🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・
17『最新の鞄やろー!・1』
「だから、これは違うんだって……」
何度言っても通じない。
仕方がない、夕方の人気のない校舎。その廊下で意味ありげなゴミ袋とブラジャーを持っていたら変質者と思われる。
だから桜子は逃げた。で、駆け下りた一階でつまづいて、追いかけたオレもつまづいて、倒れた桜子を襲うような格好で覆いかぶさってしまった。
桜子一人の誤解を解くのも大変なのに、通りがかった八瀬にも見られて、大誤解されてしまう。
やっと撚りが戻りかけている彼女と親友を一度に失うところだ。
「とにかく! とにかく! とにかく! 現場を見てくれよ!!」
目玉が飛び出しそうに、喉がひっくりかりそうなぐらいに叫んで、なんとか階段下の旧演劇部の部室まで、二人を連れて行く。
「ほら、こんな状態なんだ!」
「そうだったのか………」
「そうだったのね………」
期待していた反応だが、トーンが違う。
「重症だぜ、百戸……」
桜子は、ショックで声も出ないようだ。
「下着泥棒やって、こんなところに隠していたのか……」
親友の目は、もう怒ってはいなかったが、覚せい剤使用の現場を見たような情けなさだった。
「違うって、これは、昔の演劇部の……」
そこまで言って気が付いた。押し花のようにペッタンコになった下着は、どれも新品だ。
「新品フェチなの…………?」
「違うって!」
「ちょっと様子が変だ……」
八瀬は、やっとおかしいと思い始め、自分で下着の地層を発掘しだした。
「これは……」
段ボールに貼られたメモに気づいた。
――第48回コンクール用小道具・山のようなインナー(取り扱い注意)――と書かれている。
さらに発掘すると、袋に入った写真が出てきた。
「舞台いっぱいに下着を吊るしてる……」
「おお……タイトルそのものが『山のようなインナー(取り扱い注意)』なんだ」
「変なタイトル」
「……でも、これって県大会で優勝してるんだ……」
写真の一枚は、優勝のトロフィーと賞状を持った三人の演劇部員。三人とも女子だということを除けば、デブとホドホドとヤセッポチという点で、オレたちと似ている。
「このおデブさん、主役だったんだ……」
桜子が写真を繰っていて結論付けた。確かに、どの写真にも下着の山の中で熱演するデブ子が写っている。
「……おい、これ」
八瀬が、折りたたんだ模造紙を取り上げた。
模造紙は会場の一言コーナーに貼られたもののようで、カラフルなマジックでいろんな感想が書かれている。
「評判よかったみたいね、誉め言葉ばっかり」
自分の事のように、桜子の目が優しくなった。こういう桜子が好きだ。
「感想のところどころに、赤丸がしてあるなあ……」
「ほんとだ……」
赤丸は、言葉ではなく、文字に付けてある。
「普通、重要な言葉にアンダーラインとかするわよね……」
数分眺めていて、気が付いた。赤丸の字を繋げると、こう読める。
さ・い・し・ん・の・か・ば・ん・や・ろ・ー!
「最新の鞄やろー!」ってなんだろう?……三人は顔を見合わせた。
🍑・主な登場人物
百戸 桃斗……体重110キロの高校生
百戸 佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚
百戸 信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い
百戸 桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹 去年の春に死んでいる
百戸 信子……桃斗の祖母 信二の母
八瀬 竜馬……桃斗の親友
外村 桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した