イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

女と女の“わ”

2007-04-03 21:13:08 | テレビ番組

『麗わしき鬼』。パソコンでuruwasikiと入力して変換すると“麗しき”と出てきます。“わ”は要らない送り仮名で、『ネプリーグ』の読みがなミサイルだったら一発ではねのけられるたぐい。しかし、この“わ”があることによって、何やらこのタイトル一筋縄でいかない、穏やかならざるもののように見えて来ませんか。『麗しき~』では行儀が良すぎるのです“猥雑”の“わ”か、“悪だくみ”の“わ”か“ワケあり”の“わ”か、はたまた“和姦”の“わ”か。

…いやその、昨日に続く“しゃらくさい”の、身をもっての実例ではないのでありまして、昨日(4月2日)スタートの東海テレビ昼ドラマ『麗わしき鬼』第1話の話です。

物語は昭和47年、四谷の小さなバーを舞台にスタートしますが、いきなり画面いっぱい黄橙色の夕陽。開店前のママさんが拡げる新聞には「山陽新幹線あす開通」「沖縄本土復帰まであと2ヶ月」の見出し。例の『華麗なる一族』EDでもそうでしたが、なぜ昭和の40年代というと、演出家さんはでかい夕陽を出したがるんでしょう。それプラス、画面の黄色いこと。万俵邸室内も年中黄色かったなぁ。こちらは一応繁盛はしているが(それでも客のツケ取り立てに難儀している描写あり)ひなびた裏街の店設定なので、店2階の住居に差し込むきつい西日といい、天井の低い店内の照明といい、ほどよい場末感に黄ばみトーンは合っています。

1話から、骨の髄まで、あー中島丈博さん原作脚本だなぁと思うのは、OPタイトルバックの制服女子高生からみショットの数々(←お父さんたち平日休みの日にひと目見たら脱けられなくなりますぜ。覚悟めされ)、ママさんの一人息子で物語の語り手でもあるゲイの男の子みちる(昼ドラでは当て馬系の役が多かった内浦純一さん怪演)の部屋にびっしり貼ってあるホモヌード写真だけではありません。

開始9分、Wヒロインの一人・富弓(川上麻衣子さん)に、幼友達でいまは同じ店で働くホステス仲間の時子(大沢逸美さん)が客の応対そっちのけで「さっき思い出したんよ」と昔話を始めます。「ひな祭りにあんたの家に遊びに行って、二人で甘酒を飲んでたら、アイツが来て台無し。アイツあんたのこと好きだったんよ、早く帰らないかと思ってもなかなか帰らないから、むしゃくしゃしてお内裏様の首もいでアイツに投げつけてやった」「ふぅちゃんはふぅちゃんでアイツにえらいやさしくしてるからヤキモチやけてしもうて」と身振り手ぶり熱弁をふるうのですが、この“アイツ”が、富弓によれば「ダンス部の高橋ひろ子舞台はひな祭り。ボーイフレンドが混じってのどうこうではなく、ひたすら女子同士、女子のみの嫉妬さや当ての思い出話なんですね。この枠04年『牡丹と薔薇』、06年『偽りの花園』でもたっぷり披露済みですが、中島さんは、本当に“女性同士のねっとり愛憎もつれ合い”が大好きなのね。

女性の作家や漫画家さんの一部にも“男の子同士のくっついた離れた”をいたく好む向きはありますが、中島さんの女×女関係への執着というか崇敬というか、観るこちらが女性で、女性というものに全然幻想を抱いていないからそう思うのかもしれませんが、もっとせつせつと切羽詰まったものがあるように思えます。ひな祭りねぇ。女の子のお祭りですよ。赤い毛氈敷き詰めて。『牡丹と薔薇』にも出てきたなぁ。

時子は結婚して女の子を産んだものの、夫(菊地隆則さん)の深酒と暴力に悩んでいるという設定のため、店がはねた後「帰りたくないなぁ、ふぅちゃんとこ行って一緒に寝たいなぁ」なんて直球なセリフもサラッと撃ち放たれます。

