海の駅からは支線の「え」の電に乗った。
「え」の電は昔の江ノ電に似た緑と薄緑のツートンカラーの二両連結、ゆっくり海沿いを走っていたかと思うと、すぐにトンネルに入る。車内が一瞬暗くなり、チカチカと車内灯が点滅しながら点いた。
――江ノ電なら極楽寺のトンネルだな、抜けたら長谷かな……――
極楽寺のトンネルなら、ほんの数十秒で抜けてしまう。しかし、そのトンネルは一向に抜ける気配が無かった。
微かに人のため息が聞こえる。
車両の前の方にマヤと同じセーラー服を着たセミロングの子が座っている。
――この子は……――
思った時には目が合っていた。電車の揺れがひどくなったが、マヤは立ち上がって車両の前の方に行った。
「あたしマヤ、あなたは?」
「あたしは…………あたし」
少し面倒な子のようだ。電車の揺れがさらにひどくなった。
「同じセーラー服、あなたもお遍路さんなんだ」
「同じ……胸のワッペンが少し違う」
「あなたは人間、あたしは天使だもの」
「天使?」
揺れが少し収まった。
「堕天使だけどね」
「そうなんだ……」
収まった揺れが戻ってきて、マヤは、揺れにことよせて向かいの席に座った。
「分かっていると思うけど、このトンネルは、あなたの心のトンネル。あなたが決心しなきゃ永遠に抜けられないわよ」
「わたしのトンネル?」
「怖がっていないで、トンネルの外に出よう。あたしが付いていてあげるから、ね、恵美ちゃん」
「……どうして、あたし、まだ名前言ってないのに」
「堕が付いても天使だから……あ!」
「キャ!」
電車が大きくカーブを切ったので、マヤは振り飛ばされて恵美に抱き付く形になってしまった。
「ご、ごめんね」
「ううん、いいの……しばらくこうしていて」
「う、うん」
「マヤさん温かい……」
「恵美ちゃん、こんなに冷たくなっていたんだね……」
いつの間にか、車内は不用意に開けた冷凍庫のように凍り付いて、吐く息が蒸気のように白い。
マヤは恵美を抱きしめてやった。マヤも手を伸ばしてくる……揺れが収まってきた。
「これでいい……トンネル出よう、駅には停まらなくていいから」
「うん……マヤさん」
「うん?」
「胸、大きいんですね」
「ど、どこ触ってんのよ(*ノωノ)!」
「ウフフ……」
「アハハ……」
二人は抱き合ったまま笑う。そして、直後トンネルを抜けた……。