六文錢の部屋へようこそ!

心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

のこされた時間のざわめきなど・・・

2010-06-27 03:37:24 | ポエムのようなもの
     

      人に会わなくてはならない用件がある
      ところで 僕の方には話すべきことはなにもない
      彼にもおそらくそんなものはないのだろうが
      彼はそんなときのルールを心得 習得している
      だから自動機械のようになめらかに話すことができる

      女が通りかかって会釈をする
      その一瞬に私を計量し 評価のリストに記入する
      唇の端が少しまくれ上がったのが評価の結果だ
      しかし私は それを読み解くコードを持ち合わせていない
      ミニスカーからはみ出た足の運びが幾分ぎこちない

      「今年のボルドーは」と彼が言う
      今年も 来年も ボルドーには縁がない
      「なるほど」と相づちを打つタイミングが難しい
      「で 日照時間がですなぁ」といわれて
      急に立ちくらみがしたのは
      やはり 彼の言葉に反応してしまったからだろう

      さっき通り過ぎた女性の下着を思う
      ボルドーの赤のように深みのある
      そんな色彩ではなかろうか
      彼女はそれをどこで買ったのだろうか
      誰がそれを見ると思ったのだろうか
      僕ではないことは確かだ
      股間で戸惑っているボルドーの赤

      「で 次回ですが」と声がする
      彼がこの会話を締めようとしているのだ
      次回? そう まだ次回があるのだ
      それまでにこの退屈な話の接ぎ穂を捜さねばならない
      「もう僕には話すことはないのですが」とはいえない
      彼の方にだって取り立ててはないのだから

      夕日が傾いているわけではない
      傾いているのは僕の方だ
      これで今日が終わってホッとするのか
      それとも残念なのか 誰がそれを判断するのか
      僕であって僕ではないような
 
      あの やたらケタケタ笑う女がいるバーへ行こうか
      それとも部屋で安物のウィスキーを傾け
      古いジャズなど聴こうか
      アート・ブレーキー? エラ・フィッジェラルド?
      彼女のスキャットはすばらしい
 
      退落する言語は薄汚れていて貧しい
      そこでの対話は僕を世間へと突き落とす
      遺された時間から逆算するに
      僕の世間へのお付き合いはもはや虚しい
      同時にそこを離れた「本来」もまた虚しい

      僕に許された半径をぐるりと回してみる
      一瞬、多彩な色たちがざわめく
 

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深い眠りと久々の川柳もどき

2010-06-24 02:28:15 | ポエムのようなもの
 久々に、一度も途中覚醒がなく、所定の時間を眠ることが出来た。
 夢も見なかった。少なくとも記憶に残るような夢は・・・。
 何ヶ月ぶりだろう。いや、何年ぶりかかも知れない。
 
 結果として体重が一日にして1Kg 増加した。
 もともと平均体重を割っているので心配はない。
 しかし、これには驚いた。睡眠の力は偉大である。
 春先以来の不調から、ほぼ脱出できたのではないだろうか。

 というわけで(どういうわけ?)、久々の川柳もどき。



   【炙る】
     こんなにも炙り出された夜の記憶
     炙られたままで静かに反りかえる

   【つぼみ】
     蕾から散華へ至る設計図
     ゆっくりとつぼみを開くパスワード
     開かないつぼみのままの童唄

   【派手】
     円熟の派手さ 文句がありますか
     できるだけ派手に堕ちたい金曜日
     花なんぞ勝手に見せて逃げた春 

   【カフェ】
     カフェテラス見よう見まねの魔女といる
     待ちぼうけカフェに道化たおぼろ月
  
   【女】
     女にはこの庭がある花がある
     脚本はここで女と指定する
     定位置を決めて女の貌になる
     女はなお数え直すと皿屋敷
     敗残の果てに女と出会うゆめ

  男が「女」の句を詠むというのは危険な綱渡りでしょうか。

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【ソネット】人工庭園 またはナチュラル・ハイへと

2010-05-24 01:45:53 | ポエムのようなもの
   


     人工庭園には
     人工でないものが散りばめられていて
     それがこの庭園が人工であることを
     顕わにしている

     顕わなものの下には
     いわゆる底辺があって
     凝視や錯視 監視や蔑視などの
     高射砲陣地がある

     だからここを歩くと
     足の裏からしっかり透視される
     尾骶骨とと前頭葉の距離が
     測定され記録される

     人工庭園には魔物はいない
     のっぺらぼうを除いては・・・

       
        名古屋TV塔をよぎるUFO 合成ではありません

映画「空中庭園」ですばらしい映像を見せた豊田利晃、クスリでパクられたあと、やはりナチュラル・ハイは無理なのだろうか?
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天空へと 樹々の挑戦

2010-05-09 01:23:29 | ポエムのようなもの
       空へ天へという勢いはいつも摘み取られる
 
       太陽に近づきすぎたイカロスの墜落のように
       天空へとのびすぎて崩落し
       共通言語が失われたバベルの塔のように

       

