イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

苛々苛々

2008-10-15 21:20:31 | 昼ドラマ

10月期の東海昼ドラマ『愛讐のロメラ』929日にスタートして今週、3週めに入りました。12週はヒロイン・七瀬珠希が15歳時点の物語、言わば女装。じゃなかった助走(…どうもAniコレを引きずってるな)。今週から13年後、28歳の女医となった珠希の物語本編です。

12週は、年若くして両親を、しかも母親は末期癌と不倫愛を苦にしての自殺という形で亡くし、高校も中退を余儀なくされ、働きながら面倒を見ていた幼い弟は白血病に倒れるという珠希の苦境と奮闘、そんな彼女に注ぐ、偶然出会った病院長子息・恭介の純愛だけではなく、彼らの親世代同士の複雑かつ微妙な愛憎の神経戦をしっかり描いていて、逆に少女ヒロインの可哀想さや身分差純愛の影が若干薄いような気さえしていたのですが、同枠前クール作『白と黒』に一部“話が単線で希薄”といううらみがあったこともあり、“誰が誰に対してどんな感情を抱いているか”を1ベクトル毎に、稠密に描写することは物語に深みや緊張感を増してくれるだろうと期待していました。

特に加賀見院長(名高達男さん)と妾腹の弟・謙治(うじきつよしさん)との間の、コンプレックス・野心・同属嫌悪の混じった敵対、かつては謙治と恋人同士だっただけでなく、外に千尋(=珠希の継母。立原麻衣さん)という愛人を持ち亮太(=珠希が実の弟のように可愛がっている)という子まで作っていた夫に対する妻・映子(いしのようこさん)の空しさと寂寥感を含む孤閨の恨み、謙治の内妻・恵(北原佐和子さん)の、自分と息子・悟をいつまでたっても籍に入れようとしない不誠実な謙治への、暗い子宮的粘着など、久々に“本格的情念ドラマ”の予感十分でした。

ところが大人篇に入ってから、序盤に敷設提示された各情念ベクトルとの不整合が至る所に目立つように。

背信の夫を恨んでいたはずの映子は、その英夫が、自殺した愛人との間にもうけた亮太を養子に迎え入れ、自分の産んだ恭介と同じ兄弟として分け隔てなく育てている。

しかも英夫亡き後、元彼たる謙治と再婚したのはまあいいとして、謙治が恵に産ませた悟をも自分の息子として同居させていて、特にわだかまりもなさそう。恵は念願の入籍も立ち消え「身体に傷ひとつつけずに大切に育ててきた」愛息・悟だけ加賀見家に取り上げられてどんなに謙治と映子を恨んでいるかと思いきや、今日放送の12話ではまだ画面に登場して来ません。

今週からの13年後の物語における人間関係の変化の、最大の引き金になったのは珠希による英夫突き落とし→転落死、珠希の逮捕・初等少年院入所という事件なのですが、愛人に子を産ませるような夫とは言え愛した伴侶の命を奪われた映子が珠希を憎むのは当然としても、父・英夫が捨てた千尋の子(正確には継娘)である珠希を純粋に愛し、「弟の亮太くんを治してあげて」「高校にも行ける様にしてあげて」と父に懇願していた王子さま=恭介が、突き落とし疑惑であっさり「珠希憎し」に凝り固まっているのはどうにも違和感がある。愛しさ余って憎さ百倍ということなのか。

12週での恭介を見ていた限りでは、自分に高圧的で権威主義な父親への思いよりは、珠希への若者らしい清らかな恋心のほうがまさっていたように思うのですがね。

しかも珠希の母を、自分の父が愛人として冷たく遇し結果的に自殺に追いやった経緯は恭介は目撃もし熟知しているし、そのことで珠希に詫び「ボクはキミのお母さんを死なせた男の息子だ、キミがボクを恨むと言うなら、そばにいてとことん恨み尽くされるのも愛だ」みたいなことを言ってキスしてもいる。転落死で一転、お父さんスキーな息子に。青い愛とは言え本気だった珠希に情状酌量微塵もなし。

