日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

“一人負け”ドコモが、それでもiPhoneを導入できない理由

2012-11-13 | ビジネス
NTTドコモが苦しい状況に追い込まれています。先月末近くに営業利益の見通しが800億円の減額予想となる修正発表したその余韻が残る中、今度は10月の契約数で約19万件の転出超という06年のナンバーポータブル制度始まって以来最悪の数字を記録し、iPhone包囲網による影響がかなり深刻であるという状況が露呈しています。

もちろん現状の数字がいかに悪化しようとも、それが即刻“巨人ドコモ”の経営危機を招くような話ではありませんが、少なくとも同社の心中は穏やかでないことだけは確かなようです。auのiPhone導入から1年。やはりスマホにおけるiPhoneの強さは尋常ではなく、現象面を見る限はいよいよ「iPhone導入近し」を予感せざるを得ない“一人負け”状態に陥ってきたと言えそうです。

巷では利用者からドコモに対しての「iPhone導入待望論」こそ大いにあるわけで、利用者の選択肢を増やすと言う意味での利用者ニーズへの対応の観点から考えれば、もうとっくにiPhoneを導入していて不思議のない状況は続いてきてもいるのです。しかし、ドコモはなかなか踏み切れないまま現時点の“一人負け”に至っています。

一般的にドコモのiPhone導入の障壁として囁かれているのは、アップルからの膨大な販売ノルマのオファーがネックである点、多額の投資を投じて開発してきたiモード、おサイフケータイやワンセグなどのガラケー機能がiPhoneには乗らず、かつドコモ市場とiTunesの競合による機器周辺での収益源の大幅な減少が免れ得ない点などです。

確かにこれらはドコモにiPhone導入を踏みとどまらせる要因であることは間違いないのでしょうが、ここまで来ると私には最大のポイントは別のところにあるように思えています。なぜなら、同じような生業で日本のガラケービジネスを共に支えてきたauも、ソフトバンクとの商品競合状態でありながらiPhone導入の効果をハッキリと見せているわけで、ドコモがもしiPhone5からの導入を決めていたなら市場の体勢は逆転し“ひとり勝ち”はほぼ間違いなかったと、この一年で明確にドコモの導入後が見えるようになった感さえあったからです。

では、ドコモのiPhone導入に向けた真の障壁は何なのでしょう。個人的には、親会社NTTの最大の株主がいまだに日本国であり、“国策企業”であるか故の苦悩がそこにあるのではないかと思えています。すなわち“国策企業”NTTドコモは、iPhoneを導入した場合に国内産業に対していかなるマイナス要因を及ぼすのか、それを常に考えなくてはならない立場にあるのではないかと。かつ大株主である日本国も、ドコモにそれを求めているのではないかと。

ドコモがiPhoneを導入した場合に考えうる最大のマイナス要因は、国内携帯メーカーへの打撃ではないでしょうか。ドコモがiPhoneを導入し、アップルから課される膨大な販売ノルマの達成に向けて邁進するならば、国内メーカーの携帯、スマホの売上は大幅にダウンするであろうことは想像に難くありません。ドコモの販売数量の半分以上をiPhoneにするぐらいの契約をアップルは突きつけているでしょうから、これは大変な事態になります。

ドコモは、近年サムスン、LGなどのスマホを積極展開してはいますが、あくまでメインは富士通、NEC、パナソニック、シャープ、ソニーなど国内の名だたるメーカー群なのです。サムスン、LGの売り上げが落ちることは、ハッキリ言って知ったこっちゃないでしょうが、国内メーカーはそうはいかないのではないかと。二人三脚状態に引っ張り込んでここまでガラケー産業を支えさせてきた責任もあるでしょう。それと何より、彼らはそうでなくとも軒並み経営危機真っただ中の大企業群でもあるわけです。

ハッキリ申し上げてドコモがiPhone導入ということになれば、上記メーカーの大半は携帯事業からの撤退を余儀なくされることでしょう。となればどうなるか。一事業分野の不振撤退はその企業にとって、ヒト・モノ・カネあらゆる面で大変なダメージを被ります。青息吐息のシャープなどは息の根を止められかねません。大幅赤字のパナソニック、大リストラ真っただ中のNEC、再生の道が見えないソニー…。下手をすれば彼らの行く末も危うくする懸念すらあるのではないかと。

そんなことにでもなったら、我が国の家電産業は壊滅状態になり日本経済も大変な状況に陥るでしょう。ドコモの親会社NTTの筆頭株主である日本国は、黙ってiPhone取り扱いを良しとするでしょうか。正式な筆頭株主名は財務大臣です。せっかく政治家を動かして通した増税政策もすべて水泡に帰してしまう、そんなことを易々と認めるハズがありません。

こうやって考えると、ドコモのiPhone導入は同社の社内事情に関係なく、今はタイミングがあまりに悪すぎる。まず当面、現状の経済環境が改善しない限りにおいて、ドコモのiPhone導入はあり得ないと思うのです。

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