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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

乃木坂学院高校演劇部物語・67『三学期最初のクラブ』

2019-12-16 06:08:17 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・67   
『三学期最初のクラブ』 

 
 
 
「なんか、赤ちゃんのお手々みたいだね」

 これ、三学期最初のクラブでの二番目の言葉。

「おっす、アケオメ」
 これが一番目。で二番目は、わたしが手のひらに乗っけてたそれを見た里沙の感想。
「ヒトデのミイラ」
 これは夏鈴の感想。例外的に里沙の方がデリカシーがあった。

 で、その赤ちゃんのお手々のような、ヒトデのミイラみたいなものの正体は。
 マルチヘッドフォンタップと申します。
 何に使うかというと、テレビやオーディオに繋いで、最大五人まで同時にヘッドフォンが使えるという優れもの。

 で、なんで、新学期早々の部活でこれが必要だったかと言うと、以下の通りなんです。

「じゃあ、テレビとデッキ運ぶよ」
「「「おー!」」」
 と、元気はよかった……しかし現物を目にするとため息。別にイケメンを発見したわけではないんだ。
「どれでも好きなの持っていきな」
 技能員のおじさんは、フレンドリーに言ってくれた。
「どうせなら、おっきいのがいいよね」
「十四型なら、持てるけど……」
 わたしたちは、テレビの品定めをしていた。
 地デジ化した後、学校中のアナログテレビが使えなくなり、倉庫に集められれていた。
 いずれ廃棄になるんだけども、デッキに繋げばDVDのモニターとして使えるので、技能員のおじさんが倉庫にとっておいた。それをいただきにきたってわけ。
「やっぱ、この二十八型だよね」
 夏鈴が、お気楽に指差した。
 でも、重さは、お気楽ではなかった。三人がかりでやっと台車に載せてゴロゴロと押していった。
「はあ……」
 三人そろってため息をついた。わたしたちの部室は、クラブハウスの二階にある。階段の幅も狭く、上と下に一人ずつ付くしかない。
「「「無理……!」」」
 これも三人そろった。
「テレビ運ぶのか?」
 その声に振り返ると、山埼先輩が立っていた。先輩とはジャンケン勝負以来だ。

「ここでいいか?」
 山埼先輩は、なんと一人でテレビを持ち上げ、マッカーサーの机まで運んでくれた。
「……観ることから始める。いいんじゃないか。マリ先生がいないんじゃ、今までみたいな芝居はできないもんな」
「機材もないし、人もいませんから」
 取りようによっては嫌みな里沙のグチを、先輩はサラリと受け流した。
「まあ、事の始まりってのは、こんなもんさ。ま、力仕事で間に合うことがあったら言ってくれよ。オレとか宮里は慣れてっから」
「先輩たちは、どうしてるんですか」
 ペットボトルのお茶を注ぎながら聞いた。
「二年のあらかたは、G劇団に流れた。あそこ、うちの卒業生が多いから、違和感ないし。でも、ここに居てこそデカイ面できたけど、大人の中に入っちゃうとペーペー。勝呂だって、その他大勢だもんな」
「ま、事の始まりってのは、そんなもんですよ」
「ハハハ、そうだな。おまえらもがんばれや」
 そう言って、お茶を一気のみして爽やかに行ってしまった。

 DVDプレイヤーは、パソコンの方が便利だろうと、柚木先生がお古を無償貸与してくださった。
 一応柚木先生が正顧問。でも、自分は演劇には素人だからと、部活の内容には口出しされない。先輩たちとも先生とも良い距離の取り方。
 明朗闊達、自主独立。久方ぶりに生徒手帳の最初に書いてある建学の精神を思い出した……正確には、里沙が呟いたのに、わたしと夏鈴がうなづいたってことなんだけどね。

 それから、わたしたちは観まくった。

 古い順に、『風と共に去りぬ』『野のユリ』『冒険者たち』『スティング』『ロンゲストヤード』『ロッキー』『フットルース』『ショーシャンク』『クリムゾンタイト』『ラブアクチュアリー』『プラダを着た悪魔』『最高の人生の見つけ方』『インヴィキタス』『パイレーツロック』『英国王のスピーチ』『人生ここにあり』
 いずれも、不屈であり、我が道を行き、不利な状況を打ち破るお話ばかりで、広い意味で、お芝居って、人を元気にさせるものなんだと感じた。
 とても全部について感想言ってる余裕はないけど、『人生ここにあり』は笑って、大笑いして、大爆笑! なんだか「馬から落ちて落馬して」みたいな言い方だけど、その通り。イタリア映画で言葉なんか分からない。字幕みてる余裕もないんだけど、とにかくダイレクトで伝わってきた。ストーリーは、まだ観てない人のために言えないけど。

――クラブを続けてよかったんだ。きっといいものが創れるんだ!

 そう確信できたことは確か。

 ちなみに、これらの映画は、はるかちゃん経由で、大阪のタキさん(チョンマゲのオーナーシェフの『押しつけ映画評』を門土社で連載やってるおじさん)のお勧め。
 で、DVDの大半は、はるかちゃんのお父さんからの借り物。
 非常に経済的なクラブ運営に、里沙でさえほくそ笑んだ。だって使い残した部費を年度末にはパーっと使えるでしょ。
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