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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:182『黄泉の国を目指す神々の会・2』

2021-04-23 08:48:08 | 小説5

かの世界この世界:182

『黄泉の国を目指す神々の会・2』語り手:テル   

 

 

 歩いていくと言うのか!?

 

 いざ出発という時になって、波打ち際に向かって歩き出すイザナギに驚いた。

「ああ、この世界は生まれたばかりで、交通手段がない。すまんが、歩いて行くしか手がないんだ」

 たしかに、オノコロジマは巨木のようなアメノミハシラが太ぶとと突っ立っているだけの島で、海の向こうの陸地はイザナギ・イザナミ二人が産んで間もない裸の土地が黒々と続いているばかり。

 所どころに煙が立ち上っているのは、イザナギが切り刻んだ火の神の欠片が燻っているところだ。

 ようく見ると、それでも木々の緑が萌えはじめているところがあって、やがては豊かな森林地帯になりそうだが、道らしきものや人里らしきものの気配は無い。

「はてさて……」

 ブァルキリアの姫騎士は、岩場の高みに駆け上って腕組みをする。潮風に髪を嬲らせ、彼方の陸地を睨んで思案の姿はあっぱれ美丈夫の勇姿……ムヘンの流刑地で初めて見た時は退嬰して、満足に舌もまわらない少女だった。不覚にも軽い丈息が出るほどに感動してしまう。

「やはり、イザナギ殿が言われるように地道に歩くしかないようだ……そこここにクリーチャーやモンスターの気配がする。覚悟してかからねばな……ん、なんだテル?」

「いや、相変わらず男前な姫君だと感心していたのよ」

「な、なにを下らにことを。さ、まいろうかイザナギ殿」

「呼び捨てのイザナギで結構、わたしもヒルデ、テルと呼ばせていただくことにするからな」

「そうか。では、イザナギ、わたし達は空を飛ぶことができる。きみ一人なら背負うなり、ぶら下げるなりして行くことができる。空を飛んでいかないか?」

 軽々と岩場から下りてきてヒルデが提案する。うる憶えのわたしでも、黄泉の国がオノコロジマの近くではないことぐらいは分かっている。黄泉の国は日本海側のどこかであったはずだ。当然、海を渡らなければならないし、中国山脈も走破しなければならない。

 まず、なにより目の前の海を、飛ぶこともせずに、どうやって渡ると言うのだ?

「歩いて行くんだ」

「「「歩いてえ!?」」」

「そんなに難しいことではないよ」

「いや、難しいだろ」

「というか、不可能だ」

「でも、おもしろそう(^▽^)/」

 わたしとヒルデがいぶかる中、ケイト一人が無邪気に目を輝かす。

「そう、面白いよ。右足を出して、それが沈まぬうちに左足を進め、左足が沈まぬうちに右足をという具合に交互に進めて行けば歩いていける!」

「うん、やってみよう!」

「ま、待て。仮に歩くとしても、事前にルートを確認しておかないか」

 せっかく奮い立たせた覚悟をくじかれて、それでもヒルデは自分が仕切らなければならないと我々の顔を見る。

「そうね、ケイト、そこの木の枝を拾ってちょうだい」

「うん、どうぞ」

「えと……オノコロジマがここだから……」

 わたしは砂浜に木の枝で、おおよその西日本の地図を描いた。オノコロジマは淡路島の東に想定されているはずだ。

「なるほど、これがわたしがイザナミと産んだ国なのか……」

「ああ、地理苦手だから、だいたいの位置関係が分かる程度にしか描けないんだけどね(^_^;)」

「海を三回渡らなければならないのだな……」

 元来が北欧の戦乙女、地図に目標を記すと目が輝き始める。

「淡路島に渡って西に進んで、次の海を渡ると四国。たぶん鳴門市のあたりに着くと思う。そこからは右手に海を見ながら……高松の向こうあたりから瀬戸内海を渡って……岡山かな?」

「あ、そのあたりまで行けば、分かると思う。黄泉の国は負のオーラがハンパではないから、おそらくは、そのオーラが空まで立ち上って目印になると思う」

「よし、じゃあ、とにかく出発しよう!」

 自慢のエクスカリバーを抜くと、ヒルデは西の空を指した。

 ボワ!

