韓国で製作されたテレビドラマ、いわゆる「韓ドラ」が日本中を席捲しており、これを嘆く日本人によるデモまで行なわれ、話題紛々である。
当ブログ主もまた韓ドラを数多く視聴している者の一人であるが、もっぱら歴史ドラマである。
だからといって無批判にのめり込んでいるわけではない。
近代以前の韓国の王宮などの建物の内外も人物の衣装や軍装も煌びやか過ぎることに対しいくらなんでもそれほど煌びやかであったはずはないと思いながら、今まで知らな過ぎていた韓国の歴史を学習する上でも大いに参考になることは確かである。
日本のテレビドラマでの歴史物といったら、ほとんどが源平、戦国末期、忠臣蔵、幕末維新の4つのジャンルで占められるのだが、韓ドラの場合は古代の場合も高句麗物、新羅物、百済物はむろん、中国側が中国の地方史として捉えている渤海王朝の物までドラマ化され、古代末期に韓半島を統一した高麗王朝物、そして李氏朝鮮物の場合も始祖の李成桂の時代から五百年後の李朝末期に至るまでほぼ網羅されていると申してよい。
ここで紹介しているのは李朝時代後期の妓生(キーセン)の女性を主人公にした『ファン・ジニ』の場面であるが、つい近日に録画していたのを眺めていたら、なんと山形の代表的伝説である「阿古耶姫と松の精との悲恋」のストーリーとそっくりな場面にでくわしたので大変驚くとともに妙な感動を覚えた次第である。
◆一番上の写真◆ 屈強な男たちが遺体を入れた棺を乗せた荷車を曳こうとしながら、何故かびくともしないでいるシーンである。棺には主人公の妓生ファン・ジニの恋人の遺体が収められている。彼は支配階級「両班」の御曹司だが、低い身分の妓生との結婚を両親など周囲に反対されて悶死している。
◆二番目の写真◆ 男たちが荷車を動かせないでいるところに主人公のファン・ジニが出くわした場面。場所は妓生たちの芸能教習所の門前
◆三番目の写真◆ 荷車が動かないのは亡き恋人が死んでもなお少しでも長くファン・ジニのそばに留まりたいからであるが、彼女は棺に別離の挨拶として優しく手を触れた。すると荷車はすんなりと前へ進むことができた。
さて、山形の「阿古耶姫と松の精との悲恋」の伝説であるが、時代設定は白鳳時代だから奈良時代よりも古いことになっている。
阿古耶姫は山形のシンボルの山である千歳山(下の写真)の松の精の化身の若者と恋仲になるのだが、その松は川の氾濫のために流された橋の再建のために切り倒されることになり、若者は自分が松の精であることを明かして消え去った。
だが、大勢の屈強な男たちがいくら力を入れても倒された松は動かず、びくともしない。そこでかけつけた阿古耶姫は横倒しされた松に向かって「川の流域の人々のお役に立ちなさい」と言いながら優しく手で触れると、松はするすると動くようになった。