ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)
第80話《さくら その日その日・2》さくら
三週ぶりに仕事が入った。
鈴奈さんとおいしい肉じゃがを食べたでしょ、ほら、ムジナが出そうな紀国坂の東京志忠屋。あの二日後の仕事がキャンセルになって、しばらく仕事が無かった。
ひょっとしてホされてる?
鈴奈さんでも、アメリカに修業にいくぐらい、この業界の人間は先が見えない。
はるかさんと仕事をさせてもらうことが多くなって、チョッピリだけど、自分もイッパシのイの字、その一画目のノぐらいの女優になった気でいたけど。もし、このままフェードアウトしたら……それはそれでいいか。
ベッドでひっくり返って、天井のLEDを眩しく感じて、首ごと視線を動かすと耳なしまねき猫(お父さんが買ってきた土偶っぽいの)と目が合って、そう思う。
コロンと寝返りうったら、今度は机の上の自分で買ったまねき猫。こいつはマスコットみたいに小さいんだけど――そうでもないよ――と笑ったような気がした。
仕事は情報番組風のバラエティー。
「久米久相手に一時間ほど話してきてよ」
吾妻さんから、それだけ聞いて。永谷園のお茶漬けかっこんだだけで、豪徳寺の駅に向かった。
駅前で、偶然に四ノ宮忠八に出会った。
「あら、おひさ、チュウクン!」
「お、なんだ普通のさくらじゃないか?」
「あたしは、いつも普通です」
「スターになったら少しは変わってるかと思ったけど」
「あたしは、あたし。変わりようなんかないわ(ホントは、この三週間苦労したんだけど。それは人には見せないと決めていた)それより、チュウクン、なんだか疲れてるわね?」
「だろうなぁ。いろいろ野暮用でなぁ」
それから二言三言話して別れたんだけど、チュウクンがとんでもない仕事をしてきたんだとは、その時は気づかなかった。
「上から読んでも下から読んでも久米久の『上から下から!』(拍手のエフェクト)今日のゲストは、映画やテレビで注目の佐倉さくらさんでーす!」
見かけもベシャリも軽いけど、若者からお年寄りまで幅広いファンを持っている、ちょっとしたオピニオンリーダーで、ただのDJではないことは、マネージャーの吾妻さんからも聞いていた。でも、言われたことは「ただ思ったまま喋ればいい」だけだった。
「デビューのきっかけって、渋谷でオッサンとオネエチャンのケンカなんだって?」
「ああ、そっかな……そうですね。オネーサンが自転車のナガラスマホだったんで、そっちが悪いだろうって、オジサン応援しちゃって。でも、いま思うと、オジサンも歩きスマホで、どっちもどっちなんですけどね」
「で、その応援ぶりがイケてるってことで、スカウト。世の中、どこでどんなきっかけがあるか分からないよね。あの時オッサンとオネエチャンが普通にすれ違ってたら、今の佐倉さくらは無いわけだもんね」
「アハハ、そうですね。オジサンとオネーサンに感謝ですね」
そういう軽いノリで入って行って、あたしの仕事のあれこれを良く調べていて、楽しく十分ほどが過ぎた。
「話は戻るんだけどさ、こないだ佐世保の沖で、オッサンとネーチャンの遭遇みたいな事件があって、なんだかコジレちゃったよね」
「ああ、ですね。なんだかコジレてるっぽいんんですかね、あれから何かありました?」
「大有りでしょ。あれでC国はバラバラ、日本はウロウロになっちゃったからね。日本も外国も、どんどん資本引き上げて、何十年ぶりかのマイナス成長。あの国は絶えず発展してなきゃ持たない国だったからね」
「でも、戦争とかにならなくって良かったんじゃないですか?」
「だよね。でもさあ。渋谷のオッサンとネーチャンじゃないんだからさ、お互い自制ってものが必要だったんじゃないかな?」
「だって、佐世保っていったらもう日本の玄関先じゃないですか、そこに漁船団と軍艦ですよぉ」
「でも、C国は自分とこの漁船が領海侵入しそうになってるのを止めさせようと追いかけて来たわけでしょ。それを日本の方からしゃしゃり出て拿捕するとかして、自衛隊まで出てきたわけでしょ。海上保安庁も『いいとこ見せよう』って無理な阻止行動に出て漁船を沈めちゃったわけでしょ。たとえ領海侵入してたとしても、沈めちゃうのはダメでしょ、操舵室には人が乗ってて焼け死んだって」
見かけもベシャリも軽いけど、若者からお年寄りまで幅広いファンを持っている、ちょっとしたオピニオンリーダーで、ただのDJではないことは、マネージャーの吾妻さんからも聞いていた。でも、言われたことは「ただ思ったまま喋ればいい」だけだった。
