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目黒殺傷事件と情報テクノロジーについて考える

2011-02-16 16:30:21 | 社会評論
 一ヶ月前の目黒の資産家夫妻の殺傷事件で、福島県在住の容疑者が逮捕された事実は被害者の無念などを思うとき、一応の解決にたどり着いて良かったと思います。
 事件には動機や手段を含め、不可解な点もまだまだあるようで、一刻も早い解明が待たれます。

          
 
 私はそれを前提にしながらも、捜査当局が容疑者にたどり着いた過程に非常な感嘆と、そして一抹の不安を覚えます。
 今回の事件は、動機や繋がりなどが全く不明ななか、僅かな目撃情報と専ら監視カメラの映像を追うことによって容疑者にたどり着いたのでした。
 これはまさに驚異ともいうべき情報技術の勝利といわねばなりません。

 関東から東北南部に在住する何千万の不特定な人物の中から、これと名指す特定の人物を見いだすことが出来る技術はすばらしいものです。
 しかし、それは同時に諸刃の剣のような反面をも持った技術ともいえます。
 この事態は、容疑者ではない私もあなたも、同様に、ある特定の日どのような経由でどこへ行ったのかが解析されてしまうことを示しています。

          

 従前から、高速道路や主要道路での監視カメラが、特定の容疑者の事件にかかわる挙動をキャッチし、それが事件解決に繋がることはありました。しかし、この場合は容疑者が予め限定されていて、その車のナンバーなども既知のもので、残された記録と照合すればいいものでした。

              

 今回の場合は、予め不特定な人物がどのように移動したのかが何千万という人々の挙動のなかから析出されたのです。つまり、私もあなたもその挙動は総て追跡可能なのです。
 ようするに、私たちはこれまでにない監視社会に住んでいます。
 この監視は、社会そのもの、あるいはその成員のセキュリティのためだといわれます。

 しかし反面、この技術は個人のプライバシーの存する余地を極限にまで限定したことを示しています。私たちは常に情報網によって監視され、然るべき時には事後的にその軌跡が明らかになるのです。
 こうした情報テクノロジーの恐るべき進展にどう向き合うのかはまさに今世紀の私たちの課題でしょう。

          

 ここに見られるのは、プライバシーとセキュリティのせめぎ合いなのですが、同様な問題は、DNA操作などのバイオ・テクノロジーの許容範囲をどう考えるのかといったことにもあります。
 この中にはクローン技術や種そのものの改変といった問題、いま話題のiSP細胞の利用も含まれます。新たな抗生物質や薬用成分の抽出から、生物種そのものの改変までです。
 さらにはナノ・テクノロジーにおいての物質そのものの改変がどこまで許容されるかも含まれます。

          

 監視カメラは情報テクノロジーの一つの成果でしょうが、それをも含めて人類はいま、新たなテクノロジーの洪水のなかで、どのようにして二〇世紀までの人間のままでいられるか、あるいは人類そのものがその身体やモラルをも含めて変わるべきなのかが試されているように思えるのです。

 
 

コメント (3)
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