 一瞬で、我々の前方に『黄泉の国を目指す神々の会』の旗が風をはらんではためいた!

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

 

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ライトノベルベスト『だるまさんがころんだ』

2021-04-23 06:00:10 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト
『だるまさんがころんだ』
      


 ぼくは、バカなあそびだと思っていた……だるまさんがころんだ、が。

 小二のころだったかな、なんでか、だるまさんがころんだ、がはやりだした。
 もう、はっきりおぼえてないけど、テレビのバラエティーでやっていた。
 
 ただのバラエティーなんかじゃない。AKR48が楽しそうにやっていた。

 ぼくの好きな矢頭萌ちゃんや、小野寺潤のオネーサンたちが、こどもみたいに楽しそうにやっていた。
 オバカタレントなんかも混じっていて、地球がひっくりかえったぐらいのショーゲキだったんだ!

 だってさ、だってさ、オバカとかわいい女の子がいっしょにあそんでいるなんてありえない。
 すくなくとも、ぼくの学校ではね。

 バカはバカだけであそぶ。かわいい女の子は、女の子だけであそぶ。これじょうしき。

 だから、翔太と話したんだ。

 だるまさんがころんだ、を、やったら女の子ともいっしょにあそべるぜって。

 それで、学校のかえりみちでやるようになった。歩きながらやるんだぜ。
 五人ぐらいで、オニも、それいがいの子も歩きながら。
「あ、翔太動いた!」
「ほら、タッチ!」
 なんてやりながら、かえるんだから、家につくのが、とてもおそくなる。

 女の子たちも、しばらくはやっていた。やっぱりAKRのえいきょうりょくはすごいと思った。
 でも、かえる時間がおそくなるので、女の子たちは、すぐにやらなくなった。

 ぼくと翔太のたくらみのように、女の子がいっしょにやってくれることはなかった。

 それは、まあ、いいんだ。ぼくの、ほんとのねらいはちがったから。


 ぼくは、春奈ちゃんとやりたかった。

 春奈ちゃんは、とくべつだった。
 本がだいすきで、じゅぎょうが終わると、まっすぐ図書室に行って、なんさつも本を、かりる。
 どうかすると、かえりみち、本を読みながら歩いていることもあった。
 かみの毛をウサギの耳みたいにくくって、長くたらしている。とおりすぎるといいニオイがした。

 春奈ちゃんは、ぼくたちの、だるまさんがころんだをシカトしていた。おこっているみたいだった。

 そんなの、通行のじゃまよ。そう言われているみたいだった。
 じっさい、いちど、だるまさんがころんだで、わらいころげていたら、とおりすがり、小さな声で言われた。

「バッカみたい……」

 ショック! で、そんなこんなで、ぼくたちも、だんだんやらなくなった。

 三年、四年と、春奈ちゃんとはべつのクラスになった。その二年間、ぼくは春奈ちゃんをまともに見られなかった。

 そして、五年で、同じクラスになった。
 春奈ちゃんはまぶしかった。背もぼくより少し高い。二学期にはむねも出てきた。
 で、あいかわらず本ばかり読んでいる。でも体育なんかは、口をきっとむすんで、じょうずにやっていた。

 あれは、体育の日が終わったころだった。
「ねえ、亮介、だるまさんがころんだやろうよ!」
 春奈ちゃんのほうから言いだした。
「え……」
 ぼくは、あっけにとられた。
「やろう、亮介オニね」

 春奈ちゃんの家は、ぼくより学校に近い。あたりまえなら十分ほどで帰れる。
 それを、三十分、だるまさんがころんだをしながら帰った。

 ぼくは、いちども春奈ちゃんをつかまえられなかった。
 だるまさんがころんだ。で、ふりかえると、春奈ちゃんは、いつも体育のときのようだった。
 口をきっとむすんで、ぼくの目を見つめている。
 ほんとうは、動いていたのかもしれない。
 でも、ぼくは春奈ちゃんに見とれていた。だから見のがしたのかもしれない。

