大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・201『女王陛下からの電話』

2021-04-15 09:44:51 | ノベル

・201

『女王陛下からの電話』頼子     

 

 

 からマヨ丼……A定食……ラーメンライス……サンドイッチとスタミナうどんの組み合わせも捨てがたいなあ……

 わたしの頭はニ十分後にやってくる昼食メニューでいっぱいだった。

 むろん、目の前で展開されている数二Bの板書を写すことに怠りは無い。無いどころか、理論先行で、もう一つ面白みに欠ける先生の説明にも姿勢を正し、ほどよく微笑んで聞いている……聞いているふり。

 からマヨ丼とスタミナうどんというワイルドな組み合わせに心が傾斜して、その傾斜を視覚化したように教室の前の方のドアが開いた。

 対数関数の説明が佳境に入ってきたところなので、授業の腰を折られて、ちょっと狂暴な顔つきで先生はドアを睨んだ。

 ドアの隙間から見えたのは、日直日誌を取りに行った時ぐらいしか姿を観ない教頭先生だ。

 教頭先生だと知れると、スイッチを切り替えたように柔和な目になって――なんでしょうか?――という表情になる。

 ドアの所で教頭先生に一言二言告げられると、先生の視線は、あやまたずわたしに突き刺さってきた。

「夕陽丘さん、職員室にお電話がかかってきているそうです。直ぐに職員室へ行ってください」

「は、はい」

 スックと立ち上がると、できるだけ授業の邪魔にならないように後ろのドアから出ていく。

 むろん、礼儀として先生の方に黙礼することも忘れない。

 コト

 かそけき音だけ残してドアを閉めると、教頭先生が傍に寄って来て耳打ちされる。

「ヤマセンブルグからの国際電話です」

「あ、はい。わざわざありがとうございます」

 教頭先生の神妙な様子と、わざわざ授業中の取次ということで、公使館あたりから緊急で人がきたか、電話があったかだろうと思っていたけど、地球の裏側のヤマセンブルグからというので、ちょっと緊張。

 職員室の前まで行くと校長先生が首から下げたロザリオをに手を当てながら寄ってこられた。

「電話は、校長室に回しておきました……女王陛下からです」

「え、あ、はい」

 お祖母ちゃんが学校に電話してくるなんて、よっぽどのことだ。

 校長室に入ると、私以外に人は居なくて、校長先生も遠慮されている。

 校長先生の机の上には受話器の送話口がこちらに向けて置いてあり、保留のオルゴールのメロディーがお伽話めいて流れている。

「はい、お電話代わりました。頼子です」

『ちょっと声紋確認するわね……』

「お祖母ちゃん……」

 声紋確認……ただごとじゃない。

『オーケー、確認できたわ。ヨリコ・スミス・メアリー・ヤマセンブルグ』

 お祖母ちゃんは、めったに使わない真名でわたしのことを呼んだ。

「はい、なんでしょうか女王陛下」

 わたしも、めったに使わない敬称でお祖母ちゃんに返事。

『実はね……イギリスのフィリップ殿下が亡くなられました』

「え……フィリップ殿下が!?」

 フィリップ殿下というのは、エリザベス女王の夫君でチャールズ皇太子の実父。

 イギリス王家で、女王の次の位のお方だ。

「詳しいことは、あとで電話するけれど、ヨリコ……事の重要性は分かっているわね」

「はい」

「ヤマセンブルグは親類筋に当ります。いずれ、ご葬儀のお話などが来ることになるでしょう。頼子に足を運んでもらわなければならないとも限らない。どうか、身を慎んで待って頂戴ね。それから……」

 お昼のメニューは吹っ飛んでしまった。

 電話を切って廊下に出ると、ソフィーが畏まって控えている。

 学友であり警護役であるソフィーには別ルートで情報がきているんだろう。

「とりあえず、早退して領事館に戻って頂きます」

 そう言うと、いつの間に用意したのか早退届の用紙を渡してくれる。

 早退理由は『家庭都合』ということになっていた。

 

 

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らいと古典・わたしの徒然草73『多くは皆虚言なり』

2021-04-15 06:55:50 | 自己紹介

わたしの然草・73
『多くは皆虚言なり』   



徒然草 第七十三段

 世に語り伝ふる事、まことはあいなきにや、多くは皆虚言なり。
 あるにも過ぎて人は物を言ひなすに、まして、年月過ぎ、境も隔りぬれば、言ひたきままに語りなして、筆にも書き止めぬれば、やがて定まりぬ。道々の者の上手のいみじき事など、かたくななる人の、その道知らぬは、そぞろに、神の如くに言へども、道知れる人は、さらに、信も起さず。音に聞くと見る時とは、何事も変るものなり。


 この七十三段は、もう少し長いのですが、要点は最初の一行。
「世に語り伝ふる事、まことはあいなきにや、多くは皆虚言なり」につきるでしょう。
 意味はお分かりだろうと思いますが、蛇足で訳すとこうなります。
「世の中に伝わる話は、真実ではおもしろくないので、たいていは嘘である」
 と、実も蓋もありません。

