大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・10(促成魔女初級講座・座学編・2)

2016-11-29 06:37:12 | ノベル
秘録エロイムエッサイム・10
(促成魔女初級講座・座学編・2)



「わしが、なぜ生涯一度も負けなかったかわかるかのう」

 武蔵は独り言のように言って、庭を眺めている。ただ、言葉の直後に鹿威しの音が入り、真由の心に突き刺さる。
「……負ける戦いはしなかった。ハハ、なんだか言葉遊びのように聞こえるかもしれんが、戦いの極意はこれしかない」
「あの……それだと、あたし、だれとも戦えません」

 真由の正直な答えに、武蔵は方頬で、清明は遠慮なく、ハチはなんとなくニンマリと笑ったような気がした。

「あ、変なこと言いました?」
「いや、正直な答えでけっこう。ここからが話よ」
 武蔵は、行儀よく端正に座っているように見えながら、どこにも力が入っていない。かといって打ち込めば、必ず反撃されるようなオーラがあった。真由の気持ちが分かったのだろう。清明があとを続けた。
「巌流島の話はしっているかい?」
「えと……佐々木小次郎さんに勝ったんですよね。たしか武蔵さんの一番大きな勝負……でしたよね?」
 うかつに多く口に含んだ濃茶は、いささか苦かった。
「あれ、まともにやっていたら武蔵さんの負けだったんだ」
「あの試合、武蔵さんは、わざと遅れてやってきた。悠々と小舟の中で櫂を削って、長い木刀をつくりながらね。小次郎はさお竹と言われるぐらいに長い刀を、すごい速さで繰り出してくる。で、わざと遅れて小次郎をいらだたせた。そして普段の二刀流は使わずに、船の中で作った櫂の木刀をぶらさげて、こう言った。『小次郎破れたり!』遅れてやってきて、お前の負けだって言われれば、たいていの者は多少頭にくる。平常心を失っちゃうね。ここまでならハッタリなんだけど、武蔵さんは畳みかけるように、こう言った『おぬしは鞘を捨てた。その刀は二度と鞘にはもどらん。おぬしの負けだ』」
「ハハ、小賢しいハッタリにちがいはない。いつも使っていた二刀流を使わなかったのも、小次郎の早さに着いていけない可能性が高かったから……そして、二刀流の武蔵が、長い木刀……意表をついたまでのこと」
「ジャイアント馬場って、プロレスラー知ってる?」
「えと……アントニオ猪木の師匠のプロレスラーですね」
 真由はスマホで検索して答えた。
「あの人は、元々はプロ野球のピッチャーだったんだ。最初に長嶋さんと勝負した時は三振をとっている」
「え、そうなんですか!?」
「背の高い人でね。とんでもなく高いところから球が飛んでくるんで、バットの軸線が合わせられないんだ」
「よい例えだ。野球は慣れてしまえば、あとは目と腕で勝てる。剣術は、そうはいかん。一度でも負ければ死ぬということだからな。巌流島勝利の主因はそこにはない。わしが勝てたのは、そうやって死地を選ぶ余裕ができたからだ」
「シチ?」
 ハチが、自分の兄弟の事をいわれたのかと耳を立てた。
「死ぬの死に地球の地とかく。文字通り、相手にとって勝てない死の地点だ」
「武蔵さんは、海を背に横に走り、小次郎の刀の軸線を殺した。つまり、小次郎が振り下ろした瞬間には、わずかに自分の位置がずれる場所まで走った。あせった小次郎は、それを補うために大刀を横ざまに振った……その瞬間、小次郎の上半身は無防備になる。そこを、すかさず武蔵さんは跳躍して、小次郎の脳天を木刀で打った。計算とアドリブの見事なコラボだ」
「それは、買い被りというもの。勝負は死地を選べた霊力。これは、そのときの清明殿から伝授されたものだ」

 武蔵は平気で濃茶を飲み干した。

「座学は、ここらへんでよいであろう。清明殿、真由どのを実地訓練に出そう。式神の作り方を教えてやってはいかが?」
「そうですね、それが、とりあえず役に立つ」

 清明は、はがき大の和紙と鋏をもってきた。いよいよ実践編にはいるようである……」

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評・108『CROODS』

2016-11-29 06:24:48 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評・108
 『CROODS』


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ



 これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している映画評ですが、もったいないので転載したものです。


邦題“クルードさんちのはじめての冒険”っちゅうドリームワークス製作3Dアニメ。石器時代が舞台です。アメリカで昨年3月公開(アイアンマン3のちょいと前)なんと11週ランクインして2億$位まで売り上げました。
 日本公開……あったんですかねぇ、ちょっと覚えがありません。スターチャンネルで放送されてましたからディスクには成っていると思います。

 クルード家は婆ちゃん(母方)ダッド、マム、反抗期の娘と弟、幼児(女の子)の6人家族の穴居人、ネアンデルタールなんでしょうね、昼間 狩りに出るが遠出はしない、夜は洞窟で身を寄せあっている。道具らしきものも火も持たない。 ある日、松明を持って夜も移動している青年ガイが現れる(クロマニヨンですな)
 時期を同じくして地殻変動が起こり、クルード家のスウィートホームは崩れ落ちてしまう。父/グラグは近くで洞窟を探そうと、あくまで現状維持。ガイは太陽に向かって遥か彼方の山を目指すという、ロウティーンの娘/イップはガイに興味津々。あくまで現状維持したいグラグだったが地殻変動は更に強くなり、一家はガイと共に旅に出る事となる。グラグはスーパーマン的力持ち、ガイは非力だが様々なアイデアを持っている。幾多の困難を乗り越えながら旅を続ける一家だが、目的地に到着しながらも地殻変動に先を越され、大きな地割れに行く手を阻まれる。
 グラグの怪力で割れ目を超えるが、グラグ自身は割れ目を渡れない。 翌朝、別れ難く悲しむ家族のもとに、なんと奇想天外なアイデアでグラグが戻って来る。彼は初めて自分の頭で考え、ガイですら考えつかなかったアイデアで空を飛んだ(まぁ、あり得ませんが……) 一家とガイは旅を続け、とうとう海辺に到達する。と まぁ、人類の進化と大移動を ある一家の旅に仮託して描き、家族の愛情、在るべき姿を提示する。 いやぁ、まことにスンバラシイ出来上がり、決して説教がましくなく押し付けも無い。
 まぁね、アメリカンの感覚ではありますが、日本人にも共感、共有できる範囲です。昔、“フリントストーン”っていうテレビアニメがありましたが(後に実写映画になりました。ジョン・グッドマン主演)、あのフレッド達の御先祖?っちゅう位の乗りだと思えばええと思います。
 日本でも宣伝の打ち方でヒットしたと思うのですが、配給会社には気に入ってもらえなかったようです。 レンタル屋には在るはずですから是非ともご覧下さい。一家全員で楽しめますよ。スターチャンネルを見られる方は6/13, 12:00から再放送があります。
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