イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

ワサビ多めに

2009-12-11 20:39:39 | 夜ドラマ

『相棒Season 88話『消えた乗客』は、前週の予告映像で予断持って期待したような“バスジャックもの”“(移動する準密室としての)バスもの”と言うより、普通に“意外な犯人もの”と言ったほうがいい転帰になりました。

そこへ着地するまでに、Season 1『人間消失』にもあったメリー・セレスト号ばりの集団失踪ミステリー?→身代金目当ての集団誘拐?と“大ぶり”に一転二転させてから、犯人と思われる男と、運転手との接点を見つけて焦点が絞られていく過程は、意外犯人ものミステリとしてなかなか悪くなかったと思います。

月河はSeason 2『同時多発誘拐』が印象深かったため、“被害者の中に首謀者が必ずいるはず”とはなから思っていたので、自力で逃げたという保険外交員・恵(中川安奈さん)が絶対怪しいと見てしまい、結果ハズレではなかったけれど、ちょっと拍子抜け。

“乗り合い移動密室もの”の古典・オリエント急行ばりに、犯人も運転手も乗客たちも全員グル(たとえばバス会社社長脅迫目的とか)という展開もある時点までは予想しましたが、乗客が恵と犯人を入れてたった4人では迫力がなく、この可能性は早々に捨てました。これ路線なら少なくとも総勢10人、なんなら立ち乗りもいるくらい満席のバスでないと絵的な意外性が出ません。

運転手中島(松田洋治さん)が、高校教師時代の同僚恋人由紀(浜丘麻矢さん)の硫化水素自殺はストーカー男(平野貴大さん)による逆恨み偽装殺人だったことを、たまたま乗客が他にいない夜の便に乗り合わせた恵との世間話で知り、犯人と思われるストーカー男の氏名で偽IDカードを作って、恵と口裏を合わせてバスジャック集団誘拐を偽装、警察に男を手配させ見つけさせ逮捕させ、当然(偽装ジャックですから)証拠不十分で釈放されたところを襲って復讐…という計画。口裏合わせ協力してもらったと中島は思っていた、その恵のほうにもう一枚上手(うわて)の魂胆があって…というラッキョウの皮的構成もまずまずだったのですが、惜しむらくは“大ぶり”の発端から、“小ぶり”なストーカー私怨殺人へと、Google Earth的に下方収斂する落差の料理ぶりがいまいち。小さな発端の背後に巨悪が糸を引いていたというクレッシェンドな顛末より、料理のしようではずっと物語的ダイナミズムのあるお話になったはずなのですが、ややもったいなかった。作劇としていささか高度な要求かもしれないけれど、以前にもここで書いたように『相棒』でバスがらみというと期待値ハードル上がってしまいますからね。

むしろ今回は、2年前の被害者だった由紀の“本命は同性の恵”“恵を忘れようとして同職場教員仲間の中島と交際するも、趣味のダイビングスクールでバイト指導員にストーキングされ逆恨み殺害さる”“死後真相を知った中島も恵も、それぞれにストーカー男に復讐を企図”という、小ぶりな竜巻の芯のような人生に皮肉と痛ましさを見るべきかも。

男性と恋愛し結婚する普通の女性の幸福を望まず、ある程度世間を欺いてでも本当に愛する恵と、戸籍や法制の外で添い遂げることができればそれがいちばんよかったのでしょうが、まだ若く将来の長い由紀としては、先に老いて行く、しかも自分より収入の不安定な外交員の恵しかパートナーのいない人生は不安だったのでしょう。

「何としても異性とパートナーシップを築き普通の女性の人生に変えたい」と焦っていた由紀の、どこか尋常でない挙措が、不幸にもストーカーを近づける契機になってしまった。“何かから逃げよう、否定しようと必死”なたたずまいは、まじめで堅物で思い込んだら一途な理系教師マインドの中島にも、たまらなく愛おしく見えたかもしれない。切羽詰った、心理的に窮境にある人間にはある種の色気が漂うものです。

堅気の女性ひとりと男性ひとりを本気にさせ、不まじめなフリーター男をもそそった女性が、自覚なく自分の周囲に捲き起こしてしまった磁場の強さゆえに殺害され、本気の2人に復讐心を起こさせ、引き会わせ、利用し利用されの犯行に至らしめた。クレジットに役名も出ない、二転三転どんでん返し話のきっかけ担当だけみたいな扱いでしたが、この由紀という女性に視点を据えると、独特の興趣が湧いて来るエピでした。

レギュラー視聴の“相棒ラー”にとっては、神戸くん(及川光博さん)待望の花の里デビューが、右京さん(水谷豊さん)の「おやおや」であっさりめに終了したのも物足りなかったか。今Season1話『カナリアの娘』ラストで神戸が「機会は積極的に作らないと、ね」と右京に“連れてって攻勢”かけていたのを受けてのやりとりなどもありましたが、どうでしょう、サウンドトラックに『花の里ブルース』という佳曲もあることだし、一度、「右京さんが来店できず不在の間に、或る事件がらみで花の里にレギュラー関係者が入れ替わり立ち代わり千客万来する」というエピソードを作ってもらえないでしょうか。

花の里経験済みの小野田官房長、鑑識米沢さん(六角精児さん)、捜一伊丹(川原和久さん)、陣川警部補(原田龍二さん)、たまきさん(益戸育江さん)の正体は知っているが花の里は知らない組織犯罪対策5課角田課長(山西惇さん)はもちろん、その他捜一の残り二名も、大小コンビも、なぜか大河内監察官(神保悟志さん)も五月雨式に次々来る。

で、たまきさんは一貫してすっとぼけてにこやかに接客だけしている。知っている人は知っているなりに気をつかって、あるいはニヤニヤと、知らない人は知らないから当然、“特命杉下警部の行きつけ”という事実と、女将の正体に触れない。

で、結局現時点で知らない人には知られないまま、事件は解決して全員撤収、誰もいなくなったところにご本尊右京さんが「大変だったようですねえ」と現われる(←もちろん事件解決はこの人の推理のたまもの)…たまきさん「いいえ、楽しかったですよ、なんだかおもしろい人たちばかりで」

…要するに、“花の里が実質、作戦参謀本部になるのに、なっている間じゅう右京さん(だけ)が来店しない”という状況で一話できないかなと。そろそろ、花の里という“場所が主役”のエピもあっていいと思うので。

コメント
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