REオフステージ (惣堀高校演劇部)
080・二人して渡り廊下の窓辺に寄った 

理由は二つだろう。
とりあえず、きまりが悪いんだ。
中山先生といっしょに廊下で出くわした。先生はすぐに「お、松井須磨!」と気づいてくださった。
朝倉さんはギョッとして、次にワタワタしだした。
松井須磨という名前にギョッとしたんじゃない。
だって、朝倉さんは演劇部の副顧問だ。
めったに顔を合わさないと言っても、五月からこっち数回は顔を合わせている。七月には、部員一同を引率して地区総会にも行った。
松井須磨という名前にも馴染んでいる。なんたって四人しかいない演劇部なんだ。それも六回という大阪で最多の留年回数を誇る問題生を知らないわけがない。
知らないのは、その松井須磨が同級生であったという事実。
朝倉さんは、同級生であったころから、わたしなんかには関心が無かったんだ。学級写真とか卒アルとか見ても、たまたま写り込んだ何かの影ぐらいの認識なんだろうねえ。
それは非難されるべきものじゃない。
朝倉さんは、同級生であったころから、わたしなんかには関心が無かったんだ。学級写真とか卒アルとか見ても、たまたま写り込んだ何かの影ぐらいの認識なんだろうねえ。
それは非難されるべきものじゃない。
惣堀高校というのは一応は伝統校で、伝統校にはありがちな無関心さがある。
中山先生も、すすんでクラスの融和を図るようなことはしなかった。だから、クラスの半分くらいとは口もきかずに卒業していった。もっとも、わたしは留年ばっかして未だに二十四歳で現役の生徒だけども。
二つ目の理由は、朝倉さんは真面目な教師だということ。
教師たる者、かつての同級生くらいは分かっていなっくっちゃ。
二つ目の理由は、朝倉さんは真面目な教師だということ。
教師たる者、かつての同級生くらいは分かっていなっくっちゃ。
そう思ってる。
だから、中山先生が、わたしを見かけて「お、松井須磨(''◇'')!」と、懐かしさ全開で呼びかけたことを眩しく感じている「アハハ、やだあ、そうだったんだあ(ノ≧ڡ≦) !」 とテヘペロでもかませればいいんだけども、真面目で不器用な彼女にはできないんだ。
トイレに行こうと廊下を歩いていたら、渡り廊下をこちらに歩いてくる朝倉さんが目に留まった。
気まずさの解消と、ちょっとした悪戯心で二階への階段を上がる。
トイレに行こうと廊下を歩いていたら、渡り廊下をこちらに歩いてくる朝倉さんが目に留まった。
気まずさの解消と、ちょっとした悪戯心で二階への階段を上がる。
二階に上がると職員室。普通に歩いていったら出くわすはず……が、出会わない。
千歳が車いすで提出物を運んでいるのに出くわす。
段ボール箱を膝の上に載せている。箱の中に一クラス分の提出ファイルが入っている。
千歳が車いすで提出物を運んでいるのに出くわす。
段ボール箱を膝の上に載せている。箱の中に一クラス分の提出ファイルが入っている。
偉いもんだ。足が不自由なのに、当番だったんだろう、一人で運んできたんだ。
「失礼します、一年二組の沢村です、朝倉先生いらっしゃいますか……」
あ、朝倉さんの授業だったんだ。
「失礼します、一年二組の沢村です、朝倉先生いらっしゃいますか……」
あ、朝倉さんの授業だったんだ。
このままじゃ千歳の無駄足になってしまう。
「千歳、わたしが持ってってやる」
「あ、先輩」
段ボール箱を取り上げると、渡り廊下に急いだ。
朝倉さんは、渡り廊下の窓から中庭を眺めて時間を潰していた。
「朝倉さん」
ちょっと悩んだけど、自然に呼びかける。
「朝倉さん」
ちょっと悩んだけど、自然に呼びかける。
「職員室の前で、1-2の沢村さんが届けにきてたから」
「え、あ、あ、ありがとう(◎o◎,,) 」
「どういたしまして、えと……人が居ないところじゃ『朝倉さん』でいいわよね?」
「え、あ…………」
ゲシュタルト崩壊して息が停まってる( ゚Д゚)!
「ね?」
ドサっと段ボール箱を押し付ける。
「うん、松井さん」
「それじゃ……失礼します、朝倉先生」
酸欠の鯉のようになった顔はさすがに気の毒で、ペコリとお辞儀して行き過ぎる。
と、もう一人変な奴がこっちに来るのが目に留まる。
演劇部の天敵、瀬戸内美春だ。
演劇部の天敵、瀬戸内美春だ。
いつも通りの高慢ちきならシカトするんだけど、珍しくしょげている。
朝倉さんと話せた勢いで声をかけてしまった。
「どうしたの副会長?」
「あ、松井さん」
「どうしたの副会長?」
「あ、松井さん」
元気は無かったけど、てらいのない返事が返ってくる。天敵の生徒会だけど、彼女の優れたところだ。
「なんだか、わたしに続いて六回留年しそうな顔してるよ」
「ハハ、まさか……て……それ以上かもね」
「うん?」
そう言うと、二人して渡り廊下の窓辺に寄った。
「実は、ミッキーがうちに来ることになったの……」
「え?」
「ハァ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
そう言うと長いため息をつく天敵……まるで、そのまま体が萎んで消えてしまいそうなほどに深くて長い溜息だった。
そう言うと長いため息をつく天敵……まるで、そのまま体が萎んで消えてしまいそうなほどに深くて長い溜息だった。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
- 小山内啓介 演劇部部長
- 沢村千歳 車いすの一年生 留美という姉がいる
- ミリー 交換留学生 渡辺家に下宿
- 松井須磨 停学6年目の留年生
- 瀬戸内美春 生徒会副会長
- ミッキー・ドナルド サンフランシスコの高校生
- シンディ― サンフランシスコの高校生
- 生徒たち セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
- 先生たち 姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
- 惣堀商店街 ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)