オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
108『純白の単衣』
ガラスのサイコロを斜めにして滑り台を付けたような駅。
その駅前のロータリーで途方に暮れていた。
なぜって、駅は確認したけど、行き先であるお婆ちゃんの実家は聞かずじまいだったから。
ロータリーに佇んで、わたしはとっても寒い。歯がカチカチ鳴って、その振動が体中に伝わってガタガタ震えている。
まるで真冬のミシガン湖のほとりに立ったみたい。
シカゴと大阪は姉妹都市で、いろいろ共通点はあるけど、人口の多さと真冬の寒さはシカゴの勝ちに間違いない。
って、立っているのは栗東駅のロータリーなんだけど……きっと、栗東という地名と冬の始まりである今日11月7日が立冬であるという語呂の良さ。
「へー、そうなんだ」
お婆ちゃんに言われて感心したから、こんなダジャレみたいな運命に翻弄されている。
で、なぜか千代子とお揃いのスェットパジャマ。
パジャマなんだけど、セーラー服。
本来ツーピースのセーラーがスェット地のワンピになっていてクルブシまでのロング、映画で見たスケバンのセーラーみたいで「おっもしろーい!」と意見が一致して通販で買った。
「これやったら、普通に外歩いてても分からへんで!」
と、夕べは盛り上がった。
「ミリーが言うてた純白の単衣な、田舎の栗東にあるわ」
お婆ちゃんが、あちこちに手配して、自分の実家である栗東の家から写真付きでメールが送られてきたんだ。
この純白の単衣は文化祭で着るんだ。
夕鶴のヒロインつうの役だから純白の小袖なんだ。
でも、時代劇じゃあるまいし、いまどき小袖なんて無い。
「下に一枚着たら、絹ものの単衣でもいけるなあ」
お婆ちゃんのアイデア。
でもって、早手回しにセーラーのパジャマ着て、栗東駅のロータリー。
ヘクチ!
かわいくクシャミして目が覚めた。
あたしは、夕べから使い始めた冬布団を蹴飛ばし、セーラーワンピのパジャマは胸の下まで捲れ上がった姿に愕然とした。
いろいろあって、変な夢みちゃったんだ……。
いくらなんでも、パジャマで栗東に行くわけないないもんね。
「栗東の従兄弟が届けてくれるて」
朝ごはん食べてると、お婆ちゃんが伝えてくれる。
「ほんと? めっちゃ嬉しいです(*^-^*)」
卵をかき混ぜる手に力が入る。わたしは玉子ご飯好きの変なアメリカ人でもある。
「おはよ……」
悲惨な小声で千代子、珍しく起き抜けの爆発頭。
「あかんわ、風邪ひいてしもたー」
「あ、お腹出して布団蹴飛ばしてたでしょ?」
「……なんで分かるのん?」
「アハハ、ミリーはなんでもお見通し!」
けっきょく、千代子は学校を休んだ。
同じ目に遭ってるのに、わたしは大丈夫。
おそらくは、来週に迫った文化祭の事が楽しみなんだからだと思う。
衣装の心配が無くなったことで、授業も稽古もルンルンでできた。
家に帰ると、栗東の従兄弟さんからブツは届いていた。
「さ、さっそく試着してみい」
お婆ちゃんの勧めで、チャッチャとリビングで着替える。
で、姿見を見て、わたしは愕然とした……。