       天のことは天に 地のことは地に
       これも一つの知恵ではあろう

       地を這って生きることを卑しむわけではないが
       なお天空を望むことを選びたい

       
 
       新しく生まれてきた私は
       どうして古いものにへつらわねばならないのか
       やがて去る私は
       どうして先人と同じであらねばならないのか

       

       たとえ摘み取られ 刈られ 伐りとられても
       しつっこく 隙を見て のびてみよう
 
       天空を諦めないふるまいには
       美しいこともあれば 醜いこともある
       みんなまとめて引き受けようじゃないか

    

       
      中学生の作文程度だな
         オッと、賢い中学生から叱られるかも

 




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愛の残酷 『すみれ』をめぐって

2010-03-22 16:43:41 | ポエムのようなもの
  

 モルバランは相変わらず野を駆けていた。
 行く手の牧場にメルリッチェルの姿が見えた。
 「やあ、ツクシでも採っているのかい」
 と、足を止めたモルバランが訊いた。
 「ちがうわ。すみれを探していたの。ほらここよ」
 すらり伸した指先は薄紫の可憐な花を指していた。
 それは折からの春の陽射しで急に成長し始めた周りの草花に圧倒されるようにひっそりと咲いていた。
 「ほら、こんな風に咲いているすみれを歌った曲があったの知ってる」
 と、メルリッチェルが訊いた。
 「え~と、モーツアルトの歌曲かな」
 「そう、ずばり『すみれ』よ。じゃあ、その歌詞を作った詩人は誰か知ってる」
 モルバランは記憶の糸をたぐって答えた。
 「あ、確かゲーテだ」
 「う~ん残念、それだけなら98点かな」
 と、メルリッチェルはいたずらっぽく笑った。

      
 
 「えっ、どうしてだい」
 「それはね、下にあるような詩なんだけど、その最後の二行はねゲーテにはないの」
 「え、ということは・・・」
 「そう、モーツアルトが書き足したの。楽曲上の効果を高めるためね」
 少し驚いたモルバランが訊ねた。
 「もちろんゲーテの了承を得たんだろうね」
 「それがそんなことはなかったみたい。今のように著作権なんて考え方も曖昧だったから、誰もとがめたりしなかったようよ。だから正解は二人の合作」
 「なんだかひっかけられたみたいだな」
 「ごめん、じゃぁお詫びにその歌を歌ってあげるわ」
 というと、メルリッチェルはアカペラで『すみれ』を歌い始めた。

  

  すみれ 曲:モーツアルト(K476) 1785年
      詞:ゲーテ(モーツアルト補作)

      すみれの花が咲いていた
      人知れずにひっそりと
      いじらしくも可憐な花
      やってきた羊飼いの少女
      軽やかな足取りで
      歌を口ずさみながら

      ああ、とすみれは思いそめる
      一番美しい花になり
      この可憐な少女の
      かわいい手に摘まれ
      胸に抱かれてしおれたい
      ほんの少しの間
      つかの間でいいから

      少女はやってくるけれど
      すみれに気づくことはなく
      かわいそうにも踏みつける
      すみれはたおれてなお歓喜
      私は死ぬ、そう死んでしまう
      でもやはり
      少女の素足に踏まれてだから

      かわいそうなすみれ!
      なんと愛らしいすみれ!


    訳詞は様々なものをつきあわせ、六文錢が簡潔にしたもの

      
                つくしと一緒に

 メルリッチェルの澄み切った歌声が辺りに響き渡ると、草木がみな背伸びをし、飛ぶ鳥や虫たちもしばしその動きを止めるようであった。
 聴き終わったモルバランは、しばし呆然としていたが、やがてパチパチと手を鳴らしながらいった。
 「改めて聴くと、この歌詞ってずいぶん残酷な面があるね」
 「そうよ、愛っていつもなにがしか残酷なものを含んでいるのよ」
 とメルリッチェルはすみれの方に向かって訴えるようにいった。
 しばらくその後ろ姿を見つめていたモルバランは、
 「俺、行くから」
 と、また駆け始めた。
 その駆ける姿勢はいつもと変わらないが、頭の中では「愛は残酷、愛は残酷」という言葉がリフレインしているようであった。


■この歌曲を収録したYouTube
 http://www.youtube.com/watch?v=ntaAg7TtOtQ


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モルバランは走る <変奏曲つき>

2010-03-20 01:22:39 | ポエムのようなもの
    


     モルバランはひたすら走った
 
     いつから走り始めたのだろう
     どこから走り始めたのだろう

     モルバランは今日も走る
     あしたもそして次の日も

     人はモルバランが地を蹴るから
     地球が回っていると思うだろう

   <変奏曲> 
     ひたすらがモルバランを走る
     走りのいつからも
     どこからの走りも
     モルバランの今日
     明日のモルバラン
     地を蹴る人のモルバラン
     地球が回ればモルバラン

