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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

殺人事件を増やしたのは誰か?

2008-06-14 01:16:12 | 社会評論
 「どうも最近は殺人事件が多いようですね」
 「ほんとうにそうですね。もっと厳しく取り締まらないと」
 
 こんな会話があちこちで聞かれます。街角で、電車の中で、職場で・・。
 実際にその通りで、「私たちの耳目に触れる」殺人事件は多くなっています。しかも、尾ひれが付いて、その残忍さや手口がこれでもかこれでもかと報道されます。

 

 しかしです、さきほど、「私たちの耳目に触れる」と括弧付きで書いたのですが、実際の数字はどうなのかを見てみるとこれが実に意外なのです。
 なんとそれは、たとえば昭和のよき時代(たとえば「三丁目の夕日」の頃)に比べてもうんと減っているのです。
 戦後、殺人事件が最も多かったのは1954年(昭・29)の3081件です。次いで多かったのは翌55年(昭・30)の3066件でした。
 それに対して昨年度(2007年)は、1199件と約三分の一にしかなりません。

 そんな遠い頃との比較ではなく最近はどうだという声が聞こえそうです。
 それでは、1985年を100とした場合をとってみましょう。それ以降、殺人事件は一貫して100を割っていて、20年前に比べても決して増えてはいないのです。


     
 
 にもかかわらずです、「私たちの耳目に触れる」殺人事件は多くなっているのです。
 それはなぜかというと、次のようなマジックがあるからです。
 上と同じ基準をとり、1985年の殺人事件に関する新聞記事を100としましょう。それにたいし、現在の殺人事件に関する新聞記事は、500余りになるのです。
 これにさらに週刊誌やワイドショーが尾ひれを付けて報道し、五倍を遙かに超える報道の洪水があるものですから、私たちはつい「最近は殺人事件が多い」と思わされてしまうのです。
 
 つまり、同じ数の事件に対しその報道は五倍になり、さらに尾ひれが付いて、結果として、日本はとんでもない治安の悪い国に成り下がったかのように報じられているのです。
 にもかかわらず、国際的に見ても、日本は依然としてもっとも治安の良い国に数えられていることは間違いないのです。

 

 そうなのです。殺人事件を増加させているのは、実は、殺人者ではなく、それにぶら下がって騒ぎ立てるマスコミなのです。マスコミが、1985年程度の報道の水準に戻るならば、殺人事件は一挙に五分の一に減るのです。

 そうはいうけど少年による殺人は増えているだろうという見解もあろうかと思います。
 これについてもデータがあります。
 1961(昭・35)年には448件だった少年による殺人事件は、1973年以降、100件以下で推移しています。
 要するに、四分の一から五分の一に減っているということです。
 これもまた、増えているように思いこまされているのは過熱した報道のせいなのです。

 かつて、ちょっとした飛行機事故か操作ミスがあり、それ自身は人命には損傷はなかったのですが、それらに類似した事故などが続々と報道されたことがありました。
 ニュースキャスターは額にしわを寄せて、「最近は航空機関連の事故が多いですね」と憂慮したものでした。
 ところがです、実際にはその年は、統計的に見てももっとも航空機による事故が少なかったのです。
 多くなったのは、マスコミが普段なら報道もされない事実をこれでもかこれでもかと集めてきて、手柄顔にはやし立てた結果なのでした。

     

 すでに見たように、昨今の殺人事件や少年犯罪についても、それらが増加しているかのような物語は、マスコミの興味本位の報道によって増幅されたものに過ぎません。
 ことが殺人事件ですから、それらが詳しく分析され、再発の防止が図られることには反対しません。
 しかし、大部分のマスコミは興味本位にかき立てるのみか世論をミスリードする方向に拍車をかけています。

 「殺人事件が増えている、何とかしなければ」という偽りのデータによる善意の市民の意見を背景にいろいろな規制がなされようとしています。これはきわめて卑怯で巧妙なやり口です。
 少年法の改正や厳罰主義もそうですし、今回のアキバの事件だけとっても歩行者天国の廃止や刃渡りの大きい刃物の規制が行われようとしています。

 地域の商業祭りに関わった経験からいえば、歩行者天国はその地区の住民が勝ち取った権利であり、それが一旦返上されるや、その間の交通事情などを理由になかなか戻ってはこないのです。
 刃渡りの大きい刃物の流通規制は、それらを必要とする調理人や工作業者そして工具店を圧迫するものになりかねません。

 

 最近の殺人事件や少年によるそれは、数は減っているものの、質的にも考えるべきものを含んでいますから、このままでいいのだとは決していいませんが、それを理由にした市民の権利の剥奪や制限には大いに抵抗すべきだと思います。それはまさに、いわれなき言いがかりのようなものなのです。
 歩行者天国をなくしたら殺人事件は減りますか?
 古来より使ってきた道具である刃物をなくしたら殺人事件は減りますか?
 少年を締め付けたら殺人は減りますか。

 先ほど述べたデータに戻りましょう。
 現在報道されている殺人事件の20%は実際に殺人者によるものです。
 そして残りの80%の殺人事件の犯人は他ならぬマスコミなのです。
 殺人事件を減らす第一は、マスコミのおしゃべりを止めさせることです。

 以上は実際の行われた殺人への考察を止めろというわけではありません。
 マスコミの過剰な報道は、そうした考察すら妨げているということなのです。
 



コメント (1)
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