 前世紀の終わり頃、イギリスだったかで、一夜のうちに麦畑が不思議な図形に踏み倒され、UFOのしわざだと、マスコミなどが騒いだ時期がありました。犯人はUFOなどではなく、そこらあたりのアンチャンたちが、夜中に麦畑に進入し、踏み板で麦をでたらめに踏み倒したドッキリで、当の御本人たちが笑って種明かしをしていた。ネス湖のネッシーの写真もほとんどは、この伝だすです。懐かしいところでは『ノストラダムスの大予言』というのがあった。この世は千九百九十九年の七の月に滅ぶというもので、「恐怖の大王」が降臨するとかのオマケまでついていて、少年雑誌ではヒットラーが宇宙人の助けをを得て再来するというものまでありました。

 最近では「地球温暖化」ではないでしょうか。確かに、わたしの六十年になる人生の中では「子どもの頃はもっと寒かった」という感覚はあります。しかし、たかが六十年です。人類の気象観測も十九世紀に始まり、その統計資料は二百年に満ちません。

 1906年から2005年の世界平均気温の上昇は0.74度に過ぎません。この0・74度の上昇の原因も大方の科学者は原因は分からないとしています。そして統計をとる段階で、この「原因は分からない」と答えた科学者の意見は、「地球は温暖化していないとは言えない」というややこしい分別をされ、結果的には、世界のほとんどの科学者が「地球は温暖化している。と言っている」ことになっているのであり。正確には「分からない」という意見がもっとも多いのだそうです。

 問題は、その原因が人間が排出している二酸化炭素に原因があるとされ、京都議定書やCOP15(第15回気候変動枠組条約締約国会議)では、二酸化炭素の排出規制が述べられ、アメリカ、中国、インドなどが入らないまま、既定事実として扱われていることでしょう。
 2009年9月22日 鳩山由紀夫首相がニューヨークの国連本部 で開かれた国連気候変動サミットにおける演説内で温室効果ガス25%削減を発言したことは忘れた方も多いのではと思いますが、日本はすでに二酸化炭素などの排出規制技術では先進国で、いわば絞りきった雑巾。とても実現できるしろものではありません。これが、単に鳩山元首相のタワゴトで済めばいいのですが、国際的な約束になってしまいました。で、ここで排出権の取引というきな臭い、うさん臭い話になります。つまり、日本が達成できなかったぶんを他国にお金を払って買い取って、その国が達成した分を日本の排出達成分とするわけです。

 こう言えば、お分かりいただけるでしょうか。

「町内の景気が悪いのは、町に悪い気が充満しているからであって、その悪い気を町全体で減らそう。そのためにはお祀りをせねばならず、その費用は、それぞれの家の収入に比例させよう」ということが町内会で決議され、うかつに戸主が、その話にのったようなもの。

 もう一つはこれです。

「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」
 お馴染みの日本国憲法の前文です。小学生のころからお題目のように繰り返し覚えさせられた。だからわたし達「戦争を知らない子供たち」は世界市民やコスモポリタニズムなどという言葉を神聖な誓文のように思い、「戦争反対」とにこやかに叫んでいれば、自由と平和は保証されるように思ってきました。この場合の「あいなき=おもしろくない」は、アメリカにとって、おもしろくないことでありました。新憲法ができて数年後に、アメリカのおもしろいことは日本の再軍備になりました(朝鮮戦争のころ)ので、日本の再軍備を要求してきました。そのころの政府首脳は、アメリカのおもしろいことに付き合うのはおもしろくないと利口に考えて乗りませんでした。だから、その後の奇跡のような経済成長を成し遂げることができました。

 いわば方便であった憲法を、うまく利用してきたのですね。もう、そろそろ世界のまことに気づき(世界は公正でもなければ真義にも厚くない)考えても良い時期ではないでしょうか。

 最後は柔らかく。学校における女子の体操服と制服であります。

 昔は、制服のスカートは長く、体操服のアンダーはパンツと見まごうほどに短いブルマでありました。普段スカート丈にうるさい体育の教師が、体育祭では女生徒の嫌がるブルマを強制していました。
 最近は男女共通の膝丈のハーフパンツをもって体操服のアンダーとしていますが、股下数センチのスカートには寛大であります。
 しかし、女子にもおもしろい意見というか対策(虚言)があります。どうも見せパンというのがあって、万一観られても構わないものを身につけている者もいるようですが、スカートの中という点では同じ事で、わたしのように免疫のない世の男性には同じことであります。
 この見せパンをオーバーパンツと言い換えると、なんだか健康的になります。でも、世の男性を刺激するという点では、なんら変わりはない……ように思えます。

 

 

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真凡プレジデント・53《拡散の果て》

2021-04-15 06:36:57 | 小説3

レジデント・53

《拡散の果て》      

 

 

  この人手不足の世の中なのに再就職先が無いんだそうだ。

 