「デビューのきっかけって、渋谷でオッサンとオネエチャンのケンカなんだって?」
「ああ、そっかな……そうですね。オネーサンが自転車のナガラスマホだったんで、そっちが悪いだろうって、オジサン応援しちゃって。でも、いま思うと、オジサンも歩きスマホで、どっちもどっちなんですけどね」
「で、その応援ぶりがイケてるってことで、スカウト。世の中、どこでどんなきっかけがあるか分からないよね。あの時オッサンとオネエチャンが普通にすれ違ってたら、今の佐倉さくらは無いわけだもんね」
「アハハ、そうですね。オジサンとオネーサンに感謝ですね」
そういう軽いノリで入って行って、あたしの仕事のあれこれを良く調べていて、楽しく十分ほどが過ぎた。
「話は戻るんだけどさ、こないだ佐世保の沖で、オッサンとネーチャンの遭遇みたいな事件があって、なんだかコジレちゃったよね」
「ああ、ですね。なんだかコジレてるっぽいんんですかね、あれから何かありました?」
「大有りでしょ。あれでC国はバラバラ、日本はウロウロになっちゃったからね。日本も外国も、どんどん資本引き上げて、何十年ぶりかのマイナス成長。あの国は絶えず発展してなきゃ持たない国だったからね」
「でも、戦争とかにならなくって良かったんじゃないですか?」
「だよね。でもさあ。渋谷のオッサンとネーチャンじゃないんだからさ、お互い自制ってものが必要だったんじゃないかな?」
「だって、佐世保っていったらもう日本の玄関先じゃないですか、そこに漁船団と軍艦ですよぉ」
「でも、C国は自分とこの漁船が領海侵入しそうになってるのを止めさせようと追いかけて来たわけでしょ。それを日本の方からしゃしゃり出て拿捕するとかして、自衛隊まで出てきたわけでしょ。海上保安庁も『いいとこ見せよう』って無理な阻止行動に出て漁船を沈めちゃったわけでしょ。たとえ領海侵入してたとしても、沈めちゃうのはダメでしょ、操舵室には人が乗ってて焼け死んだって」
「でも、あれはドローン船で、爆発も不自然だったって」
「うんうん、でもさ、操舵室で燃えながら船の舵輪握ってる姿見てるとねえ」
モニターには、C国側が撮った映像が流れてる。護衛艦三隻が後ろにいて、巡視船が漁船を挟み込んで爆発。そして、護衛艦がホースや網やら投げて別の漁船を捕まえて、自衛官が乗り込んでいくとこ。C国側は、他の漁船を説得して帰港させていくとこ。
どっちもどっちだけど、3:7ぐらいで日本がやり過ぎているように見える。
知ってるんだ、兄貴が海上自衛隊の幹部自衛官だってこと。で、妹のわたしを攻撃して暗い顔させようって、ガンガン責めて、わたしが涙でも流せば主尻って思ってるんだ。
「実はね、この漁船に乗り込んでいったのは、さくらのお兄さんの佐倉惣一一尉だって話なんだよぉ」
「え、うそ?」
「そのあと、漁船は巡視船が受け取ったんだけど、途中で漁船の方は沈没しちゃったって」
「それはニュースで言ってましたけど、うちの兄は、小さなたかやすとかいうのじゃなくて、もっと大きいかがって航空母艦型のに乗って……」
ああ……ハメられた。
☆彡 主な登場人物
- 佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
- 佐倉 さつき さくらの姉
- 佐倉 惣次郎 さくらの父
- 佐倉 由紀子 さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
- 佐倉 惣一 さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
- 佐久間 まくさ さくらのクラスメート
- 山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
- 米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
- 白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
- 原 鈴奈 帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
- 坂東 はるか さくらの先輩女優
- 氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
- 秋元 さつきのバイト仲間
- 四ノ宮 忠八 道路工事のガードマン
- 四ノ宮 篤子 忠八の妹
- 明菜 惣一の女友達
- 香取 北町警察の巡査
- クロウド Claude Leotard 陸自隊員