さらには謙治の診療所で英夫の援助のもと白血病の治療中いきなり「珠希お姉ちゃんが人殺し」と知らされた亮太までが、病癒えた13年後恭介に「オマエの姉さんはボクらのお父さんを殺した憎むべき相手だ」と洗脳され切っているという不可思議な呆気なさ。謙治の診療所で治療を受けている間、葡萄園で働いて貯めていたお金で、好物のスイカを買って食べさせてくれた姉、「姉さんは人殺しなんかじゃない」と涙ながらに訴えていた姉なのに、たかが養子に引き取られてからの洗脳でそんなに簡単に憎くなるかな。まして(恭介と同じ)実の父と言っても、英夫とは病床で1度面識があるだけ。

亮太のあっさり洗脳され具合もヘンだし、洗脳したのが映子ならともかく、恭介だというのが二重にヘン。

要するに、英夫転落事件以降、珠希を憎んじゃおかしい人が全員珠希を憎み、英夫をあまり慕っていた様子のない人が全員、英夫サマサマになっているという理不尽が物語上、まかり通っているわけです。

しかも13年後版恭介を演じる相葉健次さんは、12週の経緯を読み込まされてないのかな?13年後版珠希(いとうあいこさん)に向ける台詞が直球混じりっ気なしに“親のカタキへの暗く強い怨念”を表す口調なんですよね。“少年の日に恋した相手だからこそ”の、愛憎半ばを秘めたニュアンスがまるでなく、身の毛もよだつ冷血復讐王みたい。両極の感情に揺れる屈折を演技で表現するスキルが、モデル出身相葉さんに未だしなのかもしれないけれど。

わかりにくいけれど、わからなくもないのは、13年前珠希・亮太姉弟の面倒をみていた謙治が、医師として社会復帰を目指しながら前科のある身でかなわずにいた珠希を、いまや自分のものとなった加賀見病院に就職させる魂胆。

実は珠希による英夫突き落とし現場は映像上、かなりぼかされた表現になっており、珠希は自分が逃げ去ったあと起きた騒ぎから、自分が突き落として死なせたと信じ切っていますが、珠希が英夫に対峙する前に屋上で英夫と会話していた謙治が実行犯の可能性もある。ならば謙治の事件後の珠希への対処は、“真相を怪しみ出しはしないかの様子見”兼“少年院入りで傷がついた人生を回復させてやる罪滅ぼし”かもしれない。

とりあえず、珠希と恭介の“親同士の因縁に邪魔される純愛”という昼ドラ王道よりは、ハラの読めない謙治の動きのほうにより興味が湧く図式になってしまいました。おもしろがっていいのか、残念なのか。

そもそも、珠希が「加賀見院長のおかげで大切なお母さんが自殺してしまった、院長憎し、その息子も…」「男と女の愛なんて信じない、そんなもの信じるから皆不幸になる」という思考回路に至る原因になった母・千尋が“父の子連れ再婚相手で、血は繋がっていない継母”という設定からして疑問符なのです。もちろん、“実母同様に愛してくれて心もかよい合っていて、死なれたら実母のように悲しい”継母がいておかしくはないけれど、どうしても“ヒロインと年が近く血縁はなくて、成長後男女の感情が芽生えてもおかしくない”弟(=亮太)を設定上作るために、子連れ継母にしたとしか思えない。

とにかく一にも二にも“情念”あってこその、この昼枠です。いままで“愛”であれ“憎”であれ、“怨”であれ“妬”であれ、「こういう情念を、この人物に対して持っている人が、こうした状況でこの言動とるのはおかしいんじゃないか」という呑み込み辛さから視聴体温が低下していったケースは少なくありませんが、今作は「この人物があの人物に対して、どうしてこういう情念を持つんだろう」というところからいきなり納得性がない。

非常に今後が心配な序盤になってしまいました。

コメント
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