日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

経営のトリセツ75~不況下で進める「社内改革」成功へのポイント

2009-12-10 | 経営
改革に抵抗勢力はつきものです。人間誰しも、他人から仕掛けられる変革は心地よいものではありません。企業コンサルティングの仕事は基本的には変革を仕掛けるビジネスであり、社内における「抵抗勢力」をいかに巻き込みうまく前に進ませるかが「改革」の成否に大きく影響します。ポイントは、決して強引過ぎないこと、でも決して甘すぎないことなのですが、これがなかなか難しい訳です。

改革成功のためには、まずは「反対勢力」の反対理由を知ることです。なぜなら、こちらがロジカルに物事をすすめるためには、相手のロジックをまず理解する必要があるからです。中小企業経営者が「改革」進行の場面においてよく失敗するケースとして、「アタマごなし」「強引」「押さえつけ」等々のトップであるが故の非ロジカルなやり方があります。「反対勢力」を見つけたら、まずはその理由を正面から、あるいは側面から十分にさぐり、相手を理解したうえで先に進めることが肝要であります。

ジョセフ・H・ボイエット、ジミー・T・ボイエット著の「経営革命大全」には、人が変革に抵抗する主な6つの理由があげられています。
(1)否定的な結果をイメージする
(2)仕事が増えるのではないかという不安
(3)習慣からの脱却
(4)コミュニケーションの欠如
(5)組織全体にわたる調整の失敗
(6)社員の反乱
がそれです。

同書ではさらに細かい反対理由を、ジェームズ・オトゥールが周囲が自分に反対して組織変革が進まない時に眺めるべき表として作成した「変革を拒む33の憶見」を引用提示しています。長いですが解説を付してすべて紹介します。
1.恒常性維持:「現状が正しい」という保守的意見
2.前例主義:前例を重んじるべき、または前例がないことは止めよという意見
3.惰性:なんとなく今までのままがいい 
4.満足:現状に満足している 
5.機が熟していない:「時期尚早」という言い訳。でも正しく分析はしてない
6.不安:大抵変化には不安が伴うもの 
7.自分にとっての利害:現状で利益を得ている者が要職にあると厄介である
8.自信の欠乏:変化ついていけない気がして反対する 
9.フューチャー・ショック:改革に圧倒され倒れながらも抵抗する
10.無益:何の役にも立たないと突っぱねる 
11.知識不足:改革の意義が分からずに反対する
12.人間の本性:人間は元来利己的であるという点が邪魔をすることもある
13.冷笑的態度:せせら笑って協力しない 
14.つむじ曲がり:あまのじゃくとも言う 
15.一人の天才vs大勢の凡人:「俺たち凡人はついていけません」という抵抗
16.エゴ:自分勝手 
17.短期思考:結論が出るのが先々なことは嫌な短気 
18.近視眼的思考:すぐ先しか見えていない
19.夢遊病:よく考えもせずにフラフラしている 
20.スノー・ブラインドネス:長いモノにはまかれろ思想 
21.共同幻想:何事も先入観で見るという姿勢 
22.極端な判断:「変えようとすることはすべて間違っている」という考え
23.例外だという幻想:「他でうまくいってもうちでは無理」という考え
24.イデオロギー:人の考えは千差万別。だから反対 
25.制度の固さ:現状は変えられないという先入観 
26.“自然に飛躍なし”という格言:無理な変革は意味がない
27.権力者に対する独善的忠誠心:現在のやり方を決めた過去の権力者への忠誠心 
28.「変革に支持基盤なし」:結果の見えない変革よりも現状の利益を支持する 
29.決定論:意図的な変革などありえないという決めつけ 
30.科学者きどり:屁理屈をこじつけて反対する 
31.習慣:習慣を変えたくない
32.慣習第一主義:変革は社会に対する非難である、という主張
33.無思慮:何も考えないから反対

日本語訳の下手さ加減の影響か、似たようなものもいくつかありますが、これだけ反対理由がサンプル化されていれば、大抵のケースでは相手方の反対理由が思い当たることとでしょう。反対理由が明確化されるなら、あとはその反対理由が誤っていることを、「理由」を明確に付加して説明することです。すべての説明において、「理由」有無こそがロジカルであるか否かの大きな決め手になるということを常にお忘れなく。

それでも、相手が頑固な場合どうするかですが…。そんな場合は、人を動かす大きな力は「不安」がもたらす、ということをうまく利用します。E.H.シャインは変革における人間の大きな不安をとして、「SA(Survival Anxiety=先行き不安)」と「LA(Learning Anxiety=学習することの不安)」のふたつをあげています。「SA(先行き不安)」は「このままではダメになりそうだという不安」、「LA(学習することの不安)」は「新しいことを学習する不安」です。経営者が社内改革をうまくやろうとするなら、「SA>LA」に持ち込むことです。 すなわち「このままではダメになりそうだという不安」を煽りつつ、「新たな環境順応のために学ぶことは難しくない」という意識を植え付けてあげるのです。前向きに学んだり取り組んだりする意識を危機感の後押しによって醸成する訳です。そのためには、改革に向けた研修や改革プログラムのレクチャーが必要になります、改革において研修やレクチャーがことのほか重要なのはこの様な理由からでもあるのです。

最後に、経営者が改革の反対理由を理解しロジカルに説明しかつ、「不安」活用による前向き方向の受け皿を用意しても一向に進まない場合ですが、これは経営者自身の改革の進め方に問題がある場合がほとんどです。J.P.コッターは、「組織変革が失敗に終わる8つのつまずきの石」として、経営側の改革における落とし穴を提示しています。
(1)現状満足を容認してしまって十分な危機感を与えられていない
(2)変革を進めるのに必要な強力な社内連帯を築くことを怠っている
(3)ビジョンやミッションの重要性を過小評価している
(4)従業員にビジョンを十分にコミュニケートしていない
(5)新しいビジョンに立ちはだかる障害の発生を放置してしまっている
(6)区切りごとに成果、進捗を確認することを怠っている
(7)あまりに早急に勝利を宣言している
(8)変革を企業文化に定着させることを怠っている

考えようによっては改革に反対する勢力の存在が明らかになった場合、経営者がこの8項目にあてはまる場合の方が多いのかもしれません。だとすると、経営者は反対勢力登場の際には、その反対理由を探るよりも前に、まず自らの改革のすすめ方に過ちがないか否かこの8項目を自己診断することが肝要であるのかもしれません。