンドグラス(5)~公共建築編

2014-03-01 | まちかどの20世紀遺産

戦前の公共建築には随所にステンドグラスが設けられ、お固くなりがちな裁判所や学校の建物に花を添えています。
ステンドグラスからこぼれる柔らかな光は、訪れる人々に安らぎを与えてくれます。


名古屋市市政資料館(旧名古屋控訴院)/大正11年(名古屋市東区)



■花束と天秤が描かれた大階段のステンドグラス
天秤の皿には白と黒の玉が載り、無罪(白)か有罪(黒)?罪を秤にかけています



■大階段のヴォールト天井のステンドグラスと陪審法廷のステンドグラス
 



金城学院高等学校榮光館/昭和11年(名古屋市東区)



■階段に設けられた縦長の窓を飾る色ガラス





豊橋市公会堂/昭和6年(愛知県豊橋市)
ステンドグラスはもちろん、見どころ満載のまさに「近代建築の宝石箱や~」と叫びたくなる名建築
近代建築の醍醐味が堪能できる、必見の超おすすめ物件!


 




大正村役場(旧明智町役場)/明治39年岐阜県恵那市明智町1884-3



■植物をモチーフにした玄関のステンドグラス