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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・改 003:よそよそしい清けつ感 2019年4月 

2025-03-18 17:24:40 | 真夏ダイアリー
(増補改訂版)
003:よそよそしい清けつ感  




 入学式いうのは肌感覚。


 身に着けてるもんが、なにからなにまで新品の下ろしたて。

 制服が新品なんはもちろんのこと、靴、ソックス、カバン、ハンカチ……ぐらいまではええとしいや。

 シャツにブラ、パンツまで新品や。

 色が白という以外はババシャツと同じ造りのシャツ。ほんまは軽やかにキャミで行きたかったんやけど。入学式の朝から文句言うのは縁起が悪い。毛糸のパンツ穿かされへんだけましや思て辛抱。

 鏡の前で、前かがみになってみる。

 セーラー服の襟の隙間から白ババシャツが見えへんかチェック。おニューの制服は今後の成長を考えて大き目。かがんだ姿勢で横を向くと、上からやと見えてしまう。ま、できるだけ前かがみにならんように気ぃつけよ。

 新品の衣類は肌に接する感覚がちがう。セーラーの襟も袖口もスカートの裾も肌に接するとこは新品特有のびみょうな固さ。からだ動かすと新品特有のせいけつな匂い。シャツもなじんだもんとは柔らかさがちがう。つねの下着は何十回も洗濯してくたびれた柔らかさ。新品はシャツの袖口やパンツの又ぐりのとこが10パーセントほどきついような気ぃがする。

 なんちゅうか…………よそよそしい清けつ感。

 将来この日の事を思い出すのは、うちの名前と同じ名前の花とちごて、このよそよそしい清けつ感やと思う。


「あ、ちょっと」


 準備ばんたん整えて玄関に向かうと、お母さんに呼び止められる。

「髪の毛髪の毛」

「え? え?」

 ついさっき、まとめたばっかりのポニーテールを玄関の鏡に映す。

 シュ!

 お母さんの手ぇが伸びてきて、まとめてたゴムを紺のリボンごと抜かれてしまう。

「ちょ、なにすんのんよぉ」

「ポニテの位置が高すぎる」

 ポニーテールはアゴと耳を結んだ延長線上にゴールデンスポットがある。ハツラツとしてて一番かっこええ。

 ちょっとチビでガリボチョのうちは、これくらいキリリとしたほうがええ。

「今日は、これくらいにしときなさい」

 ゴールデンスポットより五センチも低ぅされてしもた。

「ええ……こんなん、ただのヒッツメやんかあ(*ー"ー) 」

「あんたのは目立ちすぎる、初めての学校やねんさかい、地味目にいきなさい」

「……はーい」

「それから、大丈夫やとは思うけど『せやさかい』は禁句やからね」

「う、うん、分かってる」

 改めて口グセの『せやさかい』を封いんされて、今日から母校になる市立安泰(あんたい)中学に向かった。


 体育館の外カベにクラス分けが貼ってある。


「……え、あれへん」

 六つあるクラス表のどこにも酒井さくらの名前が無い、たしかにこの中学校やったよな?

「あ、あった!」

 お母さんが見つけた一組に田中さくらと旧姓のまんま書いたった。

「お母さん、言わならあかんわ!」

「ちょっと、いこ!」

 お母さんと二人、受付の先生とこに行く。

「一組の酒井さくらなんですけど」

「はい」

 説明すると、係りの先生は担任の先生を呼んでくれた。

「月末に申し入れたと思うんですが、苗字が変わってますんで……」

「あ、申し訳ありませんでした。ただちに直します。酒井さくら子さんですね」

「ちゃいます、子はいりません、ただのさくらです!」

「姓は酒井、名はさくらです( 。•̀_•́。)!」

「くれぐれも」

 あ、ちょっとキツイ言い方やったかなあ、菅井て名札の担任の先生は頭を掻きながらバインダーの書類を書きなおした。

 絵文字にしたら、こんな感じ(;゜Д゜)の顔して。

「「よろしくお願いします!」」

 親子そろて念押しに頭を下げる。


 教室に入ったけど、知らん子ぉばっかり。


 当たりまえや、先月の末に、それまで居った大阪市から引っ越してきたばっかり。他の子ぉは……初日の遠慮か、うちと変わらん緊張のオモモチで座ってる。

――入学式は一時間ほどです、貴重品は持っていくこと、トイレを済ませておくこと――

 黒板の注意書きの下にトイレの所在地。

 ……行っとこ。

 うちが立つと四五人の子が続く。入学式から連れションかとおかししなるけどポーカーフェイス。

 用を足して廊下の鏡。

 ダッサイ女子中学生が映っとぉる……自分のことやけど。


 きのう二年ぶりで会うたコトハちゃんを思い出す。


 二年ぶりのコトハちゃんはマブシかった。

 聖真理愛(せいまりあ)女学院の制服にセミロングにした姿はラノベのヒロインみたいやった。

 シュッとしてる割にはメリハリの効いたボディーで、子どものころはいたずらっ子むき出しやった目ぇは、雨上がりに高気圧が張り出した夜空みたいに潤んでキラキラしてた。「コトハちゃ~ん!」「さくらちゃ~ん!」とハグした時は、同性のうちでもクラっとするくらいにええ匂いがした。

 それに比べて鏡に映ってるうちは……あかんあかん、頬っぺたをペシっとたたく。


 入学式もとどこおりなく終わって教室に戻る。


 さっきの菅井先生が入ってきて、あれこれの説明やら注意やら。

 そんな仰山言われても覚えられへん……と思たらプリントが配られて、見たら同じことが書いたある。きっと、プリント配ってから説明することになってたんやろけどね。

「それでは、一人一人名前を呼ぶんで、返事をして下さい」

 ああ、これも、最初にやった方がよかったと思う……けど、ポーカーフェイス。

「田中さくらさん」

 呼ばれてムカッと来た。

「酒井さくらです!」

「えぇ、さくら子は直したけど……」

「ウウ……せやさかい言うたでしょ! くれぐれもって(#⊙▢⊙#) !」

 教室の空気が凍る……ああ、やってしもた……。



☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら   この物語の主人公 安泰中学一年 
酒井 歌     さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
酒井 諦観    さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦一    さくらの従兄 如来寺の新米坊主
酒井 詩     さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
酒井 美保    さくらの義理の伯母 諦一 詩の母



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