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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト・『駅前書店のアルバイト』

2021-10-06 06:32:30 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『駅前書店のアルバイト』    



 
 ライトノベルの定義がよく分からなくなってきた。

 などの書き込みや質問がネットなどに見かけるようになって長いんじゃないだろうか。
 
 実際文章に挿絵が付いていればラノベだという説明なんかでいくと、源氏物語なんか、日本最古のラノベということになってしまう。
 なんとなく出版社のレーベルや日本図書コードの分類に頼っているのが書店の現状だ。

 四月は新刊書の季節で、書店の分類担当は時に頭を悩ます。分類の仕方や書架の配置によって売り上げが相当変わってくるからだ。『涼宮ハルヒの憂鬱』などは岩波文庫にもなっていて、そこそこ売れていたりするけど、もし、ハナから岩波文庫なら、あんなミリオンセラーにはならなかっただろう。

 以上は、あたしがバイトの身でありながら、閉店後のミーティングで感じたボンヤリした感想。
 
 あたしがバイトしてる駅前書店は名前の通り駅前……にはない。
 
 店のオーナーが駅前という珍しい苗字なので、そうなっている。
 
 で、皮肉なことに実際の立地は駅前商店街の一番外れ、アーケードの端っこギリギリのところにある。

 昔は良かったらしい。

 人々も鷹揚で、駅前商店街にあるんだから「駅前、当たり前」と言ってくれた。また、近くに私立の中学と高校の併設校もあったので三階建ての店では狭いくらいのお客さんがあったそうだ。今は、その私学も移転して、三階建てというハンパな書店は経営が苦しい。
 
 そして、21世紀になって「駅前」という、いかにも昭和じみた名称はジジムサク感じられた。実際商店街の売り上げは年々落ちていき、2001年からは、バザール・イーストエンドになった。名前の由来は、街の東部の大規模マンションとタイアップしている。
 日本語にすれば、ただの「東の外れ」なんだけど、イーストエンドと呼ぶとなんだかカッコイイ。
 おかげで、商店街としては、そこそこの売り上げを維持しているが、一人「駅前書店」だけが時代に取り残されている。
「取り次ぎも、うちみたいな外れの店には、いい新刊は回してくれないし、近頃はネットで買う人も多いしな……」

 分類担当ってか、支配人の西島さんも、どこか諦めムードの投げやりだ。
「いっそサクちゃんに任せてみようか」
 西島さんが投げやりに言った一言が、なんと駅前書店の陳列方針になっちゃった!

 高校から始めた駅前書店のバイトも、今年で5年目。バイトとは言え、それなりに店に愛着もある。

「ねえ、オジサン、なにか良い方法ないかしら」
 帰りに、お総菜を買いに寄った店の主に聞いてみた。
「まあ、今の出版不況じゃなあ」
「そんな一般論で逃げないでくださいよ。来年あたりは、商店会の会長なんでしょ。商店街から一軒でもシャッターの店出したら、広がっていくわよ」
「脅かすなよ。それでなくても隣町のショッピングモールに客取られてるんだから」
「でもさ、オジサン、青年部長だったころ、商店街を『駅前』から『イーストエンド』に変えて、商店街を蘇らせたって聞いてるわよ」
「あれはな……実は、神さまのお告げなんだよ」
「神さま!?」

 というわけで、商店街裏の栄恵神社にやってきた。
 
 神主さんもいない祠に毛の生えたようなお社。普段の管理は商店会の回り持ちでやっている。
 
「南無栄恵大明神さま、どうか、この佐久間絵里香に名案を授けたまえ!」
 
 お賽銭も500円と奮発した……が、なんの御告げも無かった。
 
 あんまり残念なので、お神籤の自販機に100円入れた。考えたらばかばかしい。こないだ清掃当番で、この境内を掃除したのは、わが駅前書店。このお神籤自販機にお神籤を補充したのはほかならぬわたしなのだ。

 開いて見ると、中吉(内緒だけど、お神籤の半分は中吉。入れた本人が言うんだからほんと)で、「果報は寝て待て」だった。

 その夜、夢枕に神さまが現れた。

「絵里香、お告げにきたよ♪」
 
 なんとも軽いノリで、女子高生みたいな神さまが現れた。見ようによっては、万年選抜の圏外になっちゃうAKBの子みたいでもある。
「え、あなた神さまなの?」
「そうよ。ま、居候だけどね」
 そう言えば、あそこの祭神は大国主命=大黒さま。こんなアイドルグル-プの研究生みたいなヤツじゃない。
「でも……」
「ああ、このナリ?」
「あ、いや、その……」
「あたし、あたし木花咲耶姫(このはなのさくやひめ)。ま、全国に祀られてるから、KSH48とでも呼んでもらおうかしら」
「あの、それはいいから、お告げを……」
 このままでは、仲間を呼んでライブになりそうだったので、恐る恐る聞いてみた。
「わかんないかなあ、このノリで。軽さよ、軽さ!」

 それだけ言うと、神さまは消えてしまった。

「軽さ……英語でライト、ライトノベル!?」
 
 そこまで思いついたが、最初に書いたようにライトノベルの範疇は広くてあいまいだ。

 で、あたしも開き直った。ライトノベルとおぼしき本をライト=軽い順に店頭の前に置いた。

『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』という四六判ではもっとも軽い本が前に来た。

 顧客のニーズに合ったんだろう、とかくスマホやらタブレットやら小物が多い現代人。軽い本は当たった。

 倍増とはいかなかったが、前年の二割り増し。あの木花咲耶姫とあたしには似つかわしい(^_^;)。

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