日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

「ドコモiPhone投入」報道、今度こその3つの理由

2013-04-11 | ビジネス
「ドコモが今夏にもiPhone投入へ」。
もう聞き飽きた感のある見出しフレーズですが、先週末の報道の主は産経さん。これまでたびたび日経さんが“飛ばし”続け、いい加減“狼少年”も老けこんで“狼オヤジ”になるんじゃないかと思っていただけに、産経さんのご登場はなんともフレッシュな感じがしてはおります。
★「ドコモ、今夏にもiPhone投入へ」(産経ニュース)
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130405/biz13040519080019-n1.htm

このテーマに関しては、これまでも何度となく拙ブログで取り上げ多くの注目をいただいてきただけに、今回もこのタイミングで再びiPhone導入の見通しについて一言言及せねばなるまいと、筆を執った次第です。で、いきなり結論から申し上げておきますと、今回の「iPhone投入へ」はかなり確度が高いお話であると思っています。理由は3つ。順を追ってご説明申し上げます。

第一の理由は、決算発表を前にドコモのおかれた環境です。産経さんの記事にもありますが、2012年度の携帯電話の契約純増数をみるとドコモは大手3社中最下位かつソフトバンクの半分以下という結果に終わり、しかもナンバーポータビリティ(MNP)で見ると、140万件以上の転出超という“ひとり負け状態”もかなり深刻なレベルに達してしまいました。auがトップの100万件を超える転入超というの大復活ぶりを見るに、iPhone取り扱いの有無が明らかに明暗を分けたと言っていい結果であるでしょう。

ドコモは昨年より加藤薫新体制がスタートしたものの、いきなりの大苦戦続きで初年度から業績予想の下方修正に追い込まれる等散々な一年であり、就任1年目になんの目ぼしい実績も残せなかった加藤氏にとってはいきなり二年目の今年度が正念場になってしまいました。それもこれも、大手三社で唯一iPhone扱っていないがための体たらくであり、もうドコモの我慢も限界であると考えるのが普通でしょう。あとは条件次第という段階に昨年秋以降入っていると、拙ブログでもこれまで散々書き散らかしてきたところでもあります。
★「状況一転、ドコモがiPhoneを扱う条件」
http://blog.goo.ne.jp/ozoz0930/e/dfc0254165688d2b623c065ec293064d

「iPhone投入報道」是認を後押しする第二、第三の理由は共に、以前拙ブログで論じWeb上でかなり話題にしていただいた、大株主である日本国も懸念するドコモがiPhoneを扱った場合に予想されるガラケー・ビジネスモデル仲間である国内携帯メーカーへの影響が、ここにきて微妙に変化してきたということに絡むものです。
★「“一人負け”ドコモが、それでもiPhoneを導入できない理由」
http://blog.goo.ne.jp/ozoz0930/e/82833ed595dc816cae701df270d6c74a

まずはシャープ。以前私は、ドコモがiPhoneの取り扱いをアップルの条件に従っておこなうなら青息吐息シャープの“おくりびと”になるのは確実視され、そのことが景気の腰を折ることになりかねないと申し上げました。あの段階では台湾企業鴻海からの出資とりつけもままならない状況下であり、iPhone導入による携帯事業の大打撃によって息の根を止められれば完璧な破産状態に追い込まれかねなかったからなのですが、その後省エネ液晶「IGZO」狙いとも思われるサムスンの出資提携にこぎつけたこと、すなわちドコモ携帯の製造先であるサムスンという支援先確保は、イザと言う時にサムスン=シャープ統合というウルトラCが見込めたと言う点で、ドコモにとって願ってもない流れになったのです。

そしてさらにもうひとつ、今回のiPhone取り扱い報道の信ぴょう性を裏付ける最大のポイントでもある理由が、NECの携帯事業撤退のニュースです。
★「NEC携帯電話事業撤退」(朝日新聞)
http://www.asahi.com/business/update/0329/TKY201303280699.html

NECは正式発表はしていないようですが、どうやら撤退の事実は間違いないようで、中国国籍のPCメーカーLenovoへの事業売却で本決まりというのは既に業界筋で語られているところであります。NECと言えば、元祖二つ折り携帯をはじめとして富士通と共にドコモのガラケー・ビジネスを支えてきた運命共同体的携帯電話メーカーであり、ドコモとしてはiPhone導入後も国内メーカーシェアトップの富士通の生き残りはなんとか見通せるものの、NECへの悪影響は最大の悩みの種であったわけです。それが、海外勢への事業売却による撤退が決まるなら、政府ともどもこれに勝る朗報はないと胸をなでおろしているに違いないと、思うわけです。

それとNECのシェアの問題が実に微妙なわけでして、10年前には20%超のシェアでトップを走っていた同社の現在の国内シェアは7%足らず。年間4000万台の国内携帯電話出荷台数で計算すれば約300万台弱がNECの取り扱い台数なわけです。ここで重要なのは、この台数のドコモにおけるシェアです。ドコモの2012年度の販売計画は期中の上方修正を受けて1400万台となっており、NECのシェアは内約20%を占めています。この20%が何を意味するかです。

加藤薫社長が年初の「iPhone導入の可能性」についての発言を見るに、「販売台数の2~3割なら扱ってもいい」というものがあり、まさしく「2割」はNECのシェアに合致するわけです。さらに深読みをするなら、将来的にシャープがサムスンと統合したケースまで含めれば、NEC+シャープの販売シェア分はそっくり海外勢にとって代わられるわけで、上限で「3割」超のシェアをiPhoneに振り分けるという戦略は十分に成り立つわけです。すなわち、携帯事業から撤退したNECのシェア分約20%を当面のiPhone割り振りとして取り扱いを開始し、シャープ、サムスンの統合を視野に入れながら段階的に30%超までシェアを伸ばすという交渉カードを、ドコモが手にし既に交渉に入っていると考えていいのではないでしょうか。

残された問題はアップルの対応と、自社コンテンツを販売できないプラットフォームであるiPhoneに対するドコモの対応をどうするかでしょう。前者はアップルの胸の内ひとつですが、こだわりジョブズ氏亡き後のアップルがiPhone販売に関する頭打ち感と次なる一手に関する無策感を真剣に捉えているのなら、ドコモのiPhone導入に向けた歩み寄りは十分検討の余地があるのではないかと思うのです。となると問題は後者でしょう。

ドコモが販売台数確保にこだわるあまり、iPhoneのシェアを拡大させ過ぎることはコンテンツビジネスの先細りを意味し、確かに“ドカン屋”と化して収益環境を一気に悪化させることにもなりかねません。しかし転んでもただでは起きない官僚組織のドコモが描いている戦略は、恐らくそんなに単純ではないでしょう。「品ぞろえ」としてiPhoneの取り扱いを開始することで、ドコモは「アップル=iPhone」の内部事情を今以上によく把握できることにつながるわけで、むしろそのスパイ的活動にこそiPhone導入のメリットを見出し、iPhoneとの比較対照販売において勝てる商品・サービスづくりによるスパイ潜入逆転劇を虎視眈々狙っているのではないかと思ったりもするのです。

今月末とも言われるNECの携帯事業撤退の公式発表を受けた来月のNTTドコモ決算発表の場において、正念場加藤政権第二年度の今年度計画達成に向けた具体的施策が明らかにされるわけですが、上記のような考えを巡らせてみるなら、いよいよXデー発表に向けた諸条件は整いつつあると強く感じる次第です。

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