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老いざれば天使みかじめとりに来る

2010-01-23 15:35:22 | ポエムのようなもの
 

 私の天使は、といって少しためらう。
 「私の」といっていいのであろうか?たまたま私の所へも現れるのであって、たぶん私の専属ではないのだろうから。
 
 いずれにしても、そいつは来るのだ。
 とりわけ最近はよくやってくる。
 気がつけば私の傍らに当然といった顔つきで佇んでいる。
  
 それが何かを語るのを聞いたことはない。そもそもそいつが話すことが出来るのかどうかも分からない。
 しかし、そいつは来る。私の傍らに佇み、私に視線を向ける。
 黒曜石のようなそのまなこは、その焦点がどこに向けられているかはっきりしない。
 だから戸惑い、いつの間にやら私の浅薄な自意識は一層おぼろげになる。

    

 おののきを隠しながらそれと向き合っているのだが、根負けするのはいつも私の方だ。
 いつしか私は掻き集めた記憶の束を、掃除機に吸い取られるようにそいつに手渡してしまっている。
 そいつは、いつも冷笑するようにしてそれを受け取る。そしてそれをを吟味することもなく、まるでやくざがみかじめ料を平然と受け取るように懐に入れて立ち去るのだ。

 例え何であれ、私が生き、紡いできたものをそんな風に簡単に持ち去られては困るのだ。
 敢えて私のアイディンティティなどとはいうまい。そんなものは時間の推移には耐えられないことを知っているから。
 しかし、記憶の連結のようなものは残っていたはずだ。
 それらがあの焦点を結ばない黒曜石の瞳の彼方で失われてしまうのはいささかつらい。
 私にはもはやこれといった記憶はない。あってもそれはほとんど脈絡をもたない断片にすぎない。

 

 開き直るわけではないが、それは、つまるところいいことなのだろう。
 すべては新しく始まるのだ。
 来たるべきものはすべて新しいものだ。
 そのためには何かを失わねばならないし、また、去らねばならないこともある。

 あ、私の天使が戻ってきた。
 今度は何を盗って行くのだろう。
 


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「津軽海峡冬景色」のメロディでどうぞ 私の元日です。

2010-01-03 02:27:00 | ポエムのようなもの
 

 私の元旦を詩にまとめてみました。「津軽海峡冬景色」のメロディでお歌い下さい。
 これは、07年に亡くなられた作詞家・阿久悠さん、ならびに、昨年なくなられた作曲家・三木たかしさんへのオマージュです。
 なお、写真は、正真正銘、この元旦の長良河畔です。

 

♪長良河畔は冬景色♪
  (「津軽海峡冬景色」のメロディでどうぞ)

 茜部(あかなべ)発の市内バスを降りたときから
 長良の川は雪の中
 一緒に行った家族たちは 誰も無口で
 ありつく飯を思ってる
 私は冷え症 携帯カイロもなく
 凍え切った財布抱え 震えていました
 ああああ~ 長良河畔は冬景色

 

 ごらんあれが信長の居城跡だと
 金華の山を指でさす
 息で曇るシニアグラス拭いてみたけど
 はるかに山が見えるだけ
 さよなら信長 あなたは遠すぎる
 雪のつぶてコート濡らすアウトレットの
 ああああ~ 長良河畔は冬景色

 

 さよなら青春 私は思い出す
 若き日々にここで泳いだ フンドシ一丁で
 ああああ~ つのる回想 冬景色







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一本の木のお話

2009-11-27 17:42:58 | ポエムのようなもの
 一本の木がありました
 白い壁をホリゾントにして佇立していました

 

 ひとが通りかかります
 そのとき、木が少し震えるのですが
 だれも気付きはしません

 
         どうしてこんな所へ自動車が顔を出すのだろう
 

 ほんのわずかな震えですから
 ひとには感得することはできないし
 ましてや理解することなど出来ません

    
 
 でも震えるのです
 わずかに小鳥がその気配に反応し
 急に飛び立ったりします

 

 すると木はまるで何かを確認するように
 もう一度かすかに震えたりするのです

  
   写真は名古屋市東区にて


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洗濯物が乾くまで

2009-11-26 11:09:35 | ポエムのようなもの
  洗濯物が乾くまで

 

  小春日和の陽射しを浴びて
  僕ら洗濯物
  乾く

  はじめはどっしりしているが
  性格が落ち着いてるせいではない
  僕らの中の湿気が
  そうさせるのだ

  小春日和の陽射しを浴びて
  僕ら洗濯物
  乾く

 

  陽射しが強まり風が手助けをすると
  湿気たちが去って行く
  アバヨと蒸発し
  アバヨと風に乗って

  小春日和の陽射しを浴びて
  僕ら洗濯物
  乾く

  ずいぶん体か軽くなった
  風が僕らを揺らしにくる
  くすぐったくなって揺れていると
  僕らが風になる

  すっかり乾いてしまった僕らは
  もう洗濯物ではないのだろうか



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