はるか 真田山学院高校演劇部物語・71
『第七章 ヘビーローテーション 9』
しかし、わたしのカオルと、タマちゃん先輩のスミレの絡みは難産だった。
最初は、通じた喜び(利用できる人間として)。 スミレは、ただ薄気味悪く嫌っている。それが互いの違いに気づき、関心を持ち、価値観の違いからケンカをしたり、おもしろく思ったり、そして友情が生まれ、お別れの時がやってくる。その別れの痛みと切なさ……。
字で書くと簡単そうなんですけどねぇ……。
その翌週の木曜に、秀美さんは病院に来た。
正確には、来ていた。
九月に入り、短縮授業。部活の無い日だったので、学校から直行したんだけど、秀美さんの方が先に来ていたのだ。
「お父さん……」
ノックもせずに病室に入った。
ほんの一瞬、フリ-ズした……三人とも。
秀美さんは、ベッドの脇に腰掛けて、お父さんと話していた。
仕事の話らしいことは、その場の空気でわかった。
ただ、距離の取り方が、二人の心の近さとして、チクッとした痛みをともなって、わたしには感じられた。
距離には人間関係が反映される。かねがね大橋先生から言われていることだ。
物理的距離が心理的距離を超えると、人は落ち着かなくなる。
「新しい商品、はるかちゃんも見てくれる」
わたしがホンワカ顔をつくろう前に、秀美さんに先を越された。
「うわー、かわいい!」
女子高生の常套句しか出てこなかった。
しかし、その商品見本たちは、ほんとうにイイ線いってた。
シュシュ(ポニーテールみたく髪をまとめるときの飾りみたいなの)のシリーズだ。
「次の春ものにね、ちょっとチャレンジしてみようと思って」
水玉、花柄、ハート、チェック柄、といろいろ。
「今の子って、はるかちゃんみたいにセミロングとかが多いじゃない。それって、表情隠れちゃうのよね。あ、悪いってことじゃないのよ。時にはオープンマインドなイメチェンしてもいいんじゃないかって、そういうネライ」
「わたしも、ヒッツメにすることもあるんですよ。稽古のある日はお下げにしてますし」
「そうなんだ。でもさ、そういうのをさ、もっとポジティブにさ……」
あっという間にポニーテールにされた。
シュシュは群青に紙ヒコーキのチェック柄。
「お、いけてるじゃないか。実際身につけてもらうとよく分かるなあ」
「このシュシュ……」
「そう、あのポロシャツがヒント。商標登録されてないの確認できたから作ってみたの。そうだ、はるかちゃんモニターになってくれないかなあ」
というわけで、二十個ほどのシュシュをもらった。もちろんモニターとして。
ポニーテールというと、あの二人だ……。
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