退屈日記

とりあえず日々のつれづれを。

「流れ」について

2012-02-10 03:23:01 | Weblog
くもり。昼に吹いた風は夜になって消える。

小林信彦「流されて」を読む。

タイトルは幸田文「流れる」と
それを原作にした同名の成瀬巳喜男の映画に由来するもの。

「和菓子屋の息子」「日本橋バビロン」に続く自伝的三部作の完結編。
「丘の一族」に描かれた人物たちも出てきてまさに「集大成」といった趣き。

「これほどまでに痛めつけられる人生よ」と思う一方
バルザックのような「奥行」のある作品群を完成させた著者には脱帽。

敢えて人物の実名を出さずに描くことで
「背景」がオ-バーラップされ登場人物の輪郭が明瞭になったりする「意匠」もあり。

プルーストに学んだという「会話のうまさ」をあらためて感じつつ
「ラスト」の処理も著者の作品に親しんだ者としては「お馴染み」で「小林印」を感じる次第。

どこにいても否応なく「ストレンジャー=異人」にされた「経験」は辛いけれど
それらがこうした「人生の感慨」を感じさせる作品に結晶されるというのは「昇華」と呼ぶべきか。

著者はどうしてある種の「どうしようもなさ」を持つ男たちに付きまとわれるのだろう。
そういう「星の下に生まれた」というより「オーラ」のせいだとしておく。

何かが彼らをそうさせるのだ。
もちろん著者にとっては迷惑至極でしかないけれど。

東北大震災で体調がすぐれないようではあるものの
次作が出るのを期待するひとりであるので勝手ながらよろしく。

とはいえ図書館から借りたもので
「身銭」を切っていないのは申し訳ないと言わざるをえず。
コメント
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