イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

崇じゃあ~~!!

2010-01-23 20:50:01 | 夜ドラマ

平日昼帯の東海ドラマ枠が『インディゴの夜』というライトタッチのイケメンズ探偵モノになって、これはこれで是とするのですけれども、親子きょうだい男と女、夫婦に愛人元カノ元カレ、入り乱れたオールドファッションドな人間関係もつれ合いモノも消滅して欲しくないよね、と、ひとり淋しく誰に同意を求めるでもなく思っていたら、金曜夜2100~テレビ朝日系(大阪・朝日放送制作)“金9(きんく)”に、『宿命19692010 ‐ワンス・アポン・ア・タイムin東京‐』という、嬉しくなっちゃうくらい長ったらしいタイトルの、思い切りよく昼帯情念調に徹したドラマが始まってくれました。

国内有数の規模を誇る医療法人の御曹司にして、東大卒アメリカ留学経験あり、将来の事務次官最有力候補でありながら政界進出の野心を秘めた切れ者若手財務官僚・有川崇(たかし)に北村一輝さん。わはは。目がシャキ。これだけでもかなり怪作の匂い芬芬。

かつては左翼学生運動に参加していたが、いまは病院経営に辣腕をふるいつつ、崇の出世をライフテーマに据える猛母・三奈に連ドラ久しぶりの真野響子さん、崇に長女の結婚相手として突然の白羽の矢を立てた与党政調会長・白井眞一郎に奥田瑛二さん、彼を見込んで婿にした大物ゼネコントップの娘で、いまもお嬢様然とした妻・逸子に松坂慶子さんと、まずは親世代を手堅く固めました。

一方崇をめぐって対立する女子ふたり、「政治家の娘だから親の眼鏡にかなった男と結婚するのが勝ちいくさ」と割り切った白井家令嬢・尚子に上原美佐さん、崇の留学中から10年越しの関係を持ち、「釣り合う女になろうと努力してMBAまで取ったのに、出世のために捨てられるなんて許さない」と復讐心を燃やす叩き上げ為替ディーラー・宣子に小池栄子さん。

“肉弾戦”なら小池さんのワンサイドと思いきや、上原さんもお嬢さまニットトップスの盛り上がり具合からすると侮りがたいヴォリュームだし、マスカラ上等目ヂカラ対決も互角の勝負です。

「お父様のために結婚するなんて、人身御供みたいでお姉さまカワイソ」と距離おいてクールに眺める計算ちゃんっぽい次女・亜希子の藤井美菜さん、崇とは異父兄弟で「兄さんは何をやらせてもデキるんだなぁ」と白旗ムードな天然くん次男・透の細田よしひこさんも一枚加わって、ヴィジュアル的に申し分ない華やかさとB級感がいい具合に渾然一体となり、昼ドラ党にはこたえられない感触の絵ヅラとなっています。

三奈同様、眞一郎も白井家の婿養子となる前に学生運動との接点があり、ふたりは子同士に縁談ができた親同士というだけではなく、はなはだ浅からぬ因縁持ちらしい。1話のアバンタイトル乗馬クラブでのシーン「…あの時代を、母は語らない。でもいつも無言の声が、僕を急き立てている。“勝利者になれ”…“おまえは時代の勝利者になれ”と」という崇主語のセルフナレーションをバックに、持ち前の濃ゆい顔に薄笑いをひそませて鼻白栗毛を駆る北村さんの姿は「よし継続視聴!」と思わせるに足る“握力”がありました。

親子きょうだい血族、或いはカップル同士の流転のきっかけに先の戦争や、敗戦直後の混乱を使うのは昼帯メロの常道ですが、振り返ると“安保闘争がらみの学生運動”を、正面切ってこの役割に援用した作はいままで無かったように思います。全共闘世代の総括とか功罪とかは、ドラマ的にあまり興味をひかれるモチーフではないけれど、考えてみれば世の中、結局は“(広く“親世代”としても可)の価値観”“親の倫理観”“親の美意識”で万事動いていると言っていい。

実際動かしているのはそれこそ官僚さんであったり、代議士、法曹、学者先生、社長さん会長さん、オピニオンリーダーお金持ちセレブの皆さんであるかもしれないけれど、彼らの行動原理は詰まるところ“親世代から刷り込まれ叩き込まれた事ども”に他なりません。

親から言われて、親の振り見て、「こういうことをすると親は喜ぶんだな」「こういうふうに生きると親みたいな目に遭い、親のような生活になるんだな」と肝に銘じさせられた信条に、或いはトラウマに従って、アノ社長もコノ先生も行動し発言した結果、現在のこういう世の中が、こういう日本が出来したのです。

先の戦争も、高度経済成長もオイルショックも、バブルとその崩壊も、みなそれぞれの時代の当事者たちが、親にならって、或いは親に反撥して、やってきたことの結果です。

親の資力、親の権勢を踏み台に、親の欲望あるいは衰退や苦境をも背負って世に出、世を渡ろうとする安保世代ジュニアたちは、ある意味“結果が出てしまった”時代を生きなければならない“宿命”の子たち。

昼帯もどきと舐めるなかれ。ほどほどのいかがわしさを湛えメッセージ性もある、意外に大化けな怪作になる予感は十分です。

人物相関図チャートに載らない脇にも、崇の部下の財務省若手くんのひとりに『新・風のロンド』『非婚同盟』での珍演怪演も記憶に新しい松尾政寿さん。三奈率いる有川病院の理事長室秘書に、意外とメガネっ子が似合う『魔法戦隊マジレンジャー』マジピンク別府あゆみさん。特撮組の起用も昼帯の王道ですが、公式サイトまでなんだかテレビ東京のドラマのそれみたいに、15インチのディスプレイから微妙に長辺がはみ出す辺り、すみずみB級チックでご愛嬌。

崇直属の上司事務次官は、この人が出ると劇中お仕事界に一定のリアリティが保証される矢島健一さん。2話からは白井政調会長の秘書役で隆大介さんも参戦、ナイス暑苦しさになってまいりました。

思い起こせば34年前は、『富豪刑事デラックス』や米倉涼子さん主演の松本清張悪女シリーズで盛り上がった“金9”。やっぱり秋刀魚は目黒、夜ドラマ連続ものはこの枠か。他局月9のヤング軽快おシャレ感と対極を行く、適度なねっちょりアナクロ感が、月河は本当に好きなんだな。週一、夜の昼ドラ。期待しましょう。

コメント
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