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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・62』

2019-07-11 08:06:05 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・62 


『第六章 おわかれだけど、さよならじゃない11』

 ファミレスで早めの夕食をとったあと、ホテルにチェックイン。
 
 高そうなホテルだったらと心配していたんだけど、真由さんがリザーブしてくれたのは、こぢんまりとしているけど品のいいビジネスホテル。
 先生の部屋とは向かい同士。このへんに真由さんの気配りを感じる。分かるでしょ、隣同士だと、こういうビジネスホテルって音が聞こえるんだよね。

 先生は電車の中でも、ファミレスでも、芝居やバカな話はしてくれた。
 しかし、午前中の千住でのことは、なにも聞こうとはしなかった。
 わたしが話せば聞いてくれたんだろうけど、わたしも整理はついていなかった。
 でも、わたしの心の痛みは十分に分かってくれている。無関心のいたわりが嬉しかった。
「ほんなら、明日の朝飯で会おか……ま、なんかあったらいつでもノック……部屋に電話してこいや」
 そう言って、先生は向かいの部屋へ。

 ドサッ! ベッドにひっくり返ってみた。

 …………なにも湧いてこない。

 胸がなんかしびれている。
 本当はとても痛いのかもしれない。でも麻酔がかかっているようにしびれている。
 午前中のできごとが、とても遠いことのように思われた。ほんの数時間前のことなのに。
 荒川の土手で泣いたことも覚えている、もちろん。
 でも、あのとき爆発したわたしの心……大きな穴が開いている。
 その穴は空虚なんだけど、爆発したときの衝撃は不思議に蘇ってこない。
 時間がたてば、それはまたやってくるかもしれない。
 だから、いまのうちに考えよう、決着のつけ方を。
「おわかれだけどさよならじゃない」にするために。

 わたしは、あの群青のポロシャツを渡しそこねていた。

「……そうだ!」

 わたしは思いついて、小さなテーブルにホテルの便せんを載せて思い浮かんだ言葉を書き始めた。
 一枚書きそこねて、二枚目でスマホが鳴った。
「はい、はるかです……」
「あ、わたし真由。ごめんね遅くに」
「いいえ、すっかりお世話になっちゃって」
「どうだった、お父さん」
「ええ、元気でした。突然だからびっくりしてました」
「はるかちゃん、あなた自身は?」
「大丈夫です、気持ちにケリがつきました。先生には少し面倒かけましたけど」
「そう、声も元気そうだしね」
「はい、いつものわたしです!」
「みたいね。よかった。場合によっちゃ、そこまで行こうかと思った。もう大丈夫だと思うけどなにかあったら電話してね」

「ありがとございます……おやすみなさい」
 簡潔な電話だった。真由さんの性格と、ケリのついたわたしの気持ちが簡潔にさせたんだ。
 振り返って、手紙の続きを書こうかとテーブルに目をやるとマサカドクンがいた。
――ウ。
 便せんを指してなにか言いたげ。
「大丈夫、クダクダ書かないわよ。今の電話みたく簡潔にね」
 書きかけの二枚目もバッサリ捨てて、三枚目。一分足らずで書き上げた。
――ウウ……。
 マサカドクンはなにか言いたげであったが「大丈夫」と心の中でつぶやくと、フっといなくなった。
「さ、テレビでも観よっか!」
 しばらく観てないなあ。と、時計を見ると……。
「え、もうこんな時間!?」
 なんと日付が変わりかけていた。

 明くる日は、ノックの音で目が覚めた。

「はい……」
「ネボスケ、先に朝飯いってるぞ」
 慌ててダイニングに下りると、先生は食後のコーヒーを飲んでいた。
「すみませーん……」
 そして朝食をとりながら、互いの一日の行動を確認した。
 先生は横浜の出版社に、わたしは由香と会ってアリバイの資料をもらうために、スカイツリーにだけ寄ってすぐに帰ることにした(ほんとはスカイツリーじゃなくて、もう一度南千住に寄るんだけどね。そのことはナイショにしておいた)

 と、かくして、十二時半には新幹線に乗ることができた。待ち時間の間に真由さんにお礼のメールを打っておいた。
 ポロシャツは仲鉄工のおじさんにあずけた、あの手紙とともに。
 手紙に書いたのは、けっきょく一行だけ。

 ――おわかれだけど、さよならじゃないよ。はるかなる梅若丸
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