かぐや姫物語・1
Преступление и наказание
「いってきま~ふ……!」
姫子はトーストをくわえたまま家を飛び出した。こんなことは初めてだ。
「しかたのない子ね」
年老いた母は姫子の気持ちを気づかないまま、苦笑いして姫子の後ろ姿を見送った。
「見てやるんじゃねえ、おめえが見ていたんじゃ、涙も拭けねえや……」
「え……」
開店準備をしていた父の方が、姫子の気持ちをよく分かっていた。
姫子は、夕べ、自分が実の子ではないことを、じかに両親から聞かされた。
姫子は、ほとんどそのことを知っていた。なんと言っても親との年の差が五十三もあるんだから……。
Преступление и наказание

「いってきま~ふ……!」
姫子はトーストをくわえたまま家を飛び出した。こんなことは初めてだ。
「しかたのない子ね」
年老いた母は姫子の気持ちを気づかないまま、苦笑いして姫子の後ろ姿を見送った。
「見てやるんじゃねえ、おめえが見ていたんじゃ、涙も拭けねえや……」
「え……」
開店準備をしていた父の方が、姫子の気持ちをよく分かっていた。
姫子は、夕べ、自分が実の子ではないことを、じかに両親から聞かされた。
姫子は、ほとんどそのことを知っていた。なんと言っても親との年の差が五十三もあるんだから……。
今から十七年前、泣き声に気づいて、立川亮介は店の戸をパジャマ姿のまま開けた。
そこには、竹の子の香りが残る段ボール箱に、オクルミにくるまれた赤ん坊が入っていた。
「お、おい、恭子!」
「なんですよ、また捨て犬ですか……?」
それが始まりだった。
赤ん坊は大きな声で泣いていたが、筋向かいの豆腐屋のオヤジも隣の喫茶ムーンライトのママも気づかなかった。その赤ん坊の泣き声は、立川家具店の初老の夫婦にしか聞こえなかった。
そこには、竹の子の香りが残る段ボール箱に、オクルミにくるまれた赤ん坊が入っていた。
「お、おい、恭子!」
「なんですよ、また捨て犬ですか……?」
それが始まりだった。
赤ん坊は大きな声で泣いていたが、筋向かいの豆腐屋のオヤジも隣の喫茶ムーンライトのママも気づかなかった。その赤ん坊の泣き声は、立川家具店の初老の夫婦にしか聞こえなかった。
夫婦には子どもが無かったが、育てるのには歳をとりすぎていた。
「この子が二十歳になったら、七十三だぞ、二人とも」
亮介の言葉で恭子も決心し、赤ん坊を児童相談所に預けた。警察も乗りだし『要保護者遺棄』の疑いで捜査した。
「なに、すぐに分かりますよ」
所轄地域課の秋元巡査部長はタカをくくった。段ボール箱には竹の子の香り、多摩市の農協のロゴもついている。オクルミやベビー服も新品のようで、有名そうなメーカーのロゴが入っていた。その線から当たれば、三日もあれば解決すると思っていた。
ところが、農協もベビー服のロゴも実在のものではなかった。
目撃者もおらず、法定期日も過ぎたので赤ちゃんは、児童福祉施設に送られることになった。
「うちの子にします!」
秋元巡査部長から、そう聞かされたとき、恭子は決然として言った。夫の亮介はたまげた。
そして、赤ん坊は立川夫婦に引き取られ、恭子の反対にもかかわらず「姫子」と名付けられた。
家具屋の姫子で、商店街のご近所さんやお客さんたちから、案の定『かぐや姫』と呼ばれるようになった。名前も立川姫子なので、有名ラノベのキャラと一字違い。中学の部活は、ラノベのキャラと同じソフトボール部だった。
夕べ、修学旅行用の書類を準備するときに、いずれ分かることだからと、父から養女であること伝えられた。
「やっぱし……いいよ、分かっていたから」
その場は、そう言ったが、やはり直接言われるのは応えた。平気そうにしていたが、寝床に入ると涙が止めどなく流れるのに閉口した。
姫子は、いつも通りに起きて食卓に着くときには、いつもの顔に戻っていた。
でも、だめだった。親子三人、あまりにも普通すぎた。
「この子が二十歳になったら、七十三だぞ、二人とも」
亮介の言葉で恭子も決心し、赤ん坊を児童相談所に預けた。警察も乗りだし『要保護者遺棄』の疑いで捜査した。
「なに、すぐに分かりますよ」
所轄地域課の秋元巡査部長はタカをくくった。段ボール箱には竹の子の香り、多摩市の農協のロゴもついている。オクルミやベビー服も新品のようで、有名そうなメーカーのロゴが入っていた。その線から当たれば、三日もあれば解決すると思っていた。
ところが、農協もベビー服のロゴも実在のものではなかった。
目撃者もおらず、法定期日も過ぎたので赤ちゃんは、児童福祉施設に送られることになった。
「うちの子にします!」
秋元巡査部長から、そう聞かされたとき、恭子は決然として言った。夫の亮介はたまげた。
そして、赤ん坊は立川夫婦に引き取られ、恭子の反対にもかかわらず「姫子」と名付けられた。
家具屋の姫子で、商店街のご近所さんやお客さんたちから、案の定『かぐや姫』と呼ばれるようになった。名前も立川姫子なので、有名ラノベのキャラと一字違い。中学の部活は、ラノベのキャラと同じソフトボール部だった。
夕べ、修学旅行用の書類を準備するときに、いずれ分かることだからと、父から養女であること伝えられた。
「やっぱし……いいよ、分かっていたから」
その場は、そう言ったが、やはり直接言われるのは応えた。平気そうにしていたが、寝床に入ると涙が止めどなく流れるのに閉口した。
姫子は、いつも通りに起きて食卓に着くときには、いつもの顔に戻っていた。
でも、だめだった。親子三人、あまりにも普通すぎた。
姫子はたまらなくなり、トーストをくわえたまま家を飛び出すことになったのである。
そして、姫子本人も両親も気づいていなかった。
そして、姫子本人も両親も気づいていなかった。
姫子が本物のかぐや姫であることを……。
つづく………☆
つづく………☆