 毎朝テレビの出身というだけで門前払いされる。

 どこのマスメディアも狼狽えている。下手に毎朝テレビの出身者を引き受ければ――おまえの所も同じか!?――という目で見られ、自社の存続も危うくなるからだ。

 マスメディアはこぞって姿勢を変えた。阿倍野内閣がいかに真摯に政治に取り組んできたかを特集番組で賛美したり、野党が無茶苦茶な追及をしてきたかを言い出した。

「メディアのみなさん、支持してくださるのは有りがたいのですが、どうか冷静になってください」

 当の阿倍野首相が控え目なコメントを出すに至っては「なんと寛容な総理大臣なんだ!」と、メディアの社長や編成局長がテレビで言い出す始末だ。

 

 悲劇が起こった。

 

 お姉ちゃんといっしょに総理番をしていた元記者が亡くなった。

 ほら、ぶら下がり取材が終わって、何度も「総理!」と呼び止めては知らんぷりして、総理は記者の呼び止めを無視して行ってしまいましたってフェイクニュースを流した人。

 仮にSさん。

 SNSで面が割れてからは、再就職どころか、Sさんは、街を歩いていると「おいS」「Sさ~ん」と声を掛けられる。

 振り返るとニタニタ笑っている人が複数いるんだけれど、呼んだ本人が名乗りを上げることは無かった。かつて自分が総理にやったことが毎日いたるところ、行く先々でやられるのだ。日を追うに従って、呼び止める人が増えてきた。

 そして、全国的に、これが流行り出した。大勢で名前を読んだり声をかけたりして、人が振り返っても無視するいう遊び、いや、イジメが流行り出したのだ。

 こういうイジメは学校が温床となり、最初は中学、やがて高校、小学校と広がり、幼稚園児まで真似し始めると、PTAや教職員組合、果ては文科省まで騒ぎ始めた。

「人に声をかける時は、相手の前に回って、人の視界に入ってからにしましょう」

 文科大臣がバカなことを言いだす。

 前に回ったからと言って、人間はAIではないので、全てを認識できるわけではないのだ。

「じゃ、声をかけると同時に手を挙げて注意喚起することにしましょう(^▽^)/」

 斬新な提案や政策で有名な都知事が、いつものノリで、こういう提案をする。

 それはいいことだ、子どもたちは教室で普通にやっていることだから、大人も昔を思い出してやってみようということになった。

 都知事のぶら下がり会見からやり始め、野党の女性議員が推奨し、国会でもやるようになった。

「五十肩のオッサンは、ちょっと辛いものがある」

 与党の重鎮が、物言いをつけると、その日のうちに都知事がアイデアを出した。

「授業中の小学生みたいにやらなくてもいいでしょ、ちょっと肩のところまで手を挙げるだけで十分ですよ。ほら、昔、蕎麦屋の出前持ちが自転車やバイクに乗って肩の所で出前のお蕎麦をホールドしてましたでしょ(^▽^)/」

 その提案で、そのスタイルが『デマエ』という言葉で表現されるようになって、軽く手を挙げることを『デマエる』というようになった。

「ご意見ご質問のある方は、どうぞデマエてください」

 絶滅寸前のワイドショーで、なんとか生き残っていた女子アナが言い始めて流行り出したのだ。

 この女子アナは、一時は都知事と並んで有名になり、二人の対談が週刊誌に載ったり表紙を飾るようになった。

 ひかし、意外なところからクレームがついてきた

「ナチスの挨拶と同じだ!」

 アジア某国のサッカー選手が言い始め、瞬くうちにSNSで広まってしまった。

「日本はナチスを礼賛している!」

「軍国日本の復活!」

「ジャパンファッショ!」

 都知事が言い出して一か月もしないうちに、世界中からファシズム復活と避難の嵐になった。

「ドイツでは、ナチスの敬礼と混同されないように、手を挙げる時は人差し指を挙げることにしています」

 ドイツ人がSNSで親切に教えてくれたのを一種のからかいと思った野党の女性党首は、記者会見で指摘されると、からかいの一種だと思って鼻で笑ってしまった。

 フン

 ニ十分後には、画像付きでSNSで広まってしまい、ドイツを先頭に世界中から非難を受けた。

 こういう風潮にうんざりした若者が、この原因の全ては元毎朝テレビのSだ! Sこそ元凶だ!

 Sさんは、もう名前を呼ばれるだけでパニックになってしまい。赤信号の交差点にフラフラと飛び出し「危ないSさん!」の声にも振り向けず、とうとう、トラックに跳ねられて亡くなった。

 ま、それは、わたしを取り巻く一連の事件が終わってからのことなんだけどね。

 

 そんなある日、お姉ちゃんは「ちょっと出てくる」と言ったまま居なくなった。

 

 ちょっとコロッケを買いに行くようなナリだったのだけど、疾走したのでは!? 両親は心配したが、パスポートの写真を知っているので「そのうち帰って来るよ」となだめておいた。

 さあ、もうじき夏休み。

 二つ角を曲がったら正門が見える。

 一つ目のビルの角を曲がって、パッと空が広がる。

 真っ青な空にムクムクと入道雲、遠くセミの鳴き声……え、セミ?

 いくらなんでもセミには早い。

 どうやら、青空と入道雲のフェイクに感覚がフライングしたようだ。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
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