 春奈ちゃんは、まじめな顔をしていてもエクボができる。

 新発見。

 ぼくの背中をタッチしたときは、とてもうれしそうな笑顔。これも新発見。

 家が近づき、最後のタッチをしたあと、春奈ちゃんは、こう言った。
「女だと思って、手ぇぬいたでしょ」
「ち、ちがうよ。ぼくは、ぼくは……ぼくはね」
 ゆうびん屋さんが、ふしぎそうな顔で通っていった。
「いいよ、ありがとう。楽しかった、だるまさんがころんだができて。じゃあね!」

 春奈ちゃんはとびきりの笑顔だった。そして、なんだかなみだぐんでいたような気がした。

 なにか言わなきゃ。そう思った……。

 春奈ちゃんは、勢いよくウサギの耳をぶんまわして、家の中に入っていった。


 あくる日、学校に行くと、春奈ちゃんがいなかった。

「河村春奈さんは、ご家庭のじじょうで転校されました……」

 先生は、そのあと「君たちも」とか「がんばろう」とか言っていたような気がする。
 でも、ぼくは、先生のあとの言葉は聞こえなかった。

 ぼくは、二度と、だれとも、だるまさんがころんだが、できないような気がした。

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真凡プレジデント・61《夏の日差しをものともせずに》

2021-04-23 05:40:36 | 小説3

レジデント・61

《夏の日差しをものともせずに》    

 

 

 

 登下校に帽子をかぶる習慣がない。

 

 でしょ、たまに日傘差してる子もいるけど、荷物になるし、ちょっちダサ目なんで、日傘も差さないし帽子も被らない。

 だから制服を着たとたんに机の上に用意しておいたキャップは忘れてしまう。

 で、終業式が終わって、生徒会としての学期末の書類整理なども終え、エアコンをギンギンに効かせてお召し替え。

「真凡一人イケてるじゃん」

 ひまわり模様のワンピが健康的ではあるけど子どもじみたなつきが感心する。

「なんだか女子アナみたい!」

 本質を突いてきた綾乃はモテカワのカットソーに虹色キュロット。

「女は化けるわねーー!」

 自分の化けっぷりを棚に上げて、オールディーズ風水玉ワンピのみずき。

 

 ケーキバイキングとはいえ一流ホテルのそれなので、申し合わせもしていないのに気合いが入っている。

 

 こういうことに慣れている女子大生とかOLは、案外ラフな格好で来るのだろうと想像はつくんだけど。

 まあ、こういう背伸びも似合って見えるのが女子高生の特権でしょ。

 わたしの場合は、自分のがナフタリン臭いので止む無くってことなんだけどね。

 

「じゃ、行こうか!」

 

 踏ん切りをつけて昇降口を出たところで思い至る――帽子欲しいよねえ!――

 やっぱり制服の呪縛は大きい。

 高校生と言うのは、時と場所によって――もう大人――と――まだまだ子ども――を使い分けてるんだけど、私服になったとたん、大人の方にバイヤスがかかり、普段は、あまり気にもしない日差しが大いに気になる。

「そだ、ちょっと待ってて!」

 可愛い目をクルリと回したかと思うと、なつきがロッカーの所に戻った。

 ひとしきりゴソゴソやったかと思うと――あったー!――の声をあげて駆け戻って来る。

「はい、ちょうど一個ずつ!」

 配ってくれたのは、去年毎朝テレビの見学(これはこれでエピソードがあるんだけど、いずれ)でもらったキャンペーンキャップ。記念品は一人一個なんだけど、なつきは四つもせしめていた。

 

 こうして、イケてる四人はさっそうとケーキバイキングに乗り出した。

 

 夏の日差しをものともせずに、道行く人たちの注目を浴びて、ちょっとウキウキの四人。

「ア、信号変わる!」

 駅前まで来たところで、なつきが駆けだした。

「ちょ、待って!」

 靴までお姉ちゃんのを借りてきたわたしは、出遅れて、瞬きしだした信号に間に合わなかった。

「くそ!」

 

 向こうの信号では、三人がオホホアハハと笑っている。

 そこに、わたしの前にオフホワイトのワゴン車が停まった……。

 え……?

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長

 

 

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