とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

3 窓辺の女性

2015-01-03 23:27:12 | 日記

著作者:Sigma.DP2.Kiss.X3

ある秋の日の昼過ぎ,私である電信柱は珍しい場面に出会いました。名も知らぬかわいい若い女性が私を、・・・いや、私の方を見つめていました。頭だけ窓から出して、こちらを見ているではないですか。私は電信柱ですから、素晴らしい男性でもないし、美しい風景でもありません。

 「いつものカラスが止まっているからかしら」

 私は探しましたが、その日は珍しく一羽も止まっていませんでした。私がもし電信柱でなかったら、笑顔で応えていたかも知れません。風がまた強く吹いてきました。電線がヒュー、ヒューと鳴り響きました。その女性はまだ外を見つめていました。

 「窓を閉めた方がいいよ。私は、ここで明日もあさっても立っているから」

 そう私が言うと、聞こえたのかどうか分かりませんが、その女性は急に窓を閉めました。私はそのとき母親らしい感じの女性が奥の方にいるのを見届けました。
 私はその家は毎日見ていたのですが、どんな人たちが住んでいるのか、どんな気持ちで住んでいるのか、全く分かりませんでしたし、興味もありませんでした。しかし、若い女性がいるということを知り、何だか胸がときめくのを感じました。・・・お前はどうして電信柱になったのか、ですって。そうですね、分かりました。いずれお話しする機会があると思います。 

 
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