ETUDE

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ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第11番 「セリオーソ」 by シュナイダーハン弦楽四重奏団

2012-05-02 | CDの試聴記
先日のBSプレミアムで、内田光子さんのコンサートをいくつかオンエアしていた。
ヤンソンスと組んだベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番から見始めたが、これが本当に素晴らしい。
楷書体の演奏だけど、その小細工なしの真摯なスタイルの中から、高貴な香りが立ち上ってくるようだ。
第2楽章が特に秀逸。冒頭、内田さんが鍵盤の上に指を置いて実際に音が出るまで、10秒も経っていただろうか。
その間、聴衆も(その映像をみている私たちも)、呼吸することも忘れてじっと待っている。
そして、そんな沈黙の中から静かに流れ始めた音楽は、まさに心に沁みる美しさだった。
バイエルン放送響も目茶苦茶上手い。
内田さんがザンデルリンクと組んだこの曲のディスクについては、村上春樹&小澤征爾の対談本に詳しく書かれているが、この日の映像はさらに進化した演奏だと思う。

さて、ここ数日ずっと聴き続けているのが、シュナイダーハン弦楽四重奏団の「セリオーソ」。
このディスクは震災の時に我が家のラックが倒壊した時に行方不明になって、きっと壊れてしまったんだと諦めていたのだけど、先日奇跡的に無事な姿で発見!
見つけた時は、「えっ、これや。あったー・・・」と思わず叫んでしまった。
若くしてウィーンフィルの名コンサートマスターの名をほしいままにしたシュナイダーハンは、自らの名を冠したカルテットを結成していた。
設立時のメンバーは、シュナイダーハン、シュトラッサー、モラヴェッツ、クロチャックというウィーンフィルの伝説の名手たち。
しかし、その13年間の活動の中で遺されたディスクはきわめて少ない。
このセリオーソは、そんな中の貴重な録音で、1949年にウィーンのブラームスザールで録音されている。

第一楽章の冒頭から、このカルテットの美質がよく出ている。
十分力強いが、決して粗野になることはない。
弾力性に富んだリズム感と柔軟なフレージングが、ときに厳めしく感じるこの音楽に新鮮な魅力を与えている。
第二楽章はかなり速めのテンポで進められる。
しかし、一見淡々と流れるようにみえて、その中のニュアンスの豊かさは比類ない。
そして第三楽章から終楽章こそ、このカルテットの魅力があますところなく出ていると思う。
スケルツォ楽章の冒頭、印象的な付点のリズムをもったモティーフが2回フォルテで力強く奏された後、ピアノで応える表情が何気ない仕草なんだけど妖しいまでの美しさを感じさせる。そして次の主題で垣間見せる夢見るような美しさ。
人によっては、甘い感じが出過ぎていると仰るかもしれないが、私はそんなシュナイダーハンたちの音楽に強く魅かれる。
続くフィナーレは、この演奏における文字通りの白眉。
息の長いフレージングで伸びやかに、そしてしなやかに奏でられる彼らの演奏を聴くと、みんなこの曲が好きになるんじゃないだろうか。絶対のお勧めです。

ところで、この演奏には特別のエピソードがある。
夭折の天才ピアニストであったリパッティが亡くなる日、最後にラジオで聴いた音楽が、まさにこの演奏だったのだ。
その直後に大量の出血を起こして、不丗出の天才ディヌ・リパッティは亡くなる。
次のリパッティ夫妻の言葉の重さをかみしめながら、私はこれからもこの演奏を聴き続けるだろう。

★畠山陸雄著 クララ・ハスキル~神が地上に遣わしたピアノの使徒~ より
(ラジオから流れるこのシュナイダーハンたちのセリオーソを聴きながら)
妻のマドレーヌが「何と素晴らしい音楽でしょう。世界がこの中に込められているようだわ!」と思わず叫んだとき、ディヌ・リパッティは「そうだね。このような音楽を書くためには作曲家は神の楽器にならなければいけないのだね」と呟くように答えたという。

■ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第11番ヘ短調 op.95 「セリオーソ」
<演奏>シュナイダーハン弦楽四重奏団
<録音>1949年2月22日・24日、3月7日

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2 コメント

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はじめまして (アキ)
2012-05-18 12:36:09
シュナイダーハンのことを記事にされていたので嬉しくなりました。
本日、5月18日が彼の命日ですね。
没後10年。
レコード会社が何かやってくれるかと期待してましたが、なにも無し・・・・
CD-Rでの復刻を望んでいます。
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>アキさま (romani)
2012-05-19 11:42:48
こんにちは。
ようこそ、おいでくださいました。
昨日がシュナイダーハンの命日だったのですね。不覚にも、まったく知りませんでした(汗)。
でも、シュナイダーハンは本当に素晴らしいヴァイオリニストでした。しなやかで格調高いという点において、歴代のウィーンフィルのコンマスの中でも抜けた存在だったと思います。

>没後10年。
レコード会社が何かやってくれるかと期待してましたが、なにも無し・・・・
まさに同感です。SPの復刻も含めて是非ともリリースしてほしいです。ただ、もし実現したとしたら、きっと激安になると思うので、嬉しい反面、音楽の価値まで下がってしまいそうで複雑な心境になるでしょうか(笑)。
でもそれは大変贅沢な悩みですよね。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。
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