万事こんな地合いですから、中島さんのドラマは表向き婚約や結婚や玉の輿、夫や彼氏を寝取った、不倫した孕ませたなどのモチーフが散りばめられていても、こと男と女の色恋がらみや心理のアヤにはほとんど“色っぽさ”がありません。女優さんと男優さん、美人と二の線同士、それらしい雰囲気でひとつフレームの中に向き合っていても、恋や愛の匂いが非常に薄いのです。1話からいきなり富弓に惚れる店の客で大病院の御曹司・英矢(増沢望さん)も一応“王子さま”ポジションであるにもかかわらず、後継ぎができないまま離婚してしまったことを両親に責められると「これからジャンジャン(←“ジャンジャン”ですぜ)恋愛して、多産系の女をものにして見せますよ」なんて身もフタもない発言。

極めつけは御曹司の元妻である看護婦(山下容莉枝さん)、離婚しても元夫一族の経営する病院に勤務し続けるという図太さからして推して知るべしですが、「ねぇあなた、私、念のため別の病院でも検査してもらったのよ、子供が出来なかったの私の責任みたいに言われるけど、子宮の大きさも正常だし、排卵だって」…御曹司は産婦人科医なので、新生児室での診察中、他の看護婦もいる、そこらじゅう赤ん坊べぇべぇ泣いてる中で元妻、元夫の腕をぐいと掴んで、大声ではないがくっきりはっきり通る声で延々かき口説く。子宮の大きさに、排卵ときましたよ。もう身もフタもないどころか、ぽっかりクチ開けてすべてを無にするブラックホールのようなあけすけさ。元妻→元夫の構図ではありますが、“別れたけれどまだ未練な女ごころ”なんてものとは対極です。

マンネリだ、トンデモだ、ドラマじゃなくてネタだと近年言われ続けながら、中島さんの昼ドラに根強い主婦人気があるのは、意外にこの辺かなという気がします。女×女の愛憎絡み合いに関しては、月河は女子校にかよっていたことがあるので満更ちょっとはあり得なくもないかな程度で、Wヒロインに心底感情移入して観ている女性視聴者がそんなに多いとも思えません。

ただ、月河も自他ともに認める中年に入ってふと気がついたのですが、ドラマや映画で表現される、ヒロインとヒーローの、見つめ合った目と目に恋の予感…とか、ふと触れ合った指先が胸をかき乱して…式の、少女漫画なら一気に背景に花が咲き乱れるような“ほんわかロマンチック”、“せつなく胸焦がすラブ”みたいなものが、何だかまだるっこしく邪魔くさく感じられることがあるのです。別に、いやらしいとか汚らわしいとかふしだらだとか舎監めいたことを考えるではなし、「若い人たちはいいわねぇ」なんて上品に微笑むほど枯れてもいないのですが、特にゴールデンによくある漫画原作のラブコメ仕立てで“友達以上恋人未満”みたいな行ったり来たり、すべった転んだを見せられると「ハイハイあんたらそう行くわけね、わかったからホレ議事進行」みたいな気分になることがままある。

『美しい罠』のように、“好き合ってるくせに、やりたいくせに、顔合わすたび勝ったの負けたの”言ってる屈折した呈示のされ方のほうが、かえって素直に「この二人なんとかして幸せに結ばれてくれないかしらヤキモキ」とシリアスに見守ることができたりする。

これを加齢と言わば言え。TV仕様のロマンチックにもう騙されなくなった、乗れなくなった年代の女性には、恋も愛も、“男に向けた、男にアピるための女性性”をも、身もフタもない記号化して驀進する中島ドラマがある種、爽快なのだと思います。

ところでドラマ内の時代考証、最近は『華麗』筆頭にカネかけててもめちゃくちゃだし、いちいち難クセつけてたらドラマ自体を楽しめないのでたいていはスルーするのですが、昭和47年3月時点でみちるが女装して歌う曲目がちあきなおみ『喝采』はおかしい。あの曲は同年のレコード大賞受賞曲ですが、リリースされたのは秋以降のはずです。ちあきさんは70年に『四つのお願い』がヒットしてブレイクはしたものの、この頃はひと休み気味で、いきなりみずからの半生記風に重厚路線で来た『喝采』の前に、『禁じられた恋の島』というちょっとB級な甘い曲もありましたが、それすら3月にはまだ出ていなかったと思います。リアルタイムを生きた者の責任として、一応ダメ出し。

でもま、お店のBGMに、ちあきさんのB級路線時代の快作『X+Y=LOVE』もしっかり流れていたので、実質帳消しにしてあげてもいいかな。…“あげても”って、やっぱり結局シャラくさくなってしまったな。

